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1-4

 北の大陸で、伝説の勇者が携えし聖剣が見つかったらしい。そんな噂がヨシュア達の村まで届いたのは、つい先日の事。国の端も端、辺境の村まで届いたと言うことは、随分前に首都で話題になったことだろう。なにせ、首都までは馬でも一月半かかる。近くの町は馬で三日だ。運よく首都の商人と村人が町で行き合わない限り、なかなか噂話は届かないのだ。

 「リー姉さん!」

 「なによ、トア。十七にもなって、そんなにはしゃいで」

 「リー姉さんが落ち着きすぎてるの!だから、行き遅れるんだよ!」

 「うるさいわね!まだ二十二よ!!」

 ヨシュアから前世について打ち明けられてから七年。いつも通り配達と教会の手伝いを終えたリリアは、牛舎に駆け込んできた弟を睨み付けた。

 「いいから、早く!」

 「あ、ちょっと!なんなのよ!」

 問答無用で手を引かれ、二人は駆け出した。緑の繁る小高い丘からは、村の広場がよく見える。そこは普段とは違い、人だかりができていた。

 「勇者の剣が村に来たって!」

 「剣なんてどうだっていいわよ。噂でしょ?」

 「勇者の剣だよ!?噂は本当だったんだよ!」

 「勇者だか行者だか知らないけど、落ち着きなさい」

 「行者はあんまりだ!じゃなくて!勇者探しだよ!」

 「勇者探し?」

 「そう!剣が抜けたら勇者!首都から騎士団がきてる!」

 きらきらと子供のようにはしゃぐ弟に、リリアは顔をしかめた。こんな辺境の村に、勇者が居るわけがない。魔物は生息しているが、結界により村には入ってこられない。その程度の低級魔しかいないのだ。余程、野盗や野犬の方が恐ろしい。

 「走る必要あるの!?」

 「あるでしょ!勇者誕生かもしれないんだよ!?僕かも!」

 「自警団の弱い方のくせしてよく言うわね」

 「なんだよ、僻み!?」

 「抜いてからいいなさい」

 丘を下り終え、仕方なく広場に向かうが、ふと、リリアは足を止めた。

 「リー姉さん速く!」

 「ヨシュアは?」

 それほど気にしていなかったヨシュアの話が、脳裏を過ったのだ。七年前のあの日から、思い出したら話すと言って、それ以降思い出せずにもやついていたヨシュアが。

 「ヨシュア?あいつも広場に居ると思うよ。一緒に試そうって話したから」

 「先に行くわ」

 「あ、ちょっと姉さん!そんなんだから、行き遅れるんだよ!?」

 「うるさい!」

 豪快に裾を掴んでたくしあげると、勢いよく人混みに突撃していく。何故だか、嫌な予感しかしなかった。

 「退いて退いて!通してちょうだい!」

 村人が全員集まるとこんなにも混み合うものかと、人を掻き分けながら進むと徐々に先が見えてきた。古めかしい苔が生した大岩の中頃に、まるで杭のように突き刺さったぼろぼろの剣が。

 「ヨシュア!」

 漸く人混みが開け、広場の人混みから一人飛び出した。

 「待て!一人ずつだ!」

 「そんなのどうでもいいわよ!勇者だか、行者だか!」

 「なんだと!」

 剣を抜くために作られた台には、既にヨシュアが登っていた。近づこうとすれば、警備の騎士に止められる。

 どうしてこんなにも嫌な予感がしているのか、彼女自身分からなかった。だが、どうしてもヨシュアを止めないといけない気がしたのだ。

 「ヨシュア!」

 彼が剣に手を添えた瞬間。大岩はバラバラと崩れ、不思議なことに光の粒に変わっていった。そしてそれは、ぼろぼろの剣に吸収されていく。

 「おお!勇者だ!ヨシュアが勇者だぞ!」

 それは誰の声だったろうか。嬉々とした声とは裏腹に、リリアは力なく座り込んだ。

 放たれた全ての光が吸収されるのは意外と早く、剣は新しく鍛え上げられたもののように煌めく。

 そう、彼は物語の主人公だ。

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