竜種にも普通に勝てちゃいました!!
「カワク……ヒドイカワキダ……」
そこには石の壁に囲まれた台座が一つ。
黒く悍ましい人の形をした靄がうごめいていた。
「カノモノノツルギノモイズレハ……」
台座には一本の剣が、その靄を縫い留めるように突き立てられている。
そう言い残すと靄は収まり、消えていった。
俺はスキルで身体能力を強化して森を駆ける。
雨の中見回りに出たメリアさんとディーノさんの二人が返ってこないまま森に異変が生じてしまった。
俺とジャレッドさんは二人と森の以上になった原因とが接触したのではないかと考え、30分で俺が森の中に居る二人を連れて帰り、可能ならば原因を突き止め解決することになった。
不可能ならすぐに馬車に戻りリアーナ達と離脱することになっている。
「あれは、なんだ? 光が……」
右側でなにか黒く光ったような……
右に転身するか迷ったが向こうは馬車から離れすぎている。見回りをする距離ではないだろう。
俺は直進することを決め、前に視線を戻すと遠くから何かの鳴き声が聞こえてくる。
「……急ごう」
俺は先ほどよりも速度を上げて駆けていく。
「メリア大丈夫か?」
俺たちは雨の中周辺の警戒に出た。
この辺に出てくる魔物に負けることはないと思い、視界が悪い中ジャレッドの反対を押し切ってまで。
しかし予想にもしなかった事態が起こったのだ。
「なんでこんなところにドラゴンが居るんだよ……」
俺たちは警戒に出てすぐこの森が変だということには気づいた。
この辺りは元々魔物は少ないが野生の動物が多く狩場としてよく訪れられる場所なのだが、魔物はおろかそれ以外の動物まで見ないとなると流石に違和感を感じる。
さらに異常なまでに捕食痕が多かったのだ。普通捕食痕は古くなって形も分からない物がほとんどなのに、ここでは真新しい物ばかりだった。
俺たちは不審に思い早めに馬車に戻ろうとしたのだが、空から影が落ちてきた。
その風圧でメリアは吹き飛ばされて気絶してしまい、俺は足をやられた。
幸運なことに向こうはこっちに気付いていなかったようでメリアを連れて物影に隠れてやり過ごした。
「クソッ……足さえ動かせるなら馬車まで帰れるのに……」
今は近くの木の陰に隠れているが見つかるのも時間の問題だろう。
「今は助けを待つしかないか……とは言っても絶望的か……」
そう言って俺は自分の足に回復魔法をかける。
「確かこっちの方から聞こえてきたと思うだけどな……」
そう言って走り続けておおよそ2分くらいだろうか、俺は馬車から離れすぎずの場所を探していた。
もう馬車を離れて5分位経った。急がないとな。
あまり使いたくは無かったのだがスキルを使うべきか。
「『グランドサーチ』」
俺は周辺探知のスキルを発動させる。
基本的には『サーチ』を使うのだが、今回は探索による罠の発見ではなく捜索が目的の為、強化されたものを使った。
「……見つけたけど、この近くに居るのはなんだ?」
スキルを発動させるとすぐに二人は見つかったのだが、そのすぐ近くにとてつもない反応がある。
二人はこの反応から身を隠すようにしているってことはこの反応が異変の原因なのか?
俺は急いで二人のもとに向かう。
「あれは、ドラゴン!?」
灰色の巨体をしたドラゴンが居る。
なぜこんなところに居るんだろうか、ジャレッドさんの話ではここにはそこまで強い魔物は生息していないんじゃなかったのか?
スキルを通して見た時にとてつもない反応だというのは分かっていたが、まさかドラゴンが居るとは思っていなかった。
俺はとりあえず二人のもとに向かう。
「ディーノさん、メリアさん大丈夫ですか?」
二人に近づき声を潜めて言葉をかける。
「ッ!? って浩輝様ではありませんか。どうしてここへ」
「二人を助けに、そして可能なら森の異変の原因を発見、解決するためです。それよりもあのドラゴンはなぜここに居るんでしょうか」
「わかりません。私たちも森が異常であることに気付き馬車に戻ろうとしたのですが、そこにあのドラゴンが降りてきまして。その降りたときの風だけで我々はこの様です」
そういえば先程からメリアさんが喋らない。何かあったのだろうか。
それにディーノさんの足もおそらく吹き飛ばされたりしたのだろう、強く打ったのか青くなっている。
俺は袋から初めて武器以外を取り出した。
「どうぞ、これを呑んでください。その足も少しは楽になると思います。それからメリアさんは……?」
「ありがとうございます。メリアは吹き飛ばされた時に打ちどころが悪かったみたいで気絶しています。できるだけ早くここから離脱して十分な回復魔法をかけてやりたいのですが、今の私では集中力が……」
魔法には集中力が重要で、いかに戦闘中に冷静でいられるかがカギになってくる。
しかし、相手は魔物それもドラゴンなのだ。見つかれば命は無いこの状況で集中しろというのは酷だ。
「とりあえずそれを呑んでください。俺はあのドラゴンをどうにかする方法を考えます」
「ドラゴンをですか!? 無理です、いったん戻りましょう! 王都に行き報告、討伐隊を結成してから……」
「でもそれだと手遅れになるかもしれません。あのドラゴンがずっとここに居座るという確証はないですから。他の村や町に被害が出るかもしれません」
「だからと言って一人で挑むなんて無謀すぎます!」
「大丈夫ですよ、俺勝ちますから」
そう俺は一度ギルドの訓練場で幻術の魔族に負けている。
けどあの時はまだスキルが使えなかった。
「な、なんですか!? 浩輝様、これは一体……」
俺の体を光が覆っていく。
そして光が霧散すると、俺の体は別の服装に包まれていた。
先ほどまでの正装とは違い今は軽装を着ている。ディーノさんは何が起こったのかわからず口が開いている。
それにあの時はこうして防具を着ていなかったしな。
防具にはそれぞれ効果があり、身体能力から魔法やスキルの補助をこなすものまで色々ある。
「ただちょっと着替えただけですよ。それよりもメリアさんのことよろしくお願いしますね」
そう言って俺は剣を取り出すと物影から飛び出す。
やはりまずは観察だ。
全体的に色は灰色で大きな翼が背中についている。ディーノさんの降りてきたということからも飛行能力は決して低くはない。基本的には四足歩行のようだけど、先ほど立ち上がっていたことから二足歩行も可能。
どんな攻撃をしてくるかは実際に戦うまでは分からないけど、あの鋭い爪と牙は脅威だな。
「よし、それじゃあ最初は回避に専念していきますか」
俺はドラゴンの死角に入ることを意識して近づく。
「でもまあ、まずは一発! 『ブラッドブリッド』」
剣が赤く染まり、どこか美しい深紅の色になると俺は右足を斬り付ける。俺が剣を振ると傷口から大量の出血が起こる。『ブラッドブリッド』は出血の効果を持つ斬撃スキルで、その出血量は武器種によって異なる。
いきなり切りつけられ、驚いたのかドラゴンは声をあげる。しかしこの巨体には今の攻撃はあまり意味が無かったのか、こちらを認識するとその足で俺を踏みつぶそうとしてくる。
俺は後ろに飛んで回避するが物凄い風圧を受けバランスを崩された。
「この野郎……!」
体勢を立て直すとドラゴンの右足を斬りつける。
何度も切りつけ出血させ、右足を傷つけていく。
この巨体に俺がつけられる程度の大きさの傷では一撃や数撃では倒すのは難しい。
それにそういう技を今出したとしても周りの自然を更に大きく破壊してしまうだろう。
俺は以前の世界から思っていた、物語の主人公たちはあんなに思いっきり戦うけど周りの自然や生態系は大丈夫なのだろうか、と。
この世界ではマナが空気中に滞留している。そのマナを魔力に変換することで急激な回復を自然そのものが行うのかもしれない。
それでも確証は無いし、何より近くに二人がいる。あまり派手に戦うのはどちらにせよ不味いかもしれない。
どれだけ斬り付けてもドラゴンには効いていない。
俺を踏みつぶそうとしてくる。
「それを、待ってたぞ!」
ドラゴンはそのまま地面に足を付けると同時に右足が沈み込む。
何が起こったのかわからず、足から来る激痛によってドラゴンは苦悶の声をあげる。
「何が起こったのかわからないだろう? なにせお前は俺の攻撃一発一発が効かないから気にすら止めていないんだかならな」
そう、俺が狙っていたのは自滅。自分の体重に足が耐え兼ねてしまうようにダメージを与えていたのだ。
そうすれば高威力な一撃も、派手な魔法も必要ない。
ドラゴンは空を飛んで逃げようとするが、そうはさせない。
俺が閃光の魔法を打ち上げると目をやられたドラゴンはそのまま落ちてくる。
俺は素早く首元に移動し大剣に持ち替える。
「『ベルセルクレイジ』」
俺はスキルを発動させドラゴンの首を落とす。
しかし普通の魔物と違い死体が消えない。
まだ生きているのかと思い警戒を解かないでいると後ろからディーノさんが興奮したように声をかけてきた。
「すごいですよ浩輝様! 一人で竜種を討伐してしまうなんて。この大陸を見渡しても浩輝様くらいですよ、こんなことが出来るのは!!」
「あのディーノさん、ドラゴンは倒しても消えないのですか?」
「あ、はい。部類こそは魔物ですが、竜種はどちらかというと魔物よりも自然の化身に近しいそうです」
なるほど、だから消滅しないんだな。
「そういえばディーノさん足はどうですか?」
「あれ? そういえば痛みもありませんし、平気みたいです」
ふむ、どうやら回復薬なんかもこの世界では正常に機能しているらしい。外傷にまで効果を発揮するのか疑問だったけど。
「それじゃあ一度戻りましょう。ジャレッドさんも心配してますよ」
俺がそういうとディーノさんは頷いて二人でメリアさんを運んで帰る。
そういえば空の色が元に戻っている。あのドラゴンが起こしたのか?
俺は疑問に思いながら馬車の方へ戻った。
「そうか、分かった。にしても浩輝にはなんて礼を言ったらいいか。それに竜種を倒すとは、いやはやお前が恐ろしく感じるよ」
「そんな、できることをしただけですし。そういえばドラゴンの死体をそのまま置いてきたんですけど大丈夫ですか?」
「ああ、それは王都に着いたら報告して回収してもらうさ。それにしてもこれでまた浩輝的には面倒ごとが増えるんじゃないか?」
ジャレッドさんは真剣な顔でこちらを見てくる。
おそらく貴族のことを言っているのだろう、アルノスを出るときにグレイさんからも注意されている。
「はい、でも大丈夫です」
俺のことを取り込もうとする貴族は必ず出てくる、そうグレイさんに言われているから最大限注意していく。
俺がそう答えるとジャレッドさんは「そうか」とだけ答えディーノさんの方を向く。
「ディーノ、何か今回のことで思うことはあるか」
「はい、自分は驕っていたのだと今は反省しています」
「そうだ、この世に絶対なんて言葉は無い。確かにこの辺りの魔物でお前に倒せない相手はいないだろう。だが今回のようなこともある。少しの油断や驕りが仲間、そして自らの命に直結する場面もあるんだ」
ディーノさんの目を見てジャレッドさんは話す。そしてディーノさんはそんなジャレッドさんから決して目を離そうとしない。
そうして二人を見ていると話が終わったのかジャレッドさんがこちらに話しかけてくる。
「雨も上がったし、二人も戻った。王都へ向かいたいんだがいいか?」
「ええ、もちろんです。メリアさんは馬車の中で休んでもらいましょう。二人に話してきます」
俺は馬車の中の二人に事情を話して許可を貰えないか頼んでみる。
二人は色々言いたいことがありそうな顔をしていたが、メリアさんのことは快諾してくれた。
メリアさんを馬車に乗せて俺はまたジャレッドさんの後ろに乗せてもらう。
「それじゃあ出発するぞ」
ジャレッドさんがそう言うと馬車の御者やディーノさんも進みだす。
それから小一時間程だろうか、他愛もない話やこの辺りのことを聞きながら進んでいると、城壁のようなものが見えてきた。
「あれは何ですか?」
「ああ、あれは城壁だ。このエルゼリア王国の王都エルゼリアは昔作られた城壁をそのまま使っているんだ。古いが護りの堅い、この城壁の中に町を作ったんだ」
どうやら城壁で間違いないらしい。それにしても中に町があるだけあってとてつもない大きさだ。
そんなことを考えながら進んでいくと人が列を組んでいる。城門で審査があるらしい。
しかし、呼ばれているだけあって顔パスで通れてしまった。
「さあ、浩輝様。ここが王都エルゼリアです」
御者が馬車を止め、ジャレッドさんとディーノさんも馬から降りる。
三人も馬車から降りてきた。メリアさんはなんだか申し訳なさそうにしている。
「申し訳ございません、浩輝様。私達が不甲斐ないばかりに助けていただき、あまつさえ乗馬させるなんて……」
メリアさんは頭を下げてくるがこればかりは仕方ないと思う。
「顔をあげてください、ドラゴンが相手でしたし。それに不意に起きたんでしょう? 仕方がないことですよ、自分は気にしてないですから」
「ありがとうございます。そう言っていただけると少し心が軽くなりました」
そう言って笑顔を作って見せる。
「それじゃあ浩輝様、王城へ案内します」
御者と話を終えたジャレッドさんがこちらへ戻ってくる。俺は一度二人の方へ視線を送り頷いたのを確認して「大丈夫です」と答えた。
ジャレッドさんに続いて俺たちは王城へと歩き出した。
そこは石の壁に囲まれた台座、黒色の靄が再び現れていた。
「……ツルギガヌケタゾ……イイノダナ、ワレノイチブミズカラカイホウスルトハ……シカシ、トキハマダ。モウスコシダゾ。人間共め」
靄はやがて地面に消えていった。
そこに藍色の剣を残して……
今回見てくれた方ありがとうございます。
ついに王都に着きました。竜種が今回は登場です。私の疑問に思っていた環境破壊したら不味くないか?
というのをどう戦えばマシになるかというのを考えてみました!
次回からは王都で浩輝は大きな決断を迫られます!
ではではまた次回会いましょう。
それでは皆さんよい読書を!!