魔族の子供は意外といい子?
「それでは今宵は浩輝殿、ミュール殿、フェルト殿の功績をたたえ乾杯!」
そう国王陛下が音頭をとると会場が一気に盛り上がる。
俺達はと言うと何故か席が用意されており、そこに座っている。
他の二人も座っているがそろって面倒くさそうにしている。
「浩輝様、今夜は楽しんでくださいませ。会場の料理はどれも工夫を凝らしたものばかり、どうぞご賞味を」
そう言って俺に執事の人が俺の傍から離れていく。
リアーナはを見るとうんざりといった表情だ。
「リアーナこれは……?」
「晩餐会、それも功績をたたえるなんて名目のものは大抵見世物みたいになるのよ。まるで競売品になった気分よ」
確かにわからなくもないけど……
俺達はそれぞれの功績を読み上げられた後こうして椅子に座り続けている。
「俺達ってこのまま座るだけなのか?」
そう聞くとリアーナは「そうよ」と言って前に視線を戻す。
下段では貴族話をしている。しかし料理には全く手を付けていない。
なんでだろうと思っているとリアーナが先ほど運ばれてきた料理を口にする。
基本動けない俺達に先ほどの執事が少し取り分けてきてくれたのだ。
「う、やっぱり冷たい……」
リアーナは微妙そうな顔をする。
なるほど、調理をしてこのホールに並べている間に料理は冷めてしまってのか。通りで誰も料理を基地にしないわけだ。
気になり口に含んでみるがこれは確かに微妙だ。温かければおいしく感じたのだろう。
しかし、冷めているせいで硬くなっていたり甘くなりすぎているものがある。
「これは……うん、なるほど」
正直言って不味いと言えば不味い。
俺達はそれから貴族たちに話しかけられたりしながら晩餐会を終えた。
そして俺達は今謁見の間に再び訪れていた。
「先の晩餐会はご苦労だった。おそらくはつまらぬものであっただろう。今は楽にしていてくれ」
そう言って国王陛下は玉座に座る。
「そんなことより早く要件を聞かせてくださらない?」
赤髪の女の子が面倒くさそうに言う。
歳は俺達よりも二つほど下なのだろうか。その身を背丈に合わないローブで包んでいる。
その隣で黒髪の女性が頷く。
「私もいつまでも拘束されるのは困る。できれば授与式などもすべて欠席したいのをこらえているんだ。あまりもったいぶるな」
二人ともめっちゃ偉そうだな……確かにすごい人達なんだろうけど。
俺は二人の言葉を聞いて絶句した。日本人だった俺からすると敬語を使わずにそんなことを言うのは考えられない。
自分が敬語を完璧だとは思わないが、できる限りやっているつもりだ。
「すまないと思っている。しかしこれも国という組織には必要なものと我慢してくれ」
黒髪の女性は腕を組んで黙り込む。
「……それでは君たちを招集した本当の理由、それについて話させてもらう。端的に言おう、君たちに協力して欲しいことがある。現在このエオルゼアで魔物の活性化が各地で起こっている。これの原因の解決に当たってもらいたいのだ」
魔物の活性……今回アルノスに魔物が現れたり、サラマンダーにあのドラゴンの原因か。
実際調べてみようかと思っていたし案外丁度いいか……?
俺はリアーナにも意見を聞いてみようと横を向くと、黒髪の女性が迷わず「断る」と宣言した。
「……一応理由を聞いても構わないか?」
「そんなの簡単なことだ。私は強くなりたいただそれだけ、別にこの国がどうなろうが関係ない。それに私としてはこの状況は逆に好ましい」
それだけ言うと黒髪の女性は外へ出て行ってしまった。
赤髪の少女は興味なさそうにどこか中を見ている。
「残りの二人はどうか。金に社会的地位、名声どれもが手に入るだろう。悪くはない条件だと思うのだが」
「はあー、そこじゃないのよ。私もさっきの人もただ自分の道を究めたいだけ、結局欲しいものは力なのよ。そういうのって他人から盗むもので、与えられるものじゃないわ。世界を知り、己を見つめ、技を磨き、極に至る。私たちの欲はそれだけ」
彼女の言うことは分かる。何事にもメリットというのが無ければ協力してくれないだろう。
俺だってあの男やアルノスが関わっていなければこれに協力するかわからない。
なにせ命がかかわることだろうからな。
「俺は協力させてもらいます」
そう言うと少女は驚いた顔になる。
それは国王陛下も同じようで理由を聞いてくる。
「それはどうしてか、理由を聞いても構わないかな?」
「私個人、気になることがあるので」
俺がそう言うと国王陛下は首を立てに振り「ありがとう」と言ってくる。
「ワイバーンを討伐した浩輝殿が協力してくれるのならば心強い。それでミュール殿は?」
そう国王陛下が聞いたとき少女は俺の方を向いて口元を抑えていた。
「あなた、ワイバーンを倒したの?」
少女に「そうだけど」と返すと興味深そうに俺のことを観察してくる。
「私も行くわ。あなた面白そうだし、そこまで強いならあなたを通じて何か見えるものがあるかもしれない」
「それではこれからのことを話させてもらう」
それから俺達は国王陛下からこれからどのようなことをして欲しいか、その内容について聞いて解散となった。
今は晩餐会の時まともに食事ができなかった為、軽い食事を宿で出してもらった。
「それにしても浩輝。あなたどうして今回の協力に応じたの?」
「そうだな、理由はいくつかあるんだけど特に強いのはそうしないといけない気がするんだ。自分でも説明できないんだけど使命感? みたいなのがある」
そう、自分でもわからない使命感。これは俺がこの世界に来てからずっと感じている。
それが何なのか、自分でもわからない、どうしてそう思うのか、これは本当に自分が抱いている感情なのかすら疑ってしまう時がある。
「まあ無理に説明する必要はないわ。ただあなたがアルノスのことを気にして嫌々受けたんじゃないか気になっただけだし」
まあ、それもなくはないのだが……
「そういえばリアーナは明日どうする? グレイさん達も明日から王都に入るんだろ?」
そう聞くとリアーナは顔を青くする。
「う、お父様が……王都に……」
「そういえばグレイさんには言ってなかったんだったな。とりあえず早めに謝ったほうが良いんじゃないか? 絶対心配してるし」
「いや、浩輝について行くって部屋に書置きしたんだけどね。それでもやっぱり怒ってるよね……」
「まあそうなったら一緒に謝るよ。俺も途中で気付いてたのに止めなかったし」
「ありがと」
そんなやり取りをしながら俺達が食事をしていると先ほどの少女がこちらに近づいてきた。
「あなた浩輝さんよね? さっきのワイバーンを倒したってホントなの?」
そう言って俺の隣に座ろうとする。
「ちょっと、いきなり何よ。浩輝に対して失礼よ」
リアーナがそう言うが少女は無視して続ける。
「それで一つ提案なんだけど、私の仲間にならない? この旅だけじゃなくて、これから先の。ワイバーンを倒したあなたに興味があるの私。この女じゃなくて私を連れて行きなさいよ」
「俺はあんたの仲間になるつもりはない。それに女じゃなくてリアーナだ。この旅は仕方ないとしてもその後もお前と一緒に行動するつもりはない」
「ふーん、そう。まあいいわ、それじゃあ今回の旅の間よろしくね」
そう言って二階に上がっていく。最後に「気が変わったらいつでも言ってね」と言い姿を消した。
俺がため息をつくと前に座っていたリアーナが俺の方を向いて少し驚いた顔をしている。
「それにしても何だったんだ今の」
「さあ? でも、研究者とかってあんなものじゃない?」
そんなものなのかと俺が考えているとリアーナが食事を終えた。
「それじゃ明日に備えて私はそろそろ休ませてもらうわね」
「わかった。お休み」
そう言ってリアーナは部屋に戻っていった。
見えなくなったのを確認して俺は周囲を見渡す。
ほとんど人はいないしいても従業員位か……
「盗み見とはずいぶんと失礼じゃないか? ミュールさん」
「あらバレてたのね。まあ、これ位気付いてもらわないと困るんだけど」
俺はミュールに席に着くよう促すと今度は目の前に座った。
「改めまして、ミュール・ドラゴノート。齢14で魔術師よ」
なんだ? さっきとは違って落ち着いた声音で話してくる。
「俺は嘉瀬宮浩輝だ。それで何の用だ? さっきので話は終わらせたつもりなのだが」
「そんなに悲しいことを言わないでよ。あれはちょっとした茶目っ気」
そう言ってこちらを見てくる。
幼くもどこか大人びた雰囲気、一体この子に何があった?
その雰囲気は鋼のように硬く氷のように冷ややかな目だ。
「それで本題に入るけど、私の目的に協力して欲しいの」
「どんな目的だ。協力するしないの前にそこを話してもらわないとな」
「それは言えないわ。あなたが協力してくれないのなら私の邪魔になるかもしれないし」
こいつは一体何を考えてる? 何が目的なんだ。
「ただ一つ言えることは魔法の研究とだけ言わせてもらうわ」
「すまないが断らせてもらう。はやり内容を知らないまま協力することはできない」
「あら、残念。それじゃ今回の旅よろしくね。おやすみなさい」
そう言って手を振って部屋に戻っていく。
「俺も寝るか」
俺は部屋に戻り今日あったことを思い返す。
ワイバーンだったか? あれを討伐して、王都に来て国王陛下と謁見。さらに晩餐会まで、疲れた……
そのまま思い返していると瞼が重くなりやがて視界が暗くなった。
「おはよう、浩輝。あなたもこれから食事なの?」
俺が朝支度を済ませドアを開けると丁度リアーナと会った。
「ああ、これから行くところ。一緒に行くか」
リアーナは頷いて俺の隣に並ぶ。
「今日は顔合わせをしたらあとは自由行動なのよね? 何か予定は決めてるの?」
「そうだな、近くの森に魔法の練習と剣技の確認かな」
そう言うと近くに居た別の声が聞こえてくる。
「へえ~、浩輝は剣を使えるのね」
そう言ってミュールがリアーナの反対に並んでくる。
「あなた昨日の! ていうかいつの間に浩輝って呼び捨てにする仲に!?」
「仲間のことをいつまでもさん付けはおかしいでしょう? 昨日のことは失礼したわ。一緒に朝食でもどうかしら」
「……わかった。行こうリアーナ」
俺がそう返事をすると彼女は一度俺の目を見ると頷く。
「それではこちらへ」
そう言ってウェイターに俺達が案内されたのは壁際の席だった。
俺達はそれぞれ注文をするとミュールがこちらに話しかけてくる。
「そういえば先程、剣の鍛錬に向かうと聞いたけど、ついて行ってもいいかしら?」
「別にいいけど、いきなりどうしたんだ?」
「いえ、今回の旅で共に戦うならば実力を知っていた方が良いんじゃないかと思っただけよ」
そういうことか、基本的な素振りを見られる程度は問題ないだろう。
「そういうことなら仕方ない。リアーナもいいか?」
そう聞くとリアーナがミュールに質問する。
「それで、あなたの魔法も見せてくれるの?」
「もちろん、だってそうでなくちゃフェアじゃないわ」
それなら異論はないとリアーナが引き下がったので行動を共にすることになった。
「まずは顔合わせだったか?」
「そう、でもする必要は無くなったわよね? 昨日の話でフェルトさんが来ないことが分かってメンバーは此処に居る三人でしょ?」
ん? どういうことだ、ここには二人しか戦える奴いないだろ?
「ちょっと待ってくれ。リアーナは違うんだ。俺達二人だよ」
「あらそうだったの? 浩輝に付きっきりだからてっきりそういうものだと」
「ち、違うわよ! 全くそんなんじゃないの!!」
そこまで否定しなくてもよくない?
若干話がずれそうなので強引に話を戻す。
「そういうわけだから、旅に出るのは俺達二人だ」
「と言うことは今浩輝はフリーなのね?」
なぜそこに戻る。と心の中で突っ込みを入れながら話を進める。
「それで顔合わせはこれで良しとして次はお互いの実力を確かめるんだったか?」
「そうね、いい場所を知ってるからそこに行きましょう?」
「わかったでも少し俺は後から行くよ。リアーナを任せてもいいか?」
「ちょっとどういうことよ!? こいつと二人にしないでよ浩輝!」
リアーナから抗議の声が上がるが、俺自身やっておきたいことがある。
すまないという気持ちを込めて心の中で合掌しておく。
何か裏切り者と聞こえた気がするがおそらく気のせいだろう。
「集合場所には勝手に向かうから」
「場所わかるの?」
「まあね、それじゃ」
俺はそのまま宿を出て森へ向かう。
しばらく歩いてある程度の広さがある場所に来ると剣を抜く。
「さてと、それじゃあ刃技ができるかやってみようかな」
前回はスキルしか使えなかったが今回は技名を言うだけじゃなくて、技の説明文に乗っていた詠唱文を読んでみる。
「審判の時来たれり。三界の裁き、善なる者の導とならん。ここに光の刃、雨となりて突き立て。『ジャッジメントレイン』」
そう言うといきなり空が明るくなった。
空には白く光る魔法陣が展開されている。
「なんかやばそうなんだけど」
それを見て俺はまた頭を抱える。
これ絶対大騒ぎしてる。どうやって言い訳しよう……などと考えながらその後の経過を眺める。
あ、なんか光りだした。とか思ってたらいきなり目の前に空から無数の光の刃が降ってくる。
光が収まり背けていた目を向けると、目の前にあったはずの木々が軒並み消えて地面にはクレーターが出来ている。
「……なにこれ?」
ゲームでは光が上から降ってくるようなエフェクトだったけど、リアルだとヤベー……
俺は誰にも見つからないように集合場所に向かった。
それにしてもやっぱり言葉に出す、ていうとこが鍵らしい。
スキルと刃技どちらも言葉に出すことで発動した。
「この調子でいくと向こうの魔法は口に出すことで発動するのか?」
俺が気になっていたのはこの世界の魔法とゲームの中で使えた魔法の使い分けだ。
この世界の魔法は使えるようになってきたがゲーム内の魔法は使えない。
「例えばこの世界の魔法は無詠唱で、ゲームん方は名前を口に出すみたいな感じか」
川を飛び越えると左の林の中から「助けて……」と聞こえたて来た。
俺は誰か怪我をしてるのかもしれないと急いで声のした方に走る。するとそこには魔族の兄弟だろうか?
男の子と女の子が居た。
俺はどうするべきか悩む。魔族とは不可侵であるから共栄の道が続いている。
しかしここで俺が介入することでその均衡が崩れるのではないか?
魔族側からすれば子供を助けてくれてありがとうで済むかもしれない。だが人間側特に貴族がそれを重大な侵略行為だなんて騒ぐやつもいるだろう。
特に今は俺が居る。戦争を仕掛けようなんて馬鹿が出てきかねない。
昨日の晩餐会、スキルを使って貴族たちの会話を聞いていたが完全にクロだ。
俺達をどう利用するかの話題で持ちきりだった。
どうするか悩んだが俺は二人を助けることにした。
「ねえ、君たちどうしたの?」
俺が声をかけると二人はビクビクと怖がって返事をしてくれない。
俺がしゃがんで目線を合わせてなるべく自然な笑顔で話しかける。
「どこか怪我してるの? 大丈夫?」
そう聞くと男の子の方がおびえながらも返事をしてくる。
「妹がね足を怪我しちゃったの。だから歩けないんだ」
「そうだったんだね。よく頑張った、偉いぞ」
そう言って俺は二人の頭を撫でた。
俺は袋から回復薬を取り出して女の子の怪我をしている足に優しく振りかける。
「あれ? もう痛くないよ、なんで?」
女の子が驚いている。男の子は口がふさがっていない。
「これでもう大丈夫だよ。もう少しでお昼だからもうおうちに帰ったほうが良いよ」
そう言うと二人が顔を伏せてしまう。
「僕達人間さんにここまで連れてこられたんだ……だから帰り方わかんないんだ」
「私達をおうちまで連れてってほしいの……」
二人がそう言って頭を下げてくる。
正直この子達を元居た場所まで連れて行くのは難しいことではないだろう。
でもこれから約束があり、何より人間の俺と魔族のこの子達が行動を共にしているというのは不味い。
とりあえず俺一人では結論が出ないので二人を集合場所へ連れていくことにした。
「これから俺の仲間のいる場所に向かうんだけど二人もおいで?」
そう言うと二人は頷いてついてくる。
俺はどうするべきか悩みながら洞窟へ向かうのだった。
今回見てくれた方ありがとうございます。
ついに必殺技も使えるようになりました。さらに人間から離れていく浩輝です。
出会いは出会いを呼ぶようで魔族の子供との遭遇です。
次回は旅立つ浩輝。
ではでは次回また会いましょう!
それでは皆さんよい読書を!!