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「―――」
「……リリア?」
一通り打ち明けたあと、呆然としているリリアに声をかける。手汗が止まらない。こんな物語みたいな話を、彼女はどう思うだろうか。
「本の読みすぎと言いたいところだけど、ヨシュア読書嫌いだし…」
「信じてくれる?」
「うーん…嘘を言っているようには見えないけど…」
当然の反応だと思う。木から落ちた拍子に前世の記憶が蘇って、十歳の中身が十八歳になった。だから、無邪気さがなくなって、家の手伝いを進んでこなしていると。
そして、俺達が暮らしている世界は、前世では物語になっていて、俺は主人公。その物語は、周りの女の子達と恋愛をしながら世界を救う話。
だが、何から世界を救うかはまだ思い出せていないし、方法も分からない。ただ、サーシャ様やメリッサさん、妹であるミュシャ、あともう一人思い出せないが、その人のフラグ回収ののち世界を救う。
「でも、一夫多妻なんて、お貴族様のやることよ」
「そこ?」
「女の子としては大事なところよ」
前世の記憶うんぬんより、リリアはルートの多さが気になったらしい。世界を救うとか大層な話だと思うんだけど、そっちなんだ気になるの。
「全部のルート回収しなきゃ一人だけだよ」
「ルート?」
「何でもない」
全員を攻略するには結構な手間がかかるのだ。ステータスを満遍なくあげて、最強魔法を覚えて、隠しダンジョンクリアして…ここまで覚えてるのに、どうして敵について覚えていないのか。
「…よく分からないけど、股がけなんて最低だって、姉さんが言ってた」
「まだやってない」
「将来的にはする予定なんだ…」
「いや、うーん、な?」
「なにが、な?なんだか分かんない」
「兎に角!俺は十八で、生まれ変わって、今を楽しんでる!」
「あーはいはい」
「適当にあしらわれてる…」
「でも、なんで私に話したの?」
「勘。リリアには話さなきゃって」
「なにそれ」
「また何か思い出したら聞いてくれる?」
「暇なときに、ね。帰りましょ、ヨシュア」
呆れたように笑うリリアに、ほっと肩を撫で下ろした。自分の前世を疑う気持ちはないけれど、思い出せない敵やストーリーを考えても仕方がない。それに、半信半疑でも話を聞いてくれる人ができたのは心強かった。