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浩輝ついにバレる!?

 ガタガタと揺れる馬車の中で、私、シーラ・エルゼリアは大きなため息をつく。


「お父様は何を考えているのかしら。アルノスに居るかもしれない英雄様をお迎えしてきなさい、だなんて。何を考えているのかしら……」


 父、アルファード・エルゼリアの命令で私はアルノスに居るという、サラマンダーを単独で撃破したという英雄様を迎えに行くためこうして馬車に揺られているわけなのだけれど。


「何が英雄様よ。頭おかしくなったのかしらお父様は」


 この英雄様のことが分かったのは数日前、たまたまアルノスに帰省していた近衛と、それについて行った王国の筆頭騎士長が遠目で見た、と父に話したのだ。

 すると父は、その土地の領主であるグレイラッド・ルミエールに文書を送ったのだが、帰ってきた内容にはそんなことは全く書いていなかった。

 しかし、逆に不自然になっているところもあった。

 魔物が現れた、とあったがアルノスには魔物が居た前歴が無いためほとんど冒険者は居ない。

 それにも関わらず火事が起こって間もないというのに、この速さで返書が書けるというのは火事の方は収拾がついているのだろう。

 冒険者がおらず、人手が足りてないはずのアルノスでこれは早すぎる。


「でも、いくら何でも私である必要はないでしょ」


 私はこれでも一応エルゼリア王国第三王女なのだ。

 なぜ使いの者を送らずに、私が直接行かなければならないのか、そこだけがわからない。


「まあ、いいわ。その英雄様というのに会ってみましょう」


 私は街道を走る馬車の中で、英雄とはどのような人なのか、それ以前に本当にそんな人居るのかと想いを馳せる。




「リアーナ、大丈夫か?」


 俺たちは絶賛迷子中である。

 街道に戻ろうと来た道を引き返していた時、リアーナが小さなリスのような小動物を見つけたと言って、来た道から外れてしまったのだ。

 さらにリアーナは足を挫き、膝を擦りむいてしまったため、俺が回復魔法を使っている、という状況。


「ありがとう、もうほとんど痛みは引いたわ。それよりもここはどこかしら?」


 辺りは薄暗く、深いところまで来てしまっていたようだ。

 俺もリアーナを追いかけてきたので来た道を覚えていない。


「とりあえず俺が木に登ってみる。上から何か見えるかもしれないし」


 俺はそう言って木を登る。

 一番上まで登ると、アルノスの町が見えた。

 しかし、そこまで直線的に帰ろうとすると森の中を突っ切る必要があるので、俺は街道を探す。


「どうかしら? 何か見つかった?」


 下からリアーナが大きな声で話しかけてくる。

 俺は木から飛び降りてリアーナの前に着地する。


「アルノスの町は見えたけど街道の方は見つからなかった。とりあえず町のほうに歩いてみる?」


 そう言うとリアーナは頷いたので、町の見えたほうに歩きだす。

 しばらく歩き続けているが、先ほどからリアーナが申し訳なさそうに俯いてる。


「リアーナ、そんなに落ち込まなくても。ほら、もう少しで明るいところに出れそうですよ!」


 前方は少し開け、木々の間隔も空き、光が差し込んでいる。

 先ほどまでいた所と違い、いつも見ている光景だ。

 リアーナが、はっとした表情になって言う。


「ここから先ならわかるわ。こっちよ」


 リアーナは此処がどこだかわかるようで、確かな足取りで進んでいく。

 

「ここは森のどのあたりなんだ?」


 俺がそう聞くとリアーナはこちらを振り向くと人差し指を立てて説明を始める。


「この辺りは森の中でもアルノスからかなり遠い所よ。あなたと初めて出会った頃の場所から更にアルノスから200メートル程離れた場所よ。でもおかしいわね、私たちが実の採取を始めたのは、町からもそう遠くない場所よ? いくら何でもここまで来れるわけがないわ」


 確かにその通りだ、リアーナの言うことが正しいならばここまで短時間で来れるはずがない。

 以前グレイさんはこんな森の奥で、と言っていたし、馬車に乗ってもそれなりの時間を要した。

 あそこが森の奥の方であるならば、さらに奥であるここに町から歩いてきて昼間、というのはおかしい。


「とりあえず街道に出て町に帰りましょう」


 俺がそう言うとリアーナは「ええ」と返事をして、再び歩き出す。

 それからおよそ十分程歩くと街道に出た。

 俺とリアーナが街道を歩いていると、後ろから声を掛けられた。

 こんなところに人が居るのはおかしい、そう思った俺はリアーナを庇える位置で後ろを振り向いた。


「ああ、警戒させてしまいすまない。こんなところで二人子供が何をしているのか気になってしまってね」


 そう言ったのは、鎧を着こんだ人達だった。

 騎士、なのだろうか? それが3人程居て、馬車を囲むようにして馬に乗っている。


「私たちは森に木の実を採取しに来ていたんですが、いつの間にか奥の方まで来てしまって。今からアルノスへ戻るところなんです」


 俺がそう答えると騎士の人は他の人達と目配せし、頷くとヘルムを脱いで馬から降りてくる。

 こちらへ近づいてきて俺達に一緒に来ないか、と提案してくる。

 その時リアーナが後ろの馬車を見て驚いたような顔をした。


「ちょっと失礼します」


 そう言ってリアーナは俺の腕をつかんで、少し離れた場所で俺に耳打ちする。


「あの馬車、王族の物だわ。中に王族の方がいらっしゃるはずよ」


「でもリアーナ、それならなぜあの騎士は俺達に話しかけてきたんだ?」


 護衛と言うなら話しかけずに通り過ぎた方が良いはずだ。


「それは簡単よ、多分彼らはアルノスに居るあなたのことを探してるのよ。あなたサラマンダーを倒したんでしょう? そんな戦力、国が放って置く筈が無いもの。大方、私達から情報を得ようとしているんじゃないかしら」


 なるほど、しかしなぜ使いなどを送ったりせず、王族が直接来る必要があるのだろうか?

 普通なら使いを寄越して、情報を集めさせるなり見て来させるなりで、確認を取るのではないだろうか。


「しかし、なぜ直接王族が? 普通使いの者を寄越すんじゃ?」


 リアーナにそう聞くと彼女は頷くが、その顔は少し焦りを帯びている。


「お父様は今回、あなたのことを公にするのは危険だから、利用しようとしてる人から隠そうとしたのよ。

ただ、それでも人の噂や見聞きした体験談を話す人は必ず一人は居るものよ。おそらくあなたのことが王族に知れてしまったのね。きっと英雄って担ぎ上げるつもりなんじゃないかしら」


「ちょっと待ってくれ。英雄ってそんな」


 俺は驚いてたじろいでしまう。


「あなたの意志は向こうには関係ないのよ。一度担ぎ上げればこの国に縛れるし、国からの命令もできる。あなたを操り人形にもできるのよ」


 それを聞いて背筋が凍りそうになった。

 しかし、本当にそうだろうか? 確かに戦力の確保という面においてこの国に居てもらいたい、ここは確かに国もそう思っているはずだ。

 でもこの国に縛り付け、操り人形のように動かしたいと本当に思っているのだろうか。

 疑問を持った俺はリアーナに問いかけようとするが、先ほど話しかけてきた騎士が待ちかねたのか、声をかけてきた。


「君たちどうかしたのか? どこか怪我でも?」


「いいえ、そういうわけじゃないんです。すみませんが先ほどの話、お言葉に甘えさせてもらっても構いませんか?」


 リアーナがそう言うと騎士は頷く。


「ああ、もちろんいいとも。男の子の君は私の後ろに、女の子は彼女の後ろへどうぞ」


 そう言って俺は話しかけてきた騎士の後ろへ、リアーナは馬車の左側に居た女の騎士に相乗りさせて貰った。


「よし、それじゃあ行くぞ」


 俺たちが乗ったのを確認すると、前へ進みだす。


「そう言えば、騎士様たちはどこの騎士様なんですか?」


 リアーナが女の騎士にそう質問した。

 さっきリアーナは王族の馬車と言っていた、つまり彼らは近衛騎士なんじゃないだろうか?

 

「私たち? 私たちは後ろの貴族様に雇われたしがない騎士よ。たいした騎士じゃないわ」


 彼女は柔らかな声でそう言うが、騎士である時点で大したことないはずがない。

 それに彼女らの装備品からも、一般の騎士とは異なっているのがわかる。

 彼女らは騎士だがこの世界では剣を使う人はごく少数で、ほとんどの騎士と呼ばれている人たちも魔法使いで、その中でも魔導学院を卒業した人は魔導士と呼ばれている。

 そして魔法はマナを魔力に変換して発動させる。そのために魔力の変化効率を上げるために杖を使うらしく、ミラさんに聞いた話だと杖自体の大きさと、使われている魔石の質によって杖の性能は決まるらしい。

 だから魔力変換効率はその魔導士の強さの指標にもなるし、基本的に売られている杖は大きなものが一般的である。

 しかし、彼らに杖を身につけている様子はない。

 つまり大きさをカバーできるほど強力な魔石を素材にしているか、元から強いかのどちらかである。


「でも魔法は使えるんですね? ちょっと見てみたいです!」


 リアーナは興奮している子供のように女の騎士にねだった。

 彼女は困ったような顔をするが俺の前に居る男の騎士が、「俺が見せてやるよ」といって、男は魔法の光の玉を召喚して見せた。

 これは先ほどリアーナに言った光源を生み出す魔法だ。

 しかし、うまい。やはりこの人たちはただ物じゃないはずだ、光源を生み出すときに全く眩しいと感じることがなかった。これは魔力のコントロールがしっかりしている。

 魔導学院を卒業している人なら比較的できる人が多いらしいが、逆に言えば魔導学院の卒業者というエリートたちでもできな人が居るというのに、この人は難なくやって見せた。


「わぁ~! すごいです!」


 リアーナがそう言ってはしゃいでいる。

 そう思っていると、リアーナがこちらを見て目を細めてくる。

 そうか、リアーナは俺にこの人たちの魔法の実力を見せるために。

 俺が気付いたころにはリアーナはもう前を向いていた。




 あれから三十分ほど話をしながら移動をしていると町が見えてきた

 話は主に先日の火事のこと、その時にすごい人を見かけなかったかというものだった。

 俺たちは見ていないと答えたが、これもいずれはバレてしまうだろう。


「そら、アルノスに近づいてきたぞ。もうちょっとで町に着くぞ」


 男の騎士がそう言うと、他の二人の騎士もどこか緊張感にも似たものが走った。

 それが伝わったのかリアーナの顔も少し強張っている。

 そのままギルドの前に馬車を止めてもらう。


「どうもありがとうございました」


 俺たちがそう言うと騎士の人達も手を振ってくれる。

 馬車が見えなくなったのを確認すると、俺たちはグレイさんに報告に行くことにした。

 ギルドの中に入ると、そこにはミラさんが居たので訪ねてみる。


「あ、浩輝君。午後からの魔法の授業どうしたんですか? 今日は此処に居なかったみたいですけど」


「すみませんミラさん。それよりもグレイさんがどこに居るかわかりませんか?」


 俺が焦ったように聞くと少し驚いたような顔をするが、ギルドの奥に居ると教えてくれた。

 俺たちは「失礼します」と言い、エントランスを抜けて奥に向かう。

 ドアの前までやってきた俺たちは、ノックして返事を待ってから入る。


「やあ、浩輝君。ギルドに居なかったようだけど……どうかしたのかい?」


 書類に向けていた目を俺たち向けると目を細め聞いてくる。

 流石グレイさんだ、こちらが切羽詰まっていることを見抜いたらしい。


「はい、実は……」


 俺たちは今までのことを話した、途中で何か言いたそうにしていたけれど黙って聞いてくれている。

 話し終わるとグレイさんがやはり、と言った表情をした。


「やはり来たか。この前に送った文書はまずかったか、今それを考えても仕様がないか。……浩輝君、今回この王族の訪問は君を探し、見つけ、王都につれていくつもりなのだろう。私たちは君のことを隠そうとしてきたんだが、どうやらそうも言ってられなくなったみたいだ」


 そう言ってグレイさんは後ろの扉を見る。


「どうやらいらっしゃったようだね」


 ギルドの入り口、エントランスが騒がしくなってきた。

 そしてしばらくするとドアがノックされる。

 グレイさんが返事をすると、外から先ほどの三人の騎士と真ん中に一人、とても美しい人が立っていた。

 俺たちを見ると騎士の皆さんはとても驚いている。


「お初にお目にかかります。アルノスの領主、グレイ・ルミエルーです」


「その娘、リアーナ・ルミエールです」


 二人が真ん中の女性に向け挨拶をする。

 真ん中の女性は高身長で空色の髪を腰まで伸ばし、キリっとした目をしている。


「エルゼリア王国第三王女、シーラ・エルゼリアです。グレイ様にリアーナさんですね、お噂は聞いております。今回の火事を短期間で納め、的確な指示を出している名領主だと。街も見ましたが復興の方も進んでいるようで安心しました。ところでこちらの男性は?」


 え!? だ、第三王女って、お姫様!?

 俺は驚き過ぎて固まってしまった。

 背中を誰かに突かれ後ろに少し目をやると、リアーナが頭を下げるように促してくる。

 俺が頭を下げるとグレイさんが紹介してくれる。


「こちらは浩輝です。このアルノスから生まれた新しい冒険者の芽です」


「それはそれは、浩輝さん頑張ってくださいね」


 彼女はそう言うとグレイさんの方に向き直る。


「今回の要件は分かっておられると思いますが、このアルノスにてサラマンダーを単独撃破した者が居ると、部下から情報を得た我々王族は、その方を王都に招きたいと考えています。その方は何処におられるのか、その情報提供をグレイ様にはお願いしたく思います」


 二人の言った通り目的は俺だったらしい。

 グレイさんは一瞬こちらを見て口を開く。


「申し訳ございません、そのことなのですが……」


「それは私です」


 グレイさんの言葉を遮り俺はそう宣言する。

 グレイさんは目を見開き、リアーナは口を手で押さえている。

 シーラ様は少し驚いたものの冷静に切り返してくる。


「それは本当ですか? 嘘であるならば訂正してください、でなければこちらとしても罰を与えなければならないので」


 そう言ってくるが、俺は全く迷うことなく「はい、もし必要であるならば証明させていただきます」と、言い切った。

 グレイさんは庇ってくれるつもりだったのだろう。先ほどはそうもいかなくなってきたと言っていたが、先ほどグレイさんは庇おうとしてくれていた、これ以上迷惑をかけるわけにもいかない。


「わかりました、それではここに居る私の近衛と戦っていただきます」


「わかりました」


 俺はそう言って騎士の相手をするべくギルドの訓練場に向かった。


今回見てくれた方、ありがとうございます!

最近投稿が遅くなってしまい申し訳ないです!

しかし、もう私の周りでは学園祭の準備をし始めている方もいるようで、私も22日の祝日がなくなりそうです(笑) 皆様の方は何かありますかね?

さて今回は王国側に浩輝の存在がバレたようです。

圧倒的な力を持ったものは狙われてしまう、仕方無いことですね……

そして次回浩輝はもうグレイさんには迷惑を掛けられない、と自らの正体を明かし、証明のために戦うそうです。果たして初めての対人戦&魔法戦です!

ではでは次回また会いましょう。

                                それでは皆さんよい読書を!!

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