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初めて誰と協力です!!

「と言うわけなんだけど、どうしたらいいと思う?」


 俺は魔族の二人を連れて集合場所まで来ていた。

 周りは背の低い草が生えている。剣を振ったり、絶壁に向けて魔法を放ったりするにはうってつけの場所だ。ここなら誰にも見られることはないだろう。

 一応魔族ということもあり道中最低限の警戒はしていたが、二人はただついてきてるだけだった。

 それどころか途中から二人は俺と手を繋ぎたいと言い出し始め、終いには自己紹介なんかも始めてしまい、俺のことを兄と言う始末。

 どうやら人を疑うことを知らないようで、なるほど人間に捕まったと言うのもうなずける。

 男の子がお兄ちゃんで女の子が妹らしく、みなと凪沙なぎさと言うらしい。

 二人と合流した後三人まとめて襲うつもりなのかと思い一応警戒はしていたのだが、二人を見た瞬間怯えて俺の後ろに隠れてしまった。

 今は落ち着いたのか少し離れた茂みからこちらを観察している。


「浩輝、あなたまたすごいの連れてきたわね。魔族の子供を連れてるなんて知れたらどうなるか。まず間違いなく人間のことを敵視するわ、鬼人が」


「鬼人? あの子たちの種族の名前か?」


 リアーナは頭に手を当ててため息をつく。

 困ったようにミュールが答えてくれる。


「鬼人は浩輝様の予想通りあの子たちの種族のこと。それよりも浩輝に聞きたいことがあるのだけど、なぜ彼らと関わり合いになったの? 人間と魔族の関係は不可侵という支えがあって成り立っているのに。それに鬼人の里にあの子達を帰しても感謝されずに逆に連れ去ったと思われるかもしれないのに、どうして?」


 なぜ? そんなの簡単だ。アルノスもメリアさんやディーノさんの時も動いた理由は一つだけだった。

 

「俺がそうしたかった。そうするべきと感じたからだ」


 俺がそう言うとミュールはさらに首を傾げてしまう。


「考えても無駄ですよ、ミュールさん。浩輝はそういう奴なんです」


 なんかそう言われるのは心外だ、と言うかいつの間にリアーナはミュールさんと呼ぶようになったんだ?


「そういえばリアーナはもうミュールと仲直りしたんだ? さっきまであんなに邪険にしてたのに」


「それは……その、あれよ。これから浩輝と旅をするのにいつまでもいがみ合うのはどうかと思っただけ」


 リアーナなりの気遣いなのかと礼を言う。


「ありがとう、いろいろ悪いな。今回も力を貸してくれるとありがたい」


「仕方ないわね。でもそんなに力になれるとは思わないでね? 流石に魔族関係は色々と難しいのよ、本当に」


「一緒に考えてくれるだけで充分だ。それでミュールにも迷惑をかけると思う。どうか許して欲しいんだけど」


「まあ、いいですよ。私はね。ただ今回の旅、王国側が誰も私達に同行させないのは考え難いわ。さっきの光見たでしょ? 空がいきなり明るくなったかと思えば光がそのまま降ってくるなんて」


 やっぱり見られていたらしい。というか見られてないほうがおかしいか。

 それにしてもそうか。国が俺達二人だけで旅に行かせるかと言われるとそうはいかないだろう。国としては誰か同行者を連れて行かせたいと思うはずだ。

 誰か監視役兼案内人を連れて行かせる。そうなるとその人も説得しなければいけないわけか……

 それと刃技のことはごまかしておこう。流石にこれを話したらダメな気がする。

 リアーナはともかくミュールは面倒なことに巻き込まれるだろうからな。


「ああ、あれが何だったのか見当もつかないがとりあえずは放置するしかないんじゃないか?なにせ情報が少なすぎて仮説も立てられない」


 二人は頷いてこれからについて意見を口にする。

 そしてそのどれもがやはり鬼人の兄妹の容姿についてだった。


「やっぱり町の中まであの二人を連れて行くのはリスクが高いわ。私達が魔族かどうか判断するときには8割がその身体的な特徴なの。彼ら鬼人は頭に角が生えてるのよ」


 確かによく見ると小さな角が生えている。よく見ないと気付かない程度だけど、それでもやっぱり目立ってしまうだろう。

 人は自分たちと違うところに目ざとい。


「そこは服とかでどうにかならないか? 例えば頭を覆うような形のものを着るとか」


「確かにそれでもいいけどもし何かの拍子に取れてしまったらおしまいよ」


「そこは私の魔法はどうかしら? 姿を変える魔法なんだけど、これで人間の姿に変える。鬼人は角以外ほとんどが人間と区別付かないわ。角だけを見えないようにするだけなら簡単だし」


「そんなことが出来るのか。ミュールって晩餐会の後の集まりで欲しいのは力だけって言ってたからそういう魔法は一切使わないのかと思ってた」


「あら、それは心外ね浩輝。力にもいろいろあるでしょ? 武力もそうだけど知力だって力なのよ。私は魔術師。武力だけを追い求める魔導士とは違って術理をもって魔法を行使し、自らの道を究めようとする者よ」


「よくわからなかったけど、魔法という物の仕組みを理解し、その根源に達しようとしている人達ってことか?」


「ほとんど正解、その認識でも間違ってないわ」


「これであの二人ことは大丈夫ね。次にあの光、仮説は立てられないとしても光の輪が出来てから地上に向かって放たれる前には、少しだけ猶予があったから次遭遇したら全力退避すること。いいわね、二人とも」


 俺達に言い聞かせるようにリアーナが注意してくる。

 確かに俺は何事にも首突っ込んで厄介ごとを引き連れてくるし、ミュールは興味に惹かれて現場に行きそうだからな。

 俺達は頷くと鬼人の兄妹に近づいてミュールの魔法で姿を変えて欲しいと頼んでみる。

 初めは警戒して縦に首を振ってくれなかったが最後には「お兄ちゃんがそこまで言うなら……」と言って納得してくれた。

 ミュールに魔法で角を隠してもらう。

 どんな魔法なのか聞いてみたら、光の屈折を操っているらしい。

 詳しく説明してくれたのだがそれ以外全く分からなかった。


「よし、とりあえず町に行って二人の服を買ってくるか」


「そうね。流石にこのままとはいかないもの」


 湊たちは人間もとい奴隷商か何かにつれてこられたようで、ボロボロの布に身を包んでいる。

 俺はリアーナとミュールの二人に服を買ってきて欲しいとお願いし、お金を渡す。

 二人は快諾してくれて、そのままエルゼリアへ戻っていった。


「湊君に凪沙ちゃん、二人にいくつか質問があるんだけどいいかな?」


「「どうしたのお兄ちゃん?」」


 兄妹揃って首を傾げている。

 これをあの二人の前でやったらきっとマスコットキャラみたいに愛でられるんだろうなあ。


「さっきのお姉ちゃん達が今二人のお洋服を買いに行ってるんだけど、その間にどこに住んでいたか教えて欲しいんだ。どこに住んでたかわかる?」


 そう言って先ほどミュールから借りておいた地図を広げる。

 二人は覗き込むがすぐに先ほどのように首を傾げてしまう。


「里の近くには森があって、川があって、山がいっぱいあるのですよ」


 凪沙は場所がわからないものの、一生懸命にその場所の特徴を伝えようとしてくれている。

 湊は地図を凝視して目をキラキラさせている。

 なんだか宝物を見つけた子供みたいな無邪気な目だ。


「ありがとう凪沙ちゃん。あとは俺達で考えてみるよ」


 凪沙の頭を撫で撫でながらそう言うと顔を赤くして俯いてしまう。

 湊は相変わらず地図を眺めている。

 するとどこからかお腹の音が聞こえてきた。

 そういえばもうお昼時、リアーナ達が帰ってきたらお昼にするか。

 それから俺は地図を凝視する湊を見ながら凪沙にいろいろな話を聞いた。

 どうやら鬼人は人間とは物の言い回しが違うらしい。

 魔法のことを妖術といい、その力の強さによって里の長を決めるらしい。

 他にも主食などの日常生活に至るまで、その中で一つ気になったことがある。


「凪沙ちゃんさっきのお話もう一度聞かせてくれないかな?」


「さっきのお話? あ、一人の人間さんですね。いいですよー」


 凪沙ちゃんの故郷で昔から伝えられてきた話の中でたった一つだけ人間が主人公の物があった。

 そしてタイトルから予想するにおそらく孤独の英雄に関連するものだろう。

 こういった話は地域やその民族などの違いによって話される内容は微妙に異なってくる。

 その違いについて比較することで分かってくる事実もある。


「それで一人の人間さんって言うのはですね。ある日鬼人の里がよくわからない怪物に襲われていた時に一人の人間さんが怪物たちをやっつけてくれるお話なのですよ。それでですね、里では人間さんに感謝するお祭りもあるのですよ」


 すごく興奮して語ってくれる。

 とてもそのお話が好きなんだろうな。

 この子達を送った時に話聞けるといいなあと思いながら話を聞いていると、やがてリアーナ達が帰ってく来た。


「お待たせ、はいこれ。余ったお金、確かに返したわよ」


 俺はそのままお釣りを返してもらう。

 別に残りは自由に使ってもらっても構わなかったんだけどな。


「おーい、二人とも。リアーナ達が戻ってきたから着替えてー」


 そう呼びかけると、茂みから顔をちょこんと出してこちらの様子をうかがっているようだ。

 うーん、どうしたものか。リアーナは子供が好きだから、近くに来て少し話とかしてみればすぐに懐かれるんだろうけど、いかんせん警戒してこちらまで来てくれない。

 俺と二人の時は大丈夫なのにどうしてだろう。

 じれったくなった俺は二人を抱きかかえリアーナ達の所まで行く。

 

「うみゃあ!?」


 凪沙ちゃんが変な悲鳴を上げるがお構いなし、ちょっとくらい強引にしないとこれはダメだろう。

 リアーナ達の前に降ろすと二人は俺の後ろに隠れようとする。

 ……もしかして怖いんじゃなくて、ただ人見知り名だけかこれ!?

 俺は二人を前にして軽く背中に手を当てる。


「大丈夫、大丈夫。ほら自己紹介してみて」


 俺はなるべく優しめの言葉を選んでみる。

 二人はお互いをみて頷く。


「ぼ、僕の名前は湊です。こっちは妹の凪沙です」


「な、凪沙なのですよ。よろしくお願いしますなのですよ」


 二人が自己紹介を終えるとリアーナ達も自己紹介する。

 リアーナは二人を見る目が変わったらしい。

 二人の面倒を見るのに旅についてくると言い出したのだ。

 別に俺達はいいけどグレイさん達を説得する方が先と言ったら落ち込んでしまった。


「それよりも二人の服を着替えさせよう。もうお昼頃だし、そのままお昼ご飯食べてグレイさんに会いに行く。それでどう? ミュールには少し付き合わせちゃうことになるけど」


「お父様と、いいえ大丈夫なはず」


「別に気にしなくてもいい」


 二人は納得してくれたみたいだ。


「それで浩輝、これが湊君の服よ。私達はこっちで凪沙ちゃんを着替えさせるから、湊君をよろしくね」


「ああ、分かった」


 そう言って俺達は二手に分かれた。

 さてどんな服を選んだのだろう。


「白が基調のYシャツに深い青のベストか。うん、湊は黒髪だしそこまでおかしい事にはならないはずだ。おーい湊君、これに着替えて欲しいんだけど着替え方わかる?」


「はい、大丈夫ですよ。それよりもいいんですか? こんなにいい服を僕に、それにも凪沙にも」


 湊はとてもやさしい子なんだなあ。


「いいんだよ。約束しただろ? ちゃんと二人の故郷まで送り届けるって」


「はい、ありがとうございます。でも迷惑をかけ過ぎないかなって」


 本当にやさしい子だ。これくらいの子供なら普通そんなことは考えない。

 それだけ考えさせられる環境に居るのか。それとも……

 俺は湊の頭をくしゃくしゃと撫でて、顔を見る。


「子供があんまり気を遣うものじゃないぞ? 甘えれる好意には甘えておけ」


 俺はそう言って服を渡す。

 そのまま湊君を着替えさせて先ほど居た場所まで戻る。


「おお、凪沙ちゃんも似合ってるよ」


「えへへ、ありがとうございますなのですよ」


「うんうん、やっぱり湊君も似合ってる。私の見立てには間違いはなかったわね!」


 あー、そういうことか。これらの服装はリアーナの趣味、湊君は執事、凪沙ちゃんは何だろう。

 メイド、なのだろうか。少し茶色がかった髪によく映えるエプロンドレスを身にまとっていた。


「なんだか動きにくいのですよ」


「でもでも、とってもかわいいわよ? その服の方がきれいに見えるし」


「そうですか? それならこの服を有り難く使わせていただくのですよ」


 リアーナのごり押しもあり凪沙ちゃんも納得したところで、俺達はエルゼリアに戻ることになった。

 門から町の中に戻ると俺達は意外にも注目されていた。

 まあ、執事とメイドの格好をした幼い子供を連れているんだから仕方ない。

 そのままどこか昼食のため、手ごろな店を探そうかと思っていると湊と凪沙が走り出す。

 やはり鬼人、その足の速さは人間の比ではない。すぐに曲がり角に消えてしまった。


「二人ともどうしたのかしら?」


「さあ、分からないけど今は追いかけるしかない」


「……もしかしてなんだけど、あの子達をここまで連れてきた人間を見かけたんじゃないかしら?」


 ミュールが言ったその一言で俺は全力で追いかけることにした。

 背中に冷たいものを感じる。嫌な予感がする。


「悪いんだけど二人はグレイさんの所へ向かってくれ。俺は湊君達を追いかける」


 リアーナは納得したように「全力で追うのね」とだけ言って了承してくれた。


「浩輝、それは私が足手まといだって言ってるの?」


 どうやら俺が置いていくと言ったのが癪に障ったらしい。

 でも今は時間が惜しいし実際俺の速さに並走できるとは思えない。


「ああ、悪いけど今回は急ぐから」


 それだけ言って後はリア-なに任せようとしたその時、ミュールが背中に乗ってきた。

 何の冗談かと思ったが、「魔法でしかできないこともあるのよ」そう言われ俺は自分の考えの足りなさに気が付く。

 この世界には前と違って魔法というものがある。何でも力だけでは解決しない、それを失念していた。


「しっかりつかまってろ。口は閉じとけ、舌を噛まないようにな!!」


 そう言うと俺はスキルも装備も使い、全力で走りだす。

 周りに見られているが仕方ない、そう考えていたのだが周りの人は何も見えていないのかこちらを誰も見ない。

 とりあえず探しやすいように屋根の上に飛び乗り、そのまま進んでいく。


「やっぱり私が居てよかったじゃない。今私達の姿を魔法で見えなくしてるけど、これを公衆の面前でやったら大変なことになってたわよ」


「そうだったのか。ありがとう」


 純粋にそれはありがたかった。

 続けざまにミュールが背中から指示を出してくる。


「見えたわ! 右全方よ……やっぱり誰かを追いかけてる。それにしてもあれは」


 ああ、俺にもわかってしまう。二人は乗せられている。

 わざと追い付かないが離れない、そんな速度で走っているのだ。そしてそれを追いかけている二人、完全に罠だ。


「十中八九罠だな。二人に今接触するのはリスクが高い、このまま追いかける。あいつらの監視と周囲の警戒頼む!」


「もうやってるわ、任せて頂戴!」


 俺は足場が安定しないのとどのような地形になっているのかの把握でサーチを発動させている暇はない。

 しかし、一人一緒に戦ってくれる人が居るだけでこれほどに楽とは。

 改めてミュールに感謝しつつ、俺は三人を追いかける。

今回見てくれた方ありがとうございます!

嵌められた二人、それを追う浩輝にミュール。

一体先には何が待ち受けているのでしょうか?

ではでは次回また会いましょう!

                                 それでは皆さんよい読書を!!

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