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冒険者ギルド 1

「ん!」


 レンはむくれていた。

 ポンプで水を吸い出す作業にレンを呼んだが、釣り堀で一緒に遊ばなかったことを怒っているのだ。


「……レン、わかったから。今度遊びに行こうな」


「ん♪」


 ポンプで水を吸い出す。

 吸い出した水は転移門の魔方陣から外の池に排出する。

 水を吸い出しているとだんだんと底が見えてくる。

 ほとんどはブラウントラウト。その中にキラーフィッシュが混じっている。

 それも数十匹はいる。


「なんで混じったんだろうな?」


 レイは不思議でたまらない。

 するとレンが指をさす。


「マスターあれ」


 釣り堀の底で魔方陣が光っていた。


「転移門……ここからキラーフィッシュが送られてきたのか。でもどうして……」


「わからない。こんなところに転移門を作る意味はない。そもそも転移門はとても高度な魔術。魔王軍でも使えるのは四天王だけ」


「ちょっと待てよ……この間の侵入事件。これじゃないか?」


「どうやって? 遠隔で転移門を作る技術は存在しない」


「勇者の剣だ。あいつは勇者が生まれるとその村の近くに転移してくる」


 勇者の剣は勇者の隠れた才能(チート)を引き出す道具だ。

 その発露は完全にランダム。どの能力が当たるかはまったくわからない。

 今まで二百種類を超える能力が観測されている。もしかすると転移門を作り出す能力者がいるのかもしれない。


「勇者が来てるの?」


「そういう噂を聞いた」


 するとレンは小首を傾げて考えはじめた。


「そうだとすると困る。勇者は怖くないけど勇者の剣は怖い」


「そうだよなあ。勇者への対策が必要だよな……」


「どうすればいい?」


「そうだな……」


 レイは考える。

 そして一つの結論を絞り出す。


「俺たち冒険者登録をしようか」


「ん?」


 レンは釈然としない顔をしている。


「冒険者になれば最前線の情報が入る」


「ダークエルフじゃだめなの?」


「ある程度のランクが必要だ。それに今の姿なら顔は割れてないだろ?」


 確かに少女モードなら人間と区別はできない。


「面白そう……マスターやる!」


 レンはあまり表情を変えてなかったが、小躍りしていた。

 どうやらうれしいようだ。

 レイはそれを見て「機嫌を直してくれたなあ」と安堵した。



 なにをするかさえ決まればあとは行動するだけ。

 レイは次の日、道具を調えてレンと一緒に魔王領近くの街『レウ』の冒険者ギルドへ向かう。

 冒険者ギルドのドアを開けると、


「レーイ、おそーい!」


 ぷんすかと怒ったアリシアがいた。いやアリシアだけではない。

 シルヴィアもアーヤも一緒にいた。


「ちょっと待て。なんでお前らがいる?」


「私も一緒に遊ぶー!」


 アリシアはちゃんと低ランクの冒険者がつけてそうな皮鎧に剣を装着した姿。

 アーヤはローブに魔女の帽子をかぶって、水晶のついた杖を持っていた。

 シルヴィアは鋲を打った熊の毛皮に大斧。ファッションにこだわるシルヴィアである。ちゃんと傭兵崩れに見える。

 レイは自分の姿を見る。普通の服に調理用の万能ナイフ。それとテントや調理器具を入れたリュックサック。

 次にレンを見る。かわいい洋服にショルダーバッグ。……少し間違えたかもしれない。


「レイ、はやく登録しようよ!」


 アリシアに手を引っ張られてレイは受付に行く。

 だがなにか様子がおかしい。

 ギルドにいる冒険者たちがレイを遠巻きに見ているのだ。

 受付カウンターに辿り着くと、あわてた様子で受付嬢が走ってくる。


「ちょっと君! オークをギルドに入れちゃダメでしょ!」


 なぜかアリシアに受付嬢は注意した。


「俺はにんげん……」


「召喚獣でも連れて来ちゃダメでしょ! こんな見た目が凶暴なオーク。みんな怯えてますよ!」


「だから俺は人間だっつーの!」


 人間なのに魔王よりも人間に見えないレイであった。


「ほ、本当に人間?」


「レイは人間だよ♪」


 アリシアがそう言うと受付嬢はレイをつま先から頭まで見て「信じられない」と口にした。

 だが受付嬢もプロ。すぐに事務的な口調に戻る。


「失礼いたしました。それでは登録の前に犯罪歴を参照します。指名手配は登録の拒否になります。この水晶玉に手を置いてください」


 レイは王国では「犯罪歴アリ」なのである。

 だがそれを覆す一手がレイにはあった。


「素朴な疑問なんですが、戦争の英雄が他国では指名手配されてるってはよくありますよね? そういうときってギルドはどうするんですか?」


 戦時の英雄は自国では英雄だが、戦った相手からすれば犯罪者だ。

 火計やら都市への略奪などで指名手配されてるなんていう状態がしばしば起こるのだ。


「それは難しい問題ですが、戦争にはギルドは関与いたしません。現状は所属する国家の指名手配となっております。同時に借金などの信用情報も拝見しますので精度は高いと思われます」


 レイはその答えに満足すると水晶に手を置く。


「ヒューマン、犯罪歴なし……。信用情報……特AAA! 貴族なのですか!」


「いえ、食堂のおっさんですよ」


 レイはほほ笑んだ。

 レイの作戦は実にシンプルだ。現在レイの所属する国は魔族領。

 そこでの犯罪歴などない。完璧な偽装である。

 その後、アリシアたちも次々と検査をパスする。

 これで登録は終了だ。あとは……。


「よう、お嬢ちゃん。ガキがままごとしに来たのかよ! ガーハッハッハッハ!」


 という脳筋おっさんの処理だ。

 ハゲたおっさんがアリシアたちを見て笑う。


(こりゃ一発殴って黙らせるしかないかな……)


 とレイは拳骨を握って肩を回す。

 だがおっさんの前へ笑顔のアーヤが出る。

 そのままアーヤは耳に顔を近づける。


「不味そうな魂じゃのう?(ぼそッ)」


 ぼそぼそと耳打ちすると、おっさんはガクガクと膝を震わせた。

 そのまま泡をふき、前のめりに倒れる。


「アーヤちゃん……なにしてんの?」


「なにもしてないですよ♪」


 精神力を直接吸ったり、呪いをかけたり、魂をかじったりしたに違いない。

 この眼鏡っ娘、中身は死霊の王リッチである。


「おじさん、こんなところで寝ちゃダメですよ♪」


 アーヤはペロッと舌を出す。


(こ、怖い!)


 レイはアーヤだけは本気で怒らせないようにしようと思った。



「どの依頼を受けようっか?」


 シルヴィアはマイペースに依頼が書かれている掲示板を見る。

 掲示板は黒く塗った板に石筆で依頼が書かれていた。ちなみに字は下手くそである。


「そうだな。この盗賊の討伐ってどうよ?」



 開拓村を襲撃した盗賊の討伐。

 魔王領付近の山に潜伏していると思われる。

 人数は20名ほど。生死は問わないが、生きて捕縛すれば特別報酬を出す。


 報酬

 アジトの発見:銭貨1000枚と水晶塊

 討伐:20名で銭貨5000枚と水晶塊

 捕縛:1人につき水晶片一つ



「うん、いいんじゃないか。うちの連中もたまに襲撃受けるもんな」


「なあレイ。このお金だけどなんで金貨じゃないんだ? つうか水晶で支払いってなんだよ?」


 シルヴィアは不思議でたまらないらしい。


「ああ、辺境では金貨はめったに流通しないんだ。それに王国じゃあ、金貨は貴重すぎて豪商の決済専用だからなあ。宝石で払うのは宝石だったらかさばらないからだ」


 なお銀貨も卸業者くらいしか使わない。

 普通の商人は高額になれば水晶などの宝石で決済する。宝石なら、金貨や銀貨よりは重量が軽く持ち運びやすいからである。


「へー、だって宝石なんてレンに頼めば先史文明の技術でいくらでも作ってくれるじゃん。金の方はアーヤに頼めば錬金術でいくらでも作ってくれるのにな」


 当たり前のようにシルヴィアは言いのけた。

 アーヤやレンみたいに貴重品を作り出せる方がおかしいのだ。

 王国の庶民は金貨など見ないで人生を終えるものが大半なのである。

 レイは心の中で涙した。あくまで心の中で。だって用事があるから。


「まあ気にすんなって。すいませーん」


 シルヴィアとの文化の差は埋まらないので流す。

 レイは先ほどと同じカウンターに行った。

 先ほどと同じ受付嬢が対応する。


「この盗賊の討伐の依頼受けたいのですが」


「あの……初心者向けではない以来ですが、本当にお受けになるんですか? たとえ死んでも補償しませんよ。魔王領近くで盗賊やってる連中ですよ! そうとうな手練れなんですからね!」


 受付嬢は大きな声を出す。

 本当に危険なのだ。

 ところがレイは涼しい顔をしている。


「なにが問題なんですか?」


 魔王領どころか魔王城で働いているレイには通じない。すでに常識が壊れているのだ。

 すると受付嬢も「なにを言っても無駄だ」とあきらめたのか許可を出す。


「いいでしょう。でもダメなら永久追放です。それでもよければ」


「ではお願いします」


 受付嬢は「なに言ってやがんだコイツ」という冷たい視線でレイを射貫く。

 だがレイには効果がない。本当にレイたちからすれば雑魚なのだ。


「もう! 知りませんからね! はいはい、どうぞ死んできてください!」


 受付嬢はレイたちの依頼の受注登録をする。

 これで受注はできた。


「それじゃあ行って見よー!」


 アリシアは元気いっぱい拳を突き出した。

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