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1-2

 日課である配達と教会の手伝いが終わった昼下がり。私はヨシュアに呼び出され、村外れの小川に来ていた。

 この間、木登り中に頭から落ちてから、様子がおかしい気がする。家族に話しても、友達に話しても首を縦に振る人は居なかったけれど。

 「リリア!」

 「サーシャ様にでも捕まった?」

 「あー…うん。ごめん」

 「大変だね、いつも」

 どうりで約束の時間に来ないわけだと、肩で息をするヨシュアを笑う。彼はいつも誰かと一緒だ。サーシャ様は領主様のご息女で、ヨシュアの事を気に入って毎日遊びに来ている。身分が違うので、ヨシュアの家族は恐縮しているくらいだ。だが、彼女は身分なんて、歯牙にも掛けていない。

 「その事についてなんだ」

 呼吸が落ち着いた頃、あまりにも真面目な顔をしてヨシュアは口を開いた。こんな顔をしたのは、隣のメリッサさんのお風呂を覗いたと自白した時だろうか。エルフのお姉さんは凄かったらしい。知ったことではない。

 「サーシャ様のこと?ついに婚約を迫られた?」

 「いや、そうじゃなくて…」

 「じゃあなに?またメリッサさんを覗いた?」

 「ち、違う!」

 「えー、本当に?」

 歯切れの悪い言葉と慌てた様子。間違いない、こいつはまたやりやがったのだ。鉄拳制裁が必要かと拳を握りしめれば、勢いよく首を振った。

 「本当だって!」

 「じゃあ、なんで顔赤くしてるのよ」

 「いや、思い出して…じゃなくて!じゃなくて!!」

 怪しんでいれば、背伸びをしながら肩を捕まれた。そのまま深呼吸を繰り返して、最後に大きくゆっくりと息を吐いてからこう言った。

 「俺、実は十八歳なんだ」

 「よし、テーナ先生のところに行こう。後遺症が出たのかも」

 予想外の言葉に、流れるように肩に置かれた手を掴んで村へと向かう。診療所はまだ開いている時間だ。

 「リリア、話聞いて!」

 「聞いてる。貴方はまだ十歳。私より年上だなんてよく言ったわ」

 引き摺るように道を進むが、ヨシュアの抵抗が結構強い。まるで、散歩を拒否する犬のようだ。

 「俺は十歳だけど、中身は十八なの!」

 「落ち着いて。いい?貴方は宿屋の息子のヨシュア。十歳で、私の弟と同い年。妹が居るわ。可愛くて、お兄ちゃん大好きの妹が。きっとこの間、木から落ちて記憶が混乱してるのよ」

 「混乱はしてる!でも、話だけでも聞いてくれ!頼むから!リリアにしか話せないんだ!」

 どうにも理解不能な事を言っているが、その様子は必死そのもので、仕方無しに手を離した。

 「話だけでも聞いてくれ!」

 「信じるかは別だよ?」

 「それでいいんだ。村の皆は簡単に信じちゃいそうだから」

 「なあに?信じてほしいの?ほしくないの?」

 話が矛盾していて、思わず笑ってしまう。これから話すことを信じてほしいのかと思えば、簡単には信じてほしくないと言う。

 「俺もまだはっきりは分かってないんだ。だから、とりあえず話を聞いて」

 「…分かったわ」

 「ありがとう」

 そのまま、どこかほっとした様子のヨシュアに手を引かれ、木陰に腰かけた。

 そういえば、いつもヨシュアは、この小川の畔で空を見上げていた。何かある事に彼はここに来る。良いことも悪いことも整理するように。木から落ちる前から、ずっとこの辺りはヨシュアの考える場所だった。

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