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1-1

 先日、俺は大変なことを思い出した。

 「ヨシュア、石頭でよかったな!」

 「父さんが気楽で良かったよ」

 「そりゃあ、ニールの家があんだけ血相変えてくればな。お前も急に落ち着いたし、卵とミルク安くしてくれたしな!木登り様々だ!」

 そう。俺は木登り中に足を滑らせて落ちたのだ。その後三日三晩寝込み、目覚めたときの衝撃といったら言葉にならない。

 「しばらくタダにしてくれるって言ってなかった?」

 「バカ野郎。木から落ちたぐらいでそんなことさせられるか!あっちだって商売だ。動物の世話だって大変なんだからな!」

 「そりゃそうか」

 滑り落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇ったのだ。俗に言うギャルゲ――恋愛シミュレーションゲームの世界に転生した。主人公の幼い頃のようだが、間違いないだろう。

 「そうだ、薪割り終わったのか?」

 「今から」

 「…本当か?」

 「頭打ってからサボってないだろ」

 「本当に木登り様々だよ」

 「どーも」

 前世を思い出してから、実年齢の無邪気さは一気に消えた。演じるのも難しい。十歳の少年の中身は十八の男だ。そんな器用さは持ち合わせていなかった。

 



 今の俺は宿屋の一人息子だ。そして、主人公だ。転生して、主人公というポジションに一番納得できた。どうりで、何もかも上手くいくわけだ。

 「ヨシュア君、今日も薪割り?偉いねえ」

 「マーガレットさん、おはよう」

 「ええ、おはよう」

 黙々と薪割りをしていれば、必ず村の人に声をかけられる。薪割りの時だけじゃない。いつだって、村を歩けば声をかけられたり、なにかもらったり、遊んでもらったり。兎に角、前の人生より人に懐かれる。人の好意をとても感じる。猛烈な好意を。

 「精が出るね」

 「リリア、おはよう」

 「おはよう」

 そんな猛烈な好意の中でただ一人、普通の人が彼女。一つに編まれた髪と気の強そうな顔つき。村で唯一の牧場の三番目。それがリリアだ。

 「中におじさんはいる?」

 「居るよ。配達お疲れ様」

 「前のヨシュアとは大違い」

 「成長したの!」

 「…トアがごめんね」

 「いいって。父さんも落ち着いたって喜んでる」

 「たまたまそうなっただけじゃない。おばさんしばらく寝込んじゃったし…」

 「母さんはたまたま」

 リリアが謝ったのは、俺が木から落ちたからだ。彼女の弟のトアとふざけていた最中だった為に、家族総出で謝りに来たのは記憶に新しい。

 「それでも競争しようなんて馬鹿言ったのはトア」

 「男には無茶な勝負も必要なの」

 「ガキがよく言うよ。まあ、何かあったら言って。話くらい聞けるから」

 「ありがとう」

 「じゃあ、また」

 「また」

 卵とミルクが入った篭を抱え直して、彼女は家に入っていく。小さい頃から配達が彼女の仕事で、お姉さんが外に嫁いでからは看板娘となりつつある。因みに、お姉さんは気立てもよくて美人だ。俺の妹が産まれたときも、母さんが忙しいときには面倒をみてもらった。まあ、それはいいとして。

 「やっぱりリリアしかいないよなー」

 正直に言おう。俺は前世の事を打ち明けたい。リリアに思い出したことをすべて話したいのだ。どうしてかって、簡単なことだ。彼女だけが、普通だからだ。他の人に言ったところで、変に信じられてしまいそうと言うか、なんというか。すんなり信じてほしくはないという矛盾がある。

 兎に角、今は薪割りをさっさと終わらせるしかない。でないと、今日も妹に捕まり、領主様のご息女に捕まり、それで一日が終わる。まだ、前世の記憶を整理するということも出来てない。リリアに話そうにも、まだ先になりそうだ。

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