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初っ端予定通りではありません!!

「はあ~」


 俺は大きくため息をつく。


「どうかしたのかい? 今日はやけにため息が多いようだけど」


 グレイさんがそう言ってコーヒーを入れる。

 俺は今、グレイさんにこれから必要になってくるであろうことを教えてもらっていた。


「す、すみません。何でもないです」


 正直頭の中は昨日のことで一杯だった。

 まさかシーラ様から求婚されるとは……

 あの後理由を一応聞いてみたのだが、それが「初めて私に向き合ってくれた人だから」だという。

 それって向き合った人が誰であろうと関係なくないか? と思ったが口に出さずに「考えておきます」と答えておいた。


「そうかい? それじゃあ続けても大丈夫かな?」


「はい。お願いします」


 グレイさんは不思議そうな顔をするが話を続ける。


「それじゃあ、さっきまでのおさらいから入ろうか。まずは王都までの道のり、ここアルノスから馬車でおよそ五日程掛かる。それまでに通る場所は覚えているかい?」


「えっと、確か小さな村を四つと町を二つ抜けるんですよね?」


「そう、そして次に今回浩輝君が王都に着いてからの予定。これもしっかり覚えているかい?」


「はい。まず王都に到着後は王宮へ向かい国王陛下へ謁見する。その夜は王宮で開かれるパーティーへの出席、翌朝に他の二人と顔合わせをする。そのあと二日は自由に行動して四日目で勲章の授与式に出席してアルノスへ帰ってくる」


「よし。それじゃ浩輝君、これからシャルロットと一緒に正装を買いに行ってみてはどうかな?」


 確かに俺はこの世界の正装を持っていないし、どこに見えがあるのかも知らない。

 服は前の世界ままだったのだが、流石にこれから先ずっとというのもなんだかおかしな気がする。


「そうですね、シャルロットさんを探して頼んでみます」


 俺はグレイさんの部屋を後にする。

 シャルロットさんはこの時間、いつもギルドか避難所の掃除をしている。

 とりあえずギルド内を一回りしてみよかなと考えていると後ろからこえをかけられた。


「あ、浩輝じゃない。おはよう」


 後ろを振り向くと起きたばかりなのだろうか、リアーナが眠そうにして立っている。


「おはようってもう昼になるぞ? というか眠そうだけど、もしかしてさっきまで寝てたのか?」


 そう聞くとリアーナは頷く。

 それにしてもなんだかふらふらしてて危ない気がする。


「とりあえず顔洗ったらどうだ、すっきりするぞ? ほら肩貸してやるから……」


 俺はそう言ってリアーナを支える。


「ありがと……」


 リアーナはそう言って歩き出す。

 顔を洗い終わると眠気もなくなったようでシャキッとした顔になる。


「それで浩輝、私をここまで連れてきてくれたことには感謝するけど、あなた何か用事があるんじゃないの?」


 リアーナに言われて思い出したが俺は町に正装を見に行かなくちゃいけないんだった。

 でもなんでリアーナはそんなことがわかるのだろう?


「ああ、街に出かけて王都で着る正装と普段着を見に行こうと思ってたんだ。町に詳しくないからシャルトットさんに案内してもらって」


 俺がそういうとリアーナは「あー」と声を出して頷く。


「確かに浩輝のその服この辺じゃ見たことないものだし、正装も普通必要になることないものね。シャルなら今日は町に買い出しに行く予定立ててたと思うけど、多分もう街に出ちゃったんじゃないかしら?」


 マジかよ。

 俺がどうするか悩んでいるとリアーナが少し顔を赤くして提案してくる。


「私が付いて行ってあげましょうか?」


 確かにその提案はありがたい。

 しかし、なぜリアーナはもじもじしているのだろう?


「こっちとしてはありがたいけどいいのか?」


「ええ、もちろんよ!」


 今日のリアーナは本当にどうしたのだろうか。

 いつもなら面倒くさいと言って断りそうなのだが、森で木の実を取りに行って帰ってきた辺りから少し変だ。


「そういえば、グレイさんにはいつ話してみる?」


 俺がそう聞くとリアーナは首をかしげてこちらを見てくる。


「話すって何を?」


「もう忘れたのか? リアーナが魔法を学ぶ許可をもらうんだろ?」


 俺は森でリアーナがグレイさんに魔法の勉強をさせてもらえないと聞いて、それならもう一度頼んでみようということになったのだ。


「ああ、そのことね。それなら今日の夜でどうかしら? 服を買いに行った後ならちょうどいいんじゃない?」


 確か今日は服を買いに行く以外に予定はない。


「了解。それじゃあ行くか」


 そう言ってギルドを出て商業区画に向かう。


「そういえば浩輝。昨日あれからどうだったの?」


 あれから? 何のことだろうか。


「シーラ様と何かあったの?」


「ああ、そのことか。うーん、夜の町を少し散歩しながら話をしてただけかな」


「へー、夜の町をね?」


 あれ、なんでだろう。リアーナの機嫌が悪くなった?


「ちょ、なんで顔を背けるんだよ。どうかしたのか?」


「別に、何でもないわよ」


 リアーナはそう言ってむすっとする。


「あ、そうだリアーナ。あの木の実はシャルロットさんに渡したのか?」


「ええ、渡したわよ。大体二日で完成するらしいから、出来たら浩輝にも知らせるわね」


 俺とリアーナは、そんなたわいもない会話を続け大通りまで歩いてくる。

 大通りの反対側に店があるようで横断しようとしたとき、道端で座り込んでいる女の子が目に入る。

 リアーナも気付いたようでこちらを見てくる。


「ねえ君、どうかしたの?」


 俺は女の子を怖がらせないように、しゃがんでなるべく優しく落ち着いた声で話しかける。

 女の子は驚いたようで怯え後ろに引いてしまう。


「大丈夫よ、落ち着いて?」


 リアーナが俺の前に出て声をかけると、女の子は少しこちらの様子をうかがってから口を開く。


「……おねーちゃんたちは誰?」


「私はリアーナでこっちの男の人は浩輝って言うの。あなたのお名前は?」


「クロ……」


「そっか、クロちゃんって言うのね。とっても素敵な名前ね?」


 リアーナは子供の扱いがすごく上手だな……さっきまで怯えてた子が今では名前を褒められて少しうれしそうに笑っている。

 なんでこうも違うものかと考えるがさっぱりわからない。


「それで、クロちゃんはこんなところで一人でどうしたのかな?」


「えっとね、お母さんがね、迷子になっちゃったの。だからね、ここで待ってるの」


 それから少し話を聞いてまとめてみる。

 今日はクロちゃんのお父さんの誕生日で、お母さんと買いものに来たらしい。

 それで人通りの多い大通りまで来たわ良いけどはぐれてしまって、クロちゃんは道の端によって座り込んでいたらしい。


「それじゃあ、お姉ちゃんたちがお母さんを見つけてあげるわ」


「本当? お母さん見つけてくれるの?」


「ええ」




 俺たちはクロちゃんのお母さんを探して歩き回ってしばらく経つが、見つかる気配はない。

 クロちゃんも初めは元気に歩いていたのだが、今では表情は暗く、足取りが重い。


「クロちゃん、手を繋ぎましょう?」


 リアーナがいきなりそう言った。

 なるほど、そういうことか。

 手を繋いだらクロちゃんの表情が少し明るくなった。手を繋いだのはクロちゃんの不安を和らげるためだったようだ。


「ん? どうかしたの?」


 リアーナと繋いでいる反対の手を俺に差し出してくる。

 これって握ってほしいのかな?

 俺は疑問に思いながらもクロちゃんの手を握ると、少しうれしそうな表情になる。


「それじゃあ、行こうか?」


「うん」


 リアーナの問いかけにクロちゃんが元気よく返事をすると、俺たちは三人並んで歩きだす。

 少し人が減り少なくなってきた。


「クロ! クロ!!」


 ッ! クロちゃんを呼ぶ声、でもこれは男の人の声だ。


「お父さんの声がする!」


「ちょっと、クロちゃん!?」


 そう言ってリアーナは急いで追いかける。

 俺も後を追いかけるが、その先に待っていたのは意外過ぎる人物だった。


「「え、エルドさん!?」」


「お、リアーナ様に浩輝じゃねーか。もしかしてクロのやつが世話になったのか?」


 クロちゃんのお父さんってエルドさんだったのか……あの後エルドさんに聞いた。

 クロちゃんのお母さんはクロが居なくなったことに心配して探したが、見つからないためエルドさんに知らせて二人で探していたようだ。

 どうやらエルドさんは結婚していて子供もクロちゃん以外にも二人いるらしい。


「二人とも邪魔したな、ほらクロもお姉ちゃんとお兄ちゃんにありがとうしろ」


「ありがとう!」


 そう言って二人はギルドの方へ歩いて行った。


「それにしてもエルドさんが既婚者だったとは。リアーナは知ってたのか?」


「いいえ、初めて知ったわ。それにしてもエルドさん、よっぽどクロちゃんがかわいいんでしょうね。ずっと頬が緩んでたわね」


 そう言うリアーナも頬が緩んでいるけど……

 俺たちは服屋に向けて歩き出す。


「そういえばリアーナは子供が好きなのか? 子供の扱いも慣れているみたいだったし」


「そうね、子供は好きよ。だって純粋でしょ? あの無垢な瞳は美しいと思うわ」


 んー、ちょっと何言ってるかわからん。

 おそらく貴族として生きてきたリアーナには、どこか俺と違う感性があるのだろう。


「そうなのか。それにしてもちょっと遅くなったな、どこか昼食をとるか」


 俺がそういうとこちらをキラキラした目で見てくるリアーナ。

 一体何を考えてキラキラさせてるんだ?

 俺が不審に思っているとリアーナが口を開く。


「ねえ、お店に入るんじゃなくて買い食いをしてみたいわ!」


「買い食いか? 別にいいけど、どうして買い食いなんだ?」


 俺がそう聞くとリアーナはその顔をさらに嬉しそうにして俺に返事をする。


「だって今まで買い食いはダメだってお父様が言うから一度もしたことないのよ。そして今はお父様はここにはいないのよ? チャンスは今回一度きりなのよ!」


 妙に興奮気味にそう話してくるが、果たして大丈夫なのだろうか。

 これ俺が怒られるんじゃね? でもまあ、いいか。

 あんなに嬉しそうにはしゃいでいるリアーナは見たことがない、リアーナのこんな表情を見られるのなら怒られてもいいか。


「おーい、リアーナ行くぞー」


「わかったわ、ちょっと待ってね」


 そういってリアーナは深呼吸をしてこちらへ近づいてくる。


「もう大丈夫よ、落ち着いたわ」


 そういえば俺もこの世界に来て木の実とシャルロットさんの料理以外はあまり食べたことがない。

 今の避難所で出てる料理もシャルロットさんがまとめてやっている。

 確かに宿で働いている人たちも手伝ってはいるが、ほぼシャルロットさんだ。


「ところで屋台とかってあるのか? この辺じゃ見かけなかったけど」


「それはそうよ、この辺は服や生活必需品を売っている通りだもの。食事をするなら二つほど先の通りがいいわよ。そこにはレストランがたくさん並んでいるわ。でも私たちが行くのはもう一つ手前の通り、食材を取り扱う店が並んでいるところ。そこに出店はあるの」


 なるほど、区画の中にもそうやってジャンル別に分けられているのか。

 以前の世界と比べ違和感を感じるが、それがこの世界なのだろう。


「それじゃあ、行くか。案内よろしくな」


「ええ、任せなさい!」


 そういうとリアーナは意気揚々と俺の前を歩いていく。

 しばらく歩くとまた人の多い通りに出た。


「ここか?」


 俺がそう質問するとリアーナは頷いた。


「そうよ、この通りに出店はあるわ。もうちょっと先になるけどね。他にもいろいろあるのだけど、それはまあ今度にしましょう」


「了解、それじゃあ出店を一通り回ってみるか」


 リアーナも賛成といわんばかりに何度も頷いている。

 こちらにまで楽しみだというのが伝わってくる。

 それから俺たちは一通りどんな出店があるのか見て回った。


「いろんな出店があるんだな。串焼きに、蒸かした芋とか」


「そうね、前来たときはシャルとお父様の付き添いみたいな感じだったからあまり見れなかったの。でもまさか、ここまでたくさんの出店があるなんて思ったなかったわ」


 そういうリアーナはとても楽しそうにしている。

 さてこれからどの屋台を回るかなんだがなんだか不安だ。

 お金に関しては全く問題ない、魔石での収入が丸々残っている。


「浩輝、とりあえずすべての出店を制覇するわよ!」


 あ、やっぱり言い出しよった。

 出店は量が少ないが店数が多い、この挑戦をやると大体謎の達成感から気持ち悪くなってダウンするまでがテンプレである。


「それはやめておいた方が良いぞ。俺もそんなに食べれないし」


 一応止めてみるがそれでも止まらなかった。


「うっ、気持ち悪いわ……」


「だからやめとけって言ったのに」


 案の定リアーナは死にそうな顔をしている。

 俺はじゃがバターみたいなのがあったのでそれにした。

 これが安い、この間の報酬でもらったメルという単位の金額はどうやら日本円で言う千の単位らしい。メルの下にはミルという単位があった。

 じゃがバターが一皿50ミルと、どうやら日本よりも物価が安いらしい。


「それよりも、そろそろ服を見に行きたいんだけど……」


「ああ、そうよね。それじゃあさっきの通りに戻りましょう?」


 それから先は早かった。

 こっちの世界では正装は白色らしく、黒色というのはほとんどないらしい。喪服などは黒色だが正装はほとんどが白のタキシードだ。

 俺は店の人とリアーナに白が基調でタキシードで決まった。

 蝶ネクタイが気持ち悪かったので普通のネクタイにしてもらった。


「それにしても浩輝、あなた髪色が黒色だから絶妙に似合わないのね」


「仕様がないだろ? 髪色は選べないんだから」


 実際選んでいるわけだが自分を納得させるためにそういう。


「あ、それと普段着まで見てもらって悪かったな。この服大切にする」


 そう、今回は普段着の購入も目的の一つだった。


「そういえば、浩輝」


「ん? どうかしたのか?」


「シャルはよかったの? 今日はシャルと出かける予定だったんじゃ?」


 確かにその予定だったが別に約束してたわけじゃない。


「大丈夫、別に約束してたわけじゃないしね」


「そう、それならよかったわ……今日はありがと……」


「急にどうしたんだ」


 いきなりお礼だなんて、どうかしたのだろうか?


「いつもならできないことや、したことのないことを経験できた。とても楽しかったわ……だから……」


 リアーナが俺の横を通り過ぎるその時、俺の頬に何か柔らかいものが触れる。

 俺は驚いて後ろに居るリアーナを見た。

 顔を真っ赤にして、俯いている。


「それじゃ、またあとで会いましょう」


 そう言って走っていく。

 俺はしばらくそこから動けずにいた。

 周りをよく見ると昨日、シーラ様から告白された場所と同じだった。



 翌日、俺は王都へ向かう準備が整ったことをシーラ様に伝えると、少し早いが王都へ向かうことになった。

 それで今、馬車に乗り込もうとしているわけだけど。


「浩輝君、忘れ物はしてないかい? それと私たちも王都に向かうから、何かあったら遠慮なく私たちを訪ねるんだよ?」


「はい、ありがとうございます。大丈夫です」


 昨日買った服を着て馬車に乗り込む。

 本当にこういうところは過保護気味だな……ま、ありがたいことなんだけどね。


「それじゃあ、お先に王都へ行ってますね……そういえば、リアーナはどこですか?」


「あれ、さっきまでそこに居たんだけどな……部屋に戻っているのかもしれないな、浩輝君が王都に行くのが寂しいのかもしれないね」


 昨日あんなことがあった手前、そんなわけないとは言い辛い。


「そろそろ出発いたします。グレイ様、お離れ下さい」


 騎士の人達がそう言って馬に乗る。


「それじゃあ、リアーナによろしくお願いします」


「ああ、分かった。気を付けるんだよ~」


 俺は窓から乗り出し手を振る。

 やがてグレイさんが見えなくなったので客車に戻ると、シーラ様何か楽しそうにしている。


「どうかしましたか?」


「いえ、少しお話に夢中になってしまって……」


 そう言ってシーラ様は視線を前に向ける。

 気になったので俺もシーラ様の視線の先を見るとそこにはいるはずのない人物が居た。


「リ、リアーナ!? こんなところで何してるんだよ!」


 今回リアーナはアルノスでシャルロットさんと留守番する予定だった。

 昨日の夜、グレイさんから魔法の勉強や練習の許可が下りたので留守番中にミラさんと魔法の猛特訓だって燃えていた。


「だってあなたといた方が楽しいし、魔法の勉強なら帰ってからできるじゃない? どちらを優先するかは明白よ」


 ちょっと待て、意味が分からない。


「まあまあ、今回の旅にリアーナさんも同行するということでよろしいのではないでしょうか」


「そういうことよ、浩輝」


「はぁ-!?」


 そんなこんなで俺たちを乗せた馬車は王都へと向かう。



今回見てくれた方ありがとうございます。

今回はちょっとグダグダ回になっちゃいました。

買い物デートと出発までですがちょっと長かったですかね?

次回は浩輝たちの王都までの道行きです。

ではではまた次回会いましょう。

                                 それでは皆さんよい読書を!!

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