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同じ未来はいりません!!

「わあ~、見てください浩輝様! 大きな水路ですよ。知識としては知っていましたが、実際にここまで大きいとは思っていませんでした!! あ、浩輝様見てください。あっちには……」


「ちょ、ちょっと待ってください。そんなに遠くに行かれると見失ってしまいます」


 俺はそう言ってシーラ様を追いかける。

 リアーナと話をしているとシーラ様がなぜか部屋を訪ねてきたのだ。

 そのあとシーラ様に散歩に誘われて町に出たのだが……


「あの、シーラ様。それで私に何の用ですか?」


 いい加減に話を進めたい、俺はそう思い、話を切り出す。


「え、ああ? 私が浩輝様の部屋を訪ねた理由ですね。えっとですね、実はなんとなく話をしてみたかった、ただそれだけなんです」


 ただ話をしてみたかっただけ? でもそれなら部屋でもよかったんじゃ。

 そんなことを考えているとシーラ様が顔を覗き込んで来る。


「ならどうして町に出てきたのか、そんなことを考えてるんじゃありませんか? 顔に出ていますよ」


 俺は驚くが、ならなぜ町に出たのかを聞いてみる。


「町に出たのは少し歩きたかったのもあります。ですが何より一度二人きりで話してみたかったんです」


「二人で、ですか?」


 二人で話したいことってなんだろう?

 再び歩き出しながら話を続ける。


「浩輝様、あなたはどうお思いなのですか? 今回の王都への招集について」


 ん、招集? 招集ってことは呼ばれたのは俺だけじゃないのか?


「すみません、シーラ様。招集ということは私以外にも集められている、ということですか?」


 俺がそう聞くとハッとした顔になる。


「そう言えば浩輝様は途中で退出なされたのでしたね。グレイ様には先にお話しさせていただきましたが、今回王都には浩輝様を含めもうお二人程お呼びしています」


 二人……もしかしたら俺と同じあの女神様の被害者なのか?


「一人目はローレライの異名を持ち声で対象を破壊する、魔導士ミュール様。次に二人目、その拳は岩をも砕くという拳闘士、フェルト様。そして浩輝様の三人が今回招集されています」


「それで私を招集する理由は何なのでしょうか?」


「今回は勲章の授与をお三方にするとともに報奨金を……」


「それだけじゃないのではないですか? そうですね、例えば我々に何かさせるとか」


 今回のことで王国側が俺の力を手に入れに来るのは分かるが、三人まとめてというのが気になる。

 それにここにシーラ様が来る理由もわからないのだ。


「すみません、私にはわかりません。国王陛下は何か考えているのかもしれませんが……」


 どうやらシーラ様も知らないみたいだな……


「そういえば、他の二人はどんなことで今回勲章を授与されるんですか?」


 俺は火事の収束とサラマンダーの討伐らしいが、他の二人はどんなことやらかしたんだ?

 少し興味がある。


「ミュール様は海上都市にて現れた水竜の討伐、フェルト様はダンジョンの奥地に孤立してしまった王国研究員の救出です」


 水龍の討伐にダンジョンに取り残された研究員の救出って、俺より大分凄くない?

 そんなことを考えているとシーラ様はにっこりと笑って補足してくれる。


「水竜とは言ってもおそらく浩輝様の考えているものとは違うと思いますよ? 危険度もサラマンダーより低く、竜とはいってもどっちかというと大きなウミヘビです。とはいえ単独での討伐は非常に困難を極め、十年に一件挙がるかどうか、ダンジョンに至ってもサラマンダー級の魔物はほぼ出ませんよ」


「そ、そうなんですね」


 でも結局俺と同じ規格外なんでしょ、と心の中で突っ込みを入れる。

 

「はい、今回招集される三人の中でも最もすごい偉業を成したのが浩輝様なのですよ。胸を張っていいと思います」


 これは励まされているのだろうか?

 なんだかよくわからないがとりあえずお礼を言っておいた。


「そして王都に着いてからの予定についてなんですが、これについてはまた明日グレイさんを含めてお話ししましょう」


「わかりました」


「それで次になんですが、浩輝様には今回王都へ向かわれる際にお決めいただきたいことがございます」


「決めてほしいことですか?」


 何だろう、先ほどの話で三人同時に召集される理由はわからなかったが今度のはまた別の話なのか?


「はい、先ほどお話しした召集される理由とは別件なのです。どうか王国騎士になっていただけないでしょうか」


「王国騎士、ですか?」


 俺は一瞬王国側に俺を取り込もうと相談してきたのかと思ったが、シーラ様の顔を見て違うことを悟った。


「はい。現在王国の騎士たちの練度は過去最低といっても過言ではなく、それに伴い王国の治安悪化が進んでおります。なので浩輝様に騎士団へ入団していただき、騎士団強化及び練度の底上げを狙いたいというわけです」


「それは国王陛下からですか?」


 そう聞くとシーラ様は真剣な表情で頷く。


「あ、でもこれは強制じゃありませんので断っていただいてもかまいません」


 少し焦ったように補足してくるが、俺が気になったのはそこではない。

 騎士団の弱体化に伴う治安の悪化、か。あの謎の男に何か関係があるのかもしれないな。


「申し訳ございません、シーラ様。騎士団への入団はお断りさせていただきます。それでいて厚かましいのですが、今回の火事で少々気になることがございまして。そのことについて王都についてから騎士団の記録などを見て調べさせてもらえませんか?」


「わかりました、国王陛下にお話ししてみます」


 シーラ様はそう言って立ち止まる。

 

「見てください、浩輝様。ここからならとても綺麗に町が見えますよ」


 俺はシーラ様に言われ町の方を見る。

 すると寝静まり光が消え静かな闇に包まれている住居区画。

 夜ということを感じさせないほどにせわしなく働き、工場を復興させていく工業区画。

 わずかな光が漏れ人の営みを感じさせる商業区画。

 麦などが静かに風に揺られどこか幻想的な雰囲気を醸し出している農業区画。

 俺たちはそれらを一望できる場所まで歩いてきていたようだ。


「とても美しいですね、夜だというのに何故か寂しさを感じない、温かな気持ちになる」


「そうなの、ですね。私は哀愁を感じます」


 そう話す横顔には寂しさを感じる。


「なぜなのでしょう。確かに一見優しげな雰囲気なんですが、どこか強がっている。そんな風に思えてしまいます」


「強がり、ですか。確かにそうかもしれませんね……」


 ほとんどの人が火事から前を向いて歩きだしたが、そうじゃない人もいる。

 高齢者の方や女手で子供を育てている人なんかがそうだし、怪我をしてしまった人たちなど、まだ前を向けない人が居る。


「けれどこの町を見ていて思ったんです。いろんな人がいるのにほとんどの人が前を向いて立ち上がっている。この町をもう一度活気あるころに戻したい、そういう気持ちで一丸になっている。そんな気がします」


「きっとまだ前を向けない人たちも何か思うことがあるのだと思います。でも領主であるグレイさんにギルドマスターのエルドさん、お二人の姿を見て心の中では思ってるんじゃないでしょうか。自分も前を向かなければ、変わらなければいけないって」


 グレイさんは毎日、早朝から夜遅くまで書類向き合い、空いた時間に避難所で生活している人に会いに行き話を聞いたり、不足しているものはないかなどの管理もすべて一人でしている。

 もちろん手伝っている人は居るし、俺も手が空けばすぐに手伝いに行くのだが、正直人手が全く足りていない。

 グレイさんはそれらを無理をしながらもやり通しているのだ。

 エルドさんはいつ寝ているのか正直分からない。

 この町に魔物が出るとわかってから対策を考えているが、この町に居る冒険者の数が足りず見回りなどの警戒をすべてひとりで担っている。

 しかも今は仮設の避難所で生活人もいるため少しの侵入も許せない。

 それでいて冒険者に対して指揮や防衛戦が行われた際、どのように対処するかの緊急マニュアルを考えているそうだ。


「そうなんでしょうね。お昼頃、浩輝様達と別れた後に町を見て回ったり話を聞いてみましたが、どなたもお二人があれだけ頑張っているのに、自分たちが弱気になれるはずがないと言っていました」


「だからこそ私もグレイさんに力を貸したくなります。できることはないかと探してしまうのです」


 火事の中で俺が力を使ったのは、正直グレイさんへの恩返しという部分が強かった。

 しかし、今では純粋に力を貸したいそう思う自分がいる。


「そうだったのですね。それでこんなにも人間らしさのあふれる街ができたのですね……」


「グレイさんやエルドさんを見て、町のみんなも自分もそうありたいと憧れ、伝播していったんだと思います」


「なるほど、です」


 そこからは少し沈黙が続いた、でもその沈黙は決して不快なものではなく、ただ街を眺めるだけで心が温まる気がした。


「浩輝様、私の話なんですけれど少し聞いていただけませんか?」


 シーラ様は町の方を向いたままそう切り出す。

 シーラ様の昔の話かな? おそらくこれが二人きりで話したかった話題なのだろう。

 俺は静かに頷いて視線を町の方へ戻す。


「私は昔、周りからよくお転婆と言われていました。その頃は何をしても楽しかったんです。とにかくなんにでも興味を持ちました。森に行ったり、湖に行ったりしてよく御付きのメイドを困らせてしまって。とにかく活発な女の子でした」


 シーラ様がお転婆娘だったのか。今の様子からは考えられないな。あ、でもさっきのあれはシーラ様の素の姿だったのか。

 シーラ様は微笑で話を続ける。


「ですがある日を境に父であるアルファード国王は、私にいろいろなことを強要してくるようになりました。それまで父は優しくいつも笑顔の絶えない人だったのですが、その日からは笑顔が消え、無表情か怒りの顔しか覗かせないようになりました。私は外に出ることを禁止され、その日からずっと部屋で、礼儀作法の勉強ばかりさせられるようになりました」


 前の世界の俺と似ている……か。

 長男だからこれをしろ、あれはするな。そんなことをずっと言われてきた俺はなんとなく王女様の言いたいこと、思っていることがわかる気がした。


「私だって本当はもっと自由に世界を見て回ったり、したいんですけどね」


 そういう彼女はどこか悲しそうで、でもどこかそれに納得しようとしている。

 そんな声だった。

 俺はあまりにも以前の自分と似すぎていて驚き、そして何とかしてあげたい、そう強く思った。


「シーラ様は本当にそれでいいのですか?」


 俺は思わず口に出していた。本当は言うつもりはなかった、けど。


「どういうことですか……?」


 それで諦めてしまうと、本当に以前の俺のようになってしまう。


「シーラ様は国王陛下がどうして変わられてしまったのかわかっているのでしょう? それにちゃんとお話はしたのですか?」


「そ、それは……」


 以前の俺は逃げていた、父と向き合うのが怖くて。

 どんな時も正しかったあの人と違う意見を述べることを恐れて。

 でもここにきて、グレイさんたちと出会って、短い期間だけど一つ分かったことがある。


「シーラ様は国王陛下と向き合うのが怖いのではありませんか? 自分の選択が間違っているかもしれないからと向き合うことを恐れ、立場などを利用して逃げているだけでは?」


「浩輝様に何がわかると言うのですか!!」


 シーラ様は顔を真っ赤にしてこちらを睨んで来る。


「私と浩輝様は違うのです。浩輝様は平民だからしがらみがなく自由なのかもしれないですが、私は王族なのです! 父は国王であり、国や民たちの象徴なのですよ! この重さが浩輝様にはわかりますか!? 私だってあなたのように自由にやりたいことをやってみたいと思いますよ。でも私は王女だから自分を押し殺してでも貫き通さないといけないものがあるんです!!」


「確かに俺には王族の責務とかその辺りのことは分かりません。でも本当にやりたいことなら覚悟を決めるべきです」


 俺がそう言い切るとシーラ様は少し言葉に詰まる。


「私は本当は王族とかそんな事にとらわれずに自由になりたいんです。でもそうすることが出来ないんです。だから自分のやりたいことを諦めて覚悟したんですよ」


 シーラ様は泣きそうな声でそう言うが、俺は首を横へ振る。


「違いますよ、シーラ様。それは楽な方に逃げているだけです。覚悟というのは困難だとわかっていても、不安や恐怖を受け止め前に進む決死のことです」


 俺はなるべく落ち着かせるようにけれどはっきりと告げる。


「シーラ様、国王陛下と一度向き合ってみてはいかがでしょうか。自分で決めつけずに、一度本音をぶつけてみては?」


 俺がそういうとシーラ様はゆっくりと頷く。

 するとシーラ様は隣に腰掛け少しだけ地中を預けてくる。

 


 しばらくしてシーラ様も落ち着きを取り戻したのだろう。

 シーラ様はこちらを向いて頭を下げる。


「浩輝様、ありがとうございました……」


「先ほどは偉そうなことを言って申し訳ありません」


「いいえ、私こそ大切なことから逃げっぱなしだったの教えていただきました……その、少しだけお恥ずかしい姿をお見せしてしまいましたが。もう大丈夫です」


 どうやらシーラ様も落ち着いたようだし、ギルドへ戻ろうと提案しかけたときにシーラ様が俺の前に立ち、堂々と告げてくる。


「では初めに浩輝様に言わせてもらいますね」


 シーラ様は満面の笑みでこちらを見てくる。


「何か嫌な予感しかしないんですけど、なんでしょうか?」


「いやな予感だなんて、ひどいです浩輝様」


 心なしかシーラ様がこちらによって来てる気がするんだけど。

 それに若干顔赤いし。


「浩輝様、どうか私と結婚してください!」


「は? はー!?」


 俺の叫び声は深い夜に溶けていった。

今回読んでくれた方! ありがとうございます!

いや、だいぶ遅くなりましたが無事投稿できました。

今回はシーラ様の過去と抜け出したいしがらみ、浩輝の思いがぶつかりましたが。

いやはやいい方向? に進んでよかったです。

次回は浩輝、王都へ向かいます! まあ、何事もなく王都に着く筈もなく何が待ち受けているのでしょうか。

ではではまた次回会いましょう!

                              それでは皆さんよい読書を!!

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