浩輝新天地へ!!
「ん……ここは?」
目が覚めると俺は見知らぬ土地にいた。
「そうか、俺神様のミスで異世界に飛ばされたんだよな…」
一瞬夢だったのではと思い期待したが、自分の服装を見てその可能性がないことに落胆した。そして何より思ったのが。
「なんで? 剣と魔法の世界とか期待させるようなこと言ってたじゃんか……なんでだよ……!」
剣と魔法の世界と聞いてまず俺は魔法!! と思った。そして転移先ではゲームのキャラクターを模して再構成してくれるとまで聞いていた、つまりステータスなども引き継がれる。
「なんで……なんでキャラメイクだけガチってストーリーをなんも攻略していないキャラなんだ……!? そして俺の身長は変えないとか言ってたのになんで中学生ぐらいまで縮んでんの……?」
やっぱりあの神様は何かやらかさないと気が済まないらしい。
確かに攻略を進めていないこのデータには伸びしろがあった。
「でも……これゲームじゃねーから!! 全然強くてNEWゲームでよかったじゃん!!」
このアカウントはオンラインMMORPGゲーム「ムスペル・レギルス・オンライン」というゲームのアカウントだった。
「同じゲームでももっといいのあっただろう……」
このムスペル・レギルス・オンラインにも魔法などの要素はいろいろ存在し、俺はそこまでやりこんでなかったけど、それなりの装備がそろっているメインアカウントが存在した。
「まあ、それはそれとして、問題はこの身長だよなぁ……」
そう一番俺が問題視しているのが容姿のことであった。キャラメイクを頑張っただけあってイケメンではあるのだ。
黒髪で赤色の瞳、黒のスーツのような服装である。
そして身長に合わせて顔も変化しているので違和感もない。しかし…。
「子供が剣振り回すとか怪しすぎるだろう、怪しすぎるだろ……」
そうなのだ、ステータスだけでなくあの神様は持ち物も持たせてくれていた、それは装備品も同様に。
今はただの邪魔なので、なんか変な袋に入れている。というか装備品を外したいと思ったら勝手に吸い込んだ。
もういろいろとおかしすぎて目から汗が出そうだ。しかし、そろそろ行動しなくてはならない。そう異世界なのだ、何があるかわからない。
どうにかして人のいる場所へに行かなくてはならない。
そしてあの神様のことだ、どうせほかにも爆弾を色々投下してそうだ。
だからまず、安全を確保するために行動しなければならない。
「とりあえず周りは木や草だらけだな、森か林にいるのか?」
そして葉が色付いていることや体感的に、今は日本でいう春過ぎから秋にかけなのだろう。
そして木々の背が低くないことからして高い場所には位置していないと思われる。木々で高い場所に生息するものは環境に合わせて背が低く育つからだ。
「とりあえず水源を探さないとな……っとこれは」
見つけたのは、均等な幅の物が何度も通った跡だった。そして、そこにだけ草が生えていないのだ。
「これは馬車の跡か……? そうか……剣と魔法の世界! つまりこの世界は科学が発展してない世界なんだ! ということは!」
科学が発展していないということは、水源は昔ながらの川を利用している可能性が高い。
つまり川を見つけて下流へと向かい歩けば、小さくても町や村を見つけれるかもしれない!
「あった……」
いくらか時間が過ぎ空が黄金色に染まり始めたころようやく川を見つけることができた。
「とりあえず、火を起こさないとな」
今日一日歩き回って、いろいろな生物が見れた。
昆虫類や基本的な動植物に関してはほぼ地球と同じだった。
しかし、その中には狼か野良犬のような痕跡もあったので、気を付けなければいけない。
食料は、道中食べれそうな木の実を採取しておいたが、数は少ない。
夜はやれることがないので寝ることにした。
「ふぁ~…土の上って硬くて、たいして寝れないな……」
昨日採取しておいた木の実を口に含み、川の下流のほうへと歩みを進めた。
進み始めて15分くらいだろうか、馬車の走る音のようなものが聞こえてきた。これを逃してはならないと思い、音のするほうへ急いだ。
すると馬車を見つける。黒色の木でできた客車を引いた。
「あの、すみません!」
言葉が通じないことも覚悟していたが、馬車は歩みを止めない。
「少し強引だけどやるしかない……!」
俺はイチかバチか馬車の前に飛び出した、すると御者は驚いて馬車を止めた。
「君、危ないじゃないか。もう少しで踏みつぶすところだったんだぞ?」
そう御者は優しく注意してきた。
どうやら言葉は通じるらしい。
「ごめんなさい、すごく困っていたのでなりふり構っていられなかったんです」
「そうだとしてもやりすぎだ。それに助けてやりたいが、こっちも仕事中でね、人を乗せているんだ。だから今君を乗せることができないんだ」
そういわれ、俺は途方に暮れかけたその時、客車の扉が開いた。
「どうかしたのかい? 先ほどからどうやら馬車が止まっているようだが」
仕事の依頼主であるだろう人が客車から降りてきた。
見た目は30代になるでろうか、という感じの金色の髪、サファイアの色をした吸い込まれそうな瞳をした男性だ。
「はい、どうやら迷子の子供がいたようで」
「な!? こんな森の奥に子供が?」
間違いなく俺のことだ。この男性に罪悪感を覚えてしまう。
「その……馬車を止めてしまい、ごめんなさい!」
「君が迷子の?」
「はい」
「そうか、しかしこんな森の奥で何をしていたんだい?」
その瞬間俺はやってしまった、と思った。そうなのだ子供が一体なぜこんなところにいるのか、俺には今、身寄りや知り合いすらない状況だ。
これはまずいと思い咄嗟に嘘をつく。
「えっと、私は祖母と二人でこの森にひっそりと住んでいたんです。でもついこの間、祖母が亡くなり身寄りがなくなったので、街に行けば何とかなるかなと思ったんです。私一人ではどうしようもないから……」
ここまで何とかひねり出すように答えたが、これは怪しい。話が無茶苦茶だ。
しかし、今俺が考えついた限界だった。
するとこの男性はいきなり俺を抱きしめた。急展開過ぎて理解が追い付かない俺は驚いて体をはねさせてしまった。
「すまない。辛いことを聞いてしまったね。これも何かの縁だろう、一緒に街まで行こうか」
正直こっちはそれどころではなかった、知らない男性に抱きしめられているのだから。
「いきなり抱きしめたりして悪かったね。私にも君と同じくらいの娘がいてね、うちの子が君と同じ境遇にあった時のことを思うと。大丈夫、街についてからもしばらくはうちに居るといい。いろいろと聞きたいこと、教えてほしいことがあったら教えてあげよう」
「いいんですか? ありがとうございます!」
そうか、この人娘さんがいてそれで。勝手な作り話をしてしまい、胸にチクリと痛みが走った。いつか本当のことを話せる日が来るといいな、と思った。
「いいんだよ、私の名前はグレイラッド・ルミエール、グレイさんと呼んでくれ。周りは皆そう呼ぶよ。君は?」
「私は嘉瀬宮浩輝です。浩輝と呼んでいただけると。よろしくお願いします!」
「わかったよ浩輝君。さあ馬車にお乗り、私は御者と話をしてこよう。」
グレイさんに感謝しつつ馬車に乗ると、そこには一人の女の子がいた。
「あなた誰よ! それにお父様はどこへいったの!?」
おそらく先ほどの話に出てきたグレイさんの娘さんだろう。髪や瞳の色が同じだ、しかしまあ気が強い子だな。さすがに何も返事を返さないのはまずいので言葉を選んで応答する。
「私は、嘉瀬宮浩輝といいます。先ほど、グレイラッドさんに事情を説明したところ、街まで同行させていただけることになりまして」
「街まで同行ってことは、あなたと相乗りするってこと!? 冗談じゃないわ! なんでそんなことしなきゃいけないのよ!」
「どうしたんだいそんなに騒いで、外まで声が漏れていたぞ?」
グレイさんがそんなことを言いながら馬車に乗ると少女が
「お父様! なぜこのような方との相乗りを許可なされたのですか!」
「それはね……」と先ほど話したことを俺とグレイさんで説明すると。
「そんなの私の知ったことじゃないわ」と、そっけなく返されてしまった。
「まあまあ、困ったときはお互い様だよリアーナ」とグレイさんが最終的にはなだめてくれたけれど、このリアーナ、という少女の思うことも分からなくもない。
俺だって、知らない人がいきなり車に乗ってきたら同じ反応をするだろう。
しかし、馬車というのは本当に便利だ。
以前なら電車にバス、車などが主な交通手段だったがこ、の世界では徒歩なのだ。徒歩と馬車では雲泥の差がある。
「ところであなた、浩輝とかいったかしら? あなた街に行ってからはどうするつもりなの?」
少し落ち着きを取り戻したのか少女に質問された。俺はこの世界に来て間もない、なので情報収集をメインに行っていくつもりだ。
それにしてもこんな質問をしてくるとは、もしかして心配してくれているのだろうか?
「とりあえずは、情報収集をやっていこうと思います。私は森の中で暮らしてきたので、まずはこの世界のこと、自分にできること、やりたいと思えることなどを探せればなと……」
「そう、まあせいぜい頑張るといいわ」
彼女は一体どうしたのだろうか、先ほどまでかみついてばかりだったがいきなり静かになった。
「そうそう、浩輝君はしばらくうちに泊まるから。仲良くしてあげなさい、リアーナ」
「ちょ、何言ってるのお父様!? それ、本気なの?」
「本気も本気さ」
それを聞いた瞬間、リアーナは何とも言い難い気持ちに呑まれたようで、口をパクパクとさせていた。
「ああ、浩輝君」
とグレイさんが話しかけてきた。
「はい。なんですか?」
「浩輝君。街に着くまでにある程度のこと、基本的なことを教えておこうかな。これからの人生において知っておくべきことをね」
「本当ですか?ありがとうございます!」
これは本当にラッキーだ。
容姿がこの見た目だと相手にされなかったりしそうだし、知り合いがまだグレイさんと彼女しかいなので、どうやって情報を集めようか悩んでいたところだ。
「それじゃあ、この国について。それから周辺の国々について、まずは話そうかな」
「お願いします」
「よろしい。それじゃあまず、今君のいるこの国はエルゼリア王国。このエルゼリアは皇帝陛下が納めていらっしゃる。そしてその下には我々貴族が……」
「ちょっと待ってください? グレイさんて貴族だったんですか……?」
「そうだよ?」
その瞬間、俺の心はやってしまった感でいっぱいになった。
グレイさんがたまたま親切だったからよかったものの、ほかの貴族であったならどうなっていたんだろうか。
「あなたそんなことも知らずに……ってそうだったわね、知るはずがないわね」
今回は、森の中で暮らしてきた、という設定が思わぬ形で救ってくれたな……。それにしても、グレイさん貴族だったんだ……。
「話を戻すね。貴族にも階級みたいなのがあってね。それを爵位というんだ、貴族の位を持たない騎士と准男爵、次に男爵、子爵、伯爵、辺境伯、侯爵、公爵、大公爵という感じで位が上がっていくんだ。伯爵より上の位になると土地がもらえるんだ。ちなみに私は辺境伯で、これから行く街も私の領地なんだよ。まあ、爵位のことはこれくらいにしておこうか」
「次に周辺の国々についてだけど、これも簡単に説明すると、現在このエルゼリア王国は三つの国と隣接しているんだ。東にヘルミーニャ、西にクリミア、南にクエルシアという感じだね。今は三ヵ国ともに不可侵の条約を取り付けているから、ここ百年は大きな争いはないね。あったとしても、地方でにらみ合いが発生する程度かな?」
「過去には戦争も?」と、質問してみると「そうよ」とリアーナが答えてくれた。
「エルゼリア王国は、過去三度にわたって戦争があったわ。いずれもヘルミーニャ帝国とだけど。」
どうやらヘルミーニャ帝国は三度にわたり進行してきたらしい。
帝国は他の国よりも技術面で優っており、エルゼリア王国の地下資源が欲しくて争いを起こしたようだ。
そしてクリミアは聖王国、クエルシアは魔導国であるらしい。
ちなみに、エルゼリアと一番親交が深いのはクエルシアであり、クエルシアには魔導学院があり、どの国からも生徒を募集しているらしい。
そして、今いるグレイさんの領地はエルゼリア王国でも西側に位置していて、クリミアに近いらしい。
「それじゃあ次は、国境を越えて活動している組織。冒険者組合、通称ギルドについて話そうか」
「ギルド、ですか?」
「そう、ギルド。基本的には何でも屋みたいなものなんだけど、地域によっても異なるね。まあメジャーなのは魔物の討伐や撃退。迷子や紛失物探しかな。人手が足りてないときは、各所必要なところに手伝いをしに行くことがあるよ」
魔物? 今魔物って言った!? 異世界要素来た!!
そんなことを考え、テンションが上がったが俺は冷静に質問する。
「魔物がいるんですね」
「うん、でも基本的にこの辺にはいないかな」
「何でですか?」
「魔物っていうのは空気中にある特殊な物質、マナが集まり結合して生まれるからね。魔族は子孫を残すけど、魔物は自然増殖なんだ。アンデットなんかもいるんだけど彼らは想いが集まって生まれてくるからね」
「想いですか?」
「そう、想い。果たそうとして果たせなかった無念や恨み怒りなどの想いから生まれるのさ。ま、想いが集まって生まれるのだとしたら、愛する想いなんかがどう影響するか個人的には興味深いけどね……っと、話を戻すね。そんなアンデットたちも、ここ最近大きな争いもないから比較的におとなしくなってきてる」
「そうすると、冒険者に対する依頼の数が足りなくなってるんじゃ?」
「いいや。冒険者たちには依頼をこなす以外にも仕事はあるからね。このエルゼリアには、各地にダンジョンっていうのがあるんだ。ダンジョンはいわば過去の遺産、ほとんどのダンジョンは、大昔に栄えた文明のなごりだからね。今はもう再現や理解が追い付かない技術があったんだろう、国が高値で出土品を買い取るんだ」
「なるほど。冒険者はダンジョンを探索や調査をして出土品を探し、生活費を稼ぐ。その出土品を買い取って、国は失われた技術の研究をする」
「そういうこと。あとは水産や木工・石工のギルドなんかもあるね。でも、専門的なことになると独立して、それぞれ自分の作業場を持って活動する人が多いかな。っと、街が見えてきたよ」
「あれが……」
「ようこそ私の領地、水と緑の街アルノスへ!」
今回見てくれた方ありがとうございます!星薙赤瀬です!
浩輝がついに異世界デビューです!それにしても浩輝は情報をグレイさんから頂きましたがこれからどうするんでしょう?というかリアーナちゃんも最後には質問に答えてくれた時には落ち着きを取り戻していましたが果たして浩輝は仲良くなれるのでしょうか?
次回はついに街に上陸です!さあここからどんな決断を見せてくれるのかな?
それではまた次回!!
それでは皆さんよい読書を!