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プリンとゴーレム

 アリシアはプリンを食べている。

 その緊張感のない顔はとても幸せそうである。


「ん~! 美味しい!」


 ぷるぷるとアリシアは震える。

 耳もピクピクと動く。

 四天王も同じだった。

 今は全員がゆるキャラ形態だった。

 アリシアはふわふわ駄犬に。

 シルヴィアはぬいぐるみみたいな牛に。

 アーヤは落書きみたいなお化けに。

 レンは空飛ぶ円盤に。

 全員ぬいぐるみサイズのゆるキャラになっていた。


「ぷりんおかわりー!」


 アリシアたちはニコニコしながらおかわりを要求。


「おじさんね。ホント、魔王軍が心配だよ」


 レイがしみじみ言ってるとドンッと部屋が揺れる。


「お、なにがあった!?」


「冒険者さんが暴れ回ってるのかなあ?」


 アリシアは完全に他人事だった。


「放って置こうぜ。宝を手に入れたら帰るだろ」


 シルヴィアも他人ごとである。

 それもそのはず。ここ魔王城の居住区はダンジョンとは切り離された空間に存在するのだ。

 居住区はラストダンジョン前の村で営業している宿屋として偽装されている。

 地上は冒険者の食堂温泉完備の宿泊施設として賑わっている。

 そして地下は魔王軍の宿舎と従業員用地下食堂、それに四天王と魔王の家になっている。

 地下一階は倉庫に偽装されており、地下二階からは魔王城のダンジョンからしか入れないため絶対にバレない。

 まさか勇者どもも宿の下に魔物が住んでいるとは思わないだろう。

 さらに魔王城の正面から入ることのできるダンジョンには、見た目の豪華な中ボスと少し豪華な宝箱を設置。

 宝箱の中には勇者の剣を模した粗悪品の剣を入れておく。

 たいていの冒険者は中ボスを倒せば魔王を倒した気分になるし、剣を取れば満足して帰ってしまうのだ。

 原資はぼったくり価格の宿屋で回収。完璧なプランだ。

 これはレイのアイデアだ。理由もなく魔族をいじめる冒険者をまともに相手してやる必要などない。

 適当にあしらえばいいのだ。

 ちなみにこの村の店のほとんどは魔王軍経営である。

 それに……。


「私たち戦うの嫌いですし」


 アーヤがぽつりと言った。

 このアリシア、それにレイまで含めて魔王軍四天王の誰もが戦いが嫌いである。

 平和主義者なのだ。

 それに比べて冒険者は凶暴そのものだ。

 理由もなく攻撃をくわえてくる。


「マスター。レンは冒険者さんと仲良くしたいです」


 そういうお化けの頭をレイはわしゃわしゃとなで回す。


「そうだな。そのうち仲良くなれるかもな」


 イイハナシダナー。とレイが一人納得していると、ずずんと部屋が揺れる。

 がしゃり。

 あまりの揺れにプリンがこぼれる。


「あ!」


 全員のプリンが台無しになった。

 マルチーズ形態のアリシアが目に涙をためる。


「ふにゅううううううううん!」


「ぴいいいいいいいいいいッ!」


 シルヴィアも涙目で足をジタバタする。


「くすんくすんくすん……」


 アーヤはただひたすら泣いていた。


「わたしのぷりんわたしのぷりんわたしのぷりんわたしのぷりんわたしのぷりんわたしのぷりん……」


 レン無表情でブツブツと独り言を言っていた。

 ぽん!

 最初に変身したのはアリシアだった。

 アダルトフォームになって顔を真っ赤にする。


「人間め! 絶対に許さぬ! 駆逐してくれる!」


 アリシアがアダルトフォームでズカズカと部屋を出て行く。

 プリンが原因で駆逐される人類。

 ぽん!

 次にシルヴィアがアダルトフォームになる。


「よくも俺のプリンを……カチコミかけるぞ!」


 シルヴィアは巨大な斧を手にして部屋から出て行く。

 ぽん!

 今度はアーヤの番である。


「どおれ、愚かな冒険者どもの魂をしゃぶりつくしてやろうかの。くくくくく……」


 完全にキレている。

 普段大人しくてお嬢様然としているアーヤみたいなタイプがキレたら……怖いのである。

 ぽん! レンもキレていた。


「グギギギギギギ……プリン……許サナイ……ニンゲン殺ス……」


 レンは魔道(キャノン)を両肩に装着して、ズシンズシンと音を立てながら出て行く。

 その背中にレイは声をかける。


「暗くなる前に帰って来いよー。俺は晩ご飯とプリン作ってるからなー」


 レイはアリシアたちに手を振ると、こぼれたプリンを片付けて隣の部屋に入る。

 その部屋の中央には転送用の魔方陣があった。


「地下食堂」


 レイが場所を口にすると体を光が包み姿が消える。

 次の瞬間にはレイは地下の従業員用食堂にいた。

 魔王城と宿屋の食事は地下で作られる。

 レイが料理を作り、配膳用魔道エレベーターで宿の食堂に料理を運んでいるのだ。

 だがなにやら様子がおかしい。

「チュドーン!」とか「バコーン!」という音がしている。

 だがレイは気にしないことにした。

 レイは食堂のキッチンに行き、大きな肉斬り包丁を取り出す。

 夕飯の用意をしなければ。

 ところがドカン、バキンと音が響く。

 どうにも小うるさい。冒険者はここには入れないはずだ。

 だとすると人に化ける能力を持った誰かだろう。


「一応注意するか」


 レイは注意しようと廊下に出る。

 するとアリシアの声が聞こえてくる。


「ふははははははははは! 逃げろ逃げろ! 逃げ回れ!」


 どーん!


「アリシア! そちらに逃げたぞ! ええい、虫けらが!」


 ちゅどーん!


「魂をしゃぶってやろうかのう。クケケケケケケ!」


 ばしゅーん!


「ニンゲン、ユルサナイ」


 ちゅどどどどどどーん!


「……プリン作るか」


 なぜアリシアたちがダンジョンではなく、宿の方にいるのだろうか?

 レイはアリシアたちをスルーした。面倒だからだ。

 そのまま厨房で料理を続けていると、何者かが入ってくる。

 レイはこの世界ではまだ珍しいゼンマイ式の壁掛け時計を見る。

 まだディナータイムではない。

 だが食事を食べ損なったものが入ってくることはしょっちゅうだ。

 たぶん地上階で働いている獣人だろう。

 食堂で働いている他の従業員は休憩しているはずだ。

 レイは厨房から声をかける。


「おう、ランチの残りしかないけどそれでもいいか?」


「ひいッ!」


 なにやら様子がおかしい。

 冒険者は入れないはずだが……もしかすると泥棒かもしれない。

 レイは料理を皿に盛ると客席に持っていく。念のために牛刀は片手に。

 あまり品のある姿ではないが、もし魔王軍の連中だったら笑って許してくれるだろう。


「持ってきたぞ」


 ガタガタガタ! ガッシャン!

 レイがあわてて見に行くと椅子に突っ込んだ男がいた。

 男の髪は短髪で頭頂部が少し薄い。顔は貧乏くさいが、ゴツイ胸鎧を着込んでいる。ベテランの冒険者だろうか。


「ひいッ! オークキングだと! あ、新たな魔王が誕生したというのか!」


 魔王はプリンでお怒りである。


「なに言ってる? 俺は食堂のおやじ……」


「ひいいいいいいいいッ! 俺を調理するつもりだな!」


「俺はにんげ」


「ひいいいいいいいいッ! おかあちゃーん!」


 男は前を見ずに走る。

 男はそのまま大きな壁にぶち当たる。

 壁……いや、レンの体だ。


「ギギギギギ……ニンゲン。イタ!」


 そのまま魔道砲を乱射するかと思ったが、レンは男の襟をむんずとつかみ持ち上げた。


「グギギギギ。プリン……マモル」


「き、貴様ぁ! 俺はメタリア王国の騎士! 俺に危害を加えたらメタリアの騎士がお前らを地の果てまで追い込むぞ! いいのかコラァッ!」


 メタリアの名を聞いたレイの目が鋭くなる。


「おう、兄ちゃん。あんたメタリアの騎士様って言ったな? 勇者様は元気か?」


 まるで口調はおっさんだが、レイは25歳である。だが平民階級出身のためどうしても口調は荒い。

 騎士はレイにわめきちらす。


「そうだ、俺は世界最強国家のメタリアの騎士だ。俺を解放しろ! 俺になにかしたら勇者が黙ってないぞ!」


 騎士は喚きながら大暴れする。


「俺は絶対に死なんぞ! 貴様ぁッ! この薄汚いオークめ……いや待てよ。オーク顔の料理人……あんた……まさか……究極超人のレイ……」


 騎士の顔がみるみるうちに青くなる。


「そのあだ名は嫌いだ。レン、おっさんを離してくれ。おっさん、かかってきな。俺に勝ったら解放してやる」


 レンは言われた通り騎士を下に降ろす。

 レイはテーブルに包丁とエプロンを置こうと、騎士に背をさらした。

 そのときだった。


「くっそ、死んでたまるかああああああああッ!」


 正々堂々という言葉などそこにはない。

 騎士は容赦なく斬りかかる。


「それでこそメタリアの騎士様。クズを極めている」


 レイがそう口にしたときにはすでに騎士の視界からレイは消えていた。


「あ? どこだ? どこに行った!」


 次の瞬間、騎士の意識は遮断され視界が真っ暗になった。

 騎士の後ろには騎士の後頭部に手刀を振り下ろしたレイがいた。

 一瞬で背後を取り、無力化したのである。


「はいはい終わり」


「マスター、すごい」


「すごくないよ。普通だよ。レン、そいつを記憶処理したら魔王城の外に捨ててくれる? 夕食の後にプリン出してやるからな」


「ギギギギ。マスター、了解。デモ、コノ姿少し話シニクイ」


 ぽん!

 滑舌が悪かったのか、レンは少女の姿になる。

 レンは変身ポーズを取るように手を大きく回す。


「しゃきーん」


「口で言うのか」


 レンがポーズを決めるとゴーレムがやって来るので指示を出す


「間違えてこっちに入り込んだ侵入者。記憶処理後に魔王城入り口に廃棄」


「ピピピピピ、了解」


 レンは本当にただのゴーレムなのかだろうか?

 なんだか違うような気がするとレイは思うのだ。


「マスター、ゴミ捨てしてくる。終わったらアリシアたち呼んでくる」


「その姿で大丈夫か?」


「ん。マスター、こっちの方がいい。この姿なら四天王だと誰にもわからない。行ってきます」


「お願いねー」


 こうしてレイはまたプリン作りに戻った。

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