ソシャゲの兵の夢の跡
あるところに男がいました。
男には時間がありました。単純に暇だったのです。
「ああ、暇だ暇だ。何か面白い暇つぶしはないものか」
男がつぶやくと、青い鳩の賢者がくるくると回りました。
「それならゲームはいかが? こちらなんてどうでしょう」
男は言われるままにDLしてみましたが、いきなりやれることがたくさんあって何をどうすればいいのか分かりません。情報の洪水に流されてちんぷんかんぷんです。
「いったい、まずは何をすればいいのだろう?」
男がつぶやくと、青い鳩の賢者は速攻で教えてくれました。
「まずはチュートリアルをクリアするといいよ」
男は素直にチュートリアルをプレイしました。
「なるほどなんとなく分かった。それからどうすればいい?」
青い鳩の賢者は待ってましたと言わんばかりに答えを返してくれます。
「ガチャをするといいぜ。強いヤツをゲットするんだ」
「今なら無料でたくさん回せるのさ」
「引いたら何が出たか教えておくれ」
男はそうなのかと無料のガチャを回して報告しました。
「こんなのが出たぞ」
すると青い鳩の賢者はびっくり仰天、喜色満面です。
「素晴らしい。これはとてもいい引きですよ」
「ああ、一番強いキャラクターが出ているぞ。うらやましいくらいだ」
「これなら当分安泰だねぇ」
気分がよくなった男はさらに質問をしていきます。
「このキャラを強くするにはどうすればいい? 効率のいいプレイ方法は?」
青い鳩の賢者は次々と答えてくれます。男はそのすべてをこなしていきました。
それは楽しい楽しい夢の時間。
どんどんのめり込んで、退屈も暇もありません。寝る時間も起きる時間もスタミナと相談です。
けれど……ついに、やることがなくなってしまいました。そう、カウントストップです。
手持ちのキャラはすべて強くなりきって、ストーリーも全部終わらせました。
「ううむ、これ以上強くなるにはどうするか」
困ってしまった男がつぶやくと、青い鳩の賢者はなんだそんなことかと笑います。
「そんなの、さらにガチャを回して新しいキャラクターを手に入れればいいのさ」
それに男は、初めて首を横に振ります。
「いやいや、もう無料分はすべて引いてしまった。それに、集まった石も全部ガチャに使っているんだ」
それを聞いた賢者はにやりと怪しく笑います。
「なんだそんなことか。そんなの、無料でできないなら課金してしまえばいいのさ」
男はなるほど、と天啓を得たような気になって、課金してガチャをしました。
たくさんの新しいキャラクターが手に入り、男はまた喜んで育成の日々に戻ります。
そうこうするうちに、男の欲求はさらに激しく高ぶりました。
「このゲームで最強になりたい」
もう青い鳩の賢者に聞かなくても、その方法は分かっていました。男はどんどん課金して、どんどんキャラクターを強くしていきます。かなりの時間とお金をかけました。
けれど、上には上がいるものです。
「だめだ、どうしても最強になれない」
とても人気なゲームだったので、時間もお金も、男より潤沢に用意できるガチプレイヤーたちがたくさんいたのです。ランキングとか見ても桁が違いました。
「どうすれば最強になれるんだろう」
男は久しぶりにつぶやきます。すると、もう他のゲームに手を出していた青い鳩の賢者は、なんだそんなことかと答えを教えてくれました。
「他に人がいなくなれば最強だよ」
なんて素晴らしい案だ。
男は自分の頭の悪さを恥じました。正攻法でダメなら足を引っ張ればいいのです。
早速男は行動しました。SNSでゲームのネガティブキャンペーンを行い、自分より強い人を見つけては執拗に粘着していきました。
男にはとてもそういう才能があったので、上位の人たちも下位の人たちもみいんなやめていきました。
当然、男は一番です。
「やった、一番だ! 最強になったぞ!」
喜ぶ男に、運営からのお知らせが届きます。
「―――このたびはサービス終了の~」
男は目の前が真っ暗になって、泣きわめきました。
ひどい、そんな、せっかく一番になったのに……―――