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勇者ミヒャエル

 結婚式場を作ったことで、人でごった返すようになった。

 芸人や吟遊詩人も仕事を求めやって来る。

 レイはそこまで考えてなかったが、信じられないほどの副次的な効果があった。

 ここまで人が増えるとは思ってなかったのだ。

 表向きというか帳簿もなにもかも完全に合法。

 教会にも多額の寄付……というよりも邪教の神官では足りず、殉教の旅に出ている神官まで雇いまくっている。

 たいていの宗教団体は出家信者をどうやって食わせるのかが問題であり、そこから腐敗していく。

 だから大量の神官を食わせている結婚式場に難癖をつける理由はない。

 お布施もしているし、会計もこれ以上ないくらいクリーン。

 地元経済に貢献もしている。ゴミ拾いや、側溝の掃除も積極的に参加している。

 懸念は冒険者など相手の商売である事だろう。でも身元のあやしい人物しかいない辺境の領主が「よそ者お断り!」では商売にならない。

 そもそも魔王領のすぐ近くなので領主はなにもしてない。なのにちゃんと敬意を払っているのだ。誰もおかしいと思わないし、人間以上に尊重されていた。

 ダンジョンでちょっと稼いでリッチな結婚式。瞬く間に若い冒険者の聖地と化した。

 少しやりすぎたかなあと思っても、もうレイすら、プロジェクト自体を止めることはできなかった。

 だが、この幸せな地を面白く思わないものがいた。

 商人、違う。

 他領の領主、違う。

 宗教組織、違う。

 それは最も役に立たないものたちだった。

 なんにでもクレームをつける集団。

「けしからん」以外の言葉を知らないのではないかと思わせる連中だった。


「どんどん社会が堕落していく! バカどもが浮かれおって!」


 もともと人間はそれほど高潔な生き物ではない。

 清濁併せ持っているのだ。だが自分を棚に上げて、それを否定する人間は少なくない。

 生育環境か、生まれ持ったものなのか。それはわからない。だが他人が楽しく暮らすのが許せないのだ。


「最前線で結婚式場などけしからん! 自粛すべきだ!」


「結婚式を見て傷ついている人もいるんですよ!」


「オレ、式場ニクイニクイニクイニクイニクイニクイ」


 そんな彼らの希望。

 それが勇者。自分以外の人類()を滅ぼす正義(わがまま)の使者。

 聖剣を振るい、炎上先に乗り込んで天誅を下す。

 愚か者たちの道化。最凶の存在なのだ。

 そんな勇者ミヒャエルは……街を焼いていた。

 発端はささいなことだ。

 女性店員がおつりを上から落としたことに激怒したミヒャエルは、自分たちの信奉者に念話を飛ばした。

 ……簡単に言うとSNSに愚痴を投稿した。

 すると数千ものリプライが集まる。

 曰く、普段からその店は態度が悪かった。

 客をなめている。

 そんな店は潰れてしまえ。

 ある程度の支持が集まるとミヒャエルは念話で自分の姿を送信。

 ……簡単に言うと、動画投稿サイトで実況をはじめた。


「今からこの店に天誅を加えまーす。獄・炎!」


 そう叫ぶとミヒャエルは、中にいた客ごと店を焼き払う。


「はーい、魔王軍の先兵を焼き払いましたー♪」


 犯罪者である。だが勇者の言葉は絶対だった。

 なぜなら勇者は常に声に洗脳魔法を載せていたのだ。

 興奮する視聴者たち。

 だが勇者の暴挙を止めるものもいる。

 街の衛兵がやって来たのだ。


「はーい、魔王軍がやって来ました! 今からぼくの剣技を見せますねー!」


 そう言ってミヒャエルは衛兵を次々と斬り捨てていく。


「あははははははははは!」


 地獄絵図の中、ミヒャエルは高笑いした。そしてミヒャエルはカメラの方を向く。


「魔王軍の街を焼き払いますねー!」


 そう言うとミヒャエルは獄炎で街を焼き払った。

 その街は魔王軍とは関係のない。ごく普通の地方都市。

 だがその名前は消えた。

 ミヒャエル。職業勇者。勇者の剣に選ばれた英傑。

 だが実体はただの人殺しだった。

 だが国は彼を野放しにしていた。

 なぜなら彼は人気者だから。

 いや……国王すらも洗脳されていたに違いない。

 マリーはこんなクズの後始末をさせられていた。

 勇者が焼き払った街を魔王軍仕業に仕立て上げる。

 それは騎士であるマリーには地獄そのもの。

 だから逃げた。真の勇者の元へ。


 全てが終わるとミヒャエルは爪を噛んだ。

 これで、いくつの街を焼き払っただろうか。

 もう亜人と人間の区別はつかない。

 どちらも無価値なゴミだ。

 国も恐ろしくない。逆らったら国ごと滅ぼしてやる。

 その時、ふいにミヒャエルの肩が痛んだ。

 ミヒャエルはうなり声をあげながら上着を脱ぎ捨てる。

 ミヒャエルの肩から心臓にかけて大きな傷跡が走っていた。

 ミヒャエルは傷跡を爪で引っ掻く。


「どうしても痛みが消えない。傷がどうしても痛む。なぜ勇者であるぼくがこんな思いをしなければならないのだ。すべてお前のせいだ!」


『お前』……それはレイのことだった。

 ミヒャエルの記憶に刻み込まれたのは恐怖。

 勇者であるミヒャエルが到達できない境地。

 それを見せつけられた。

 自分は神ではなく、ただの人間なのだと。

 天国から地獄へ叩き落とされた。

 プライドがズタズタになった。

 許せない。生かしてはおけない。

 レイだけではない。レイに関わる全てを焼き尽くしてやる。

 レイに味方をするものは全て魔族。魔王軍の先兵だ。

 レイやレイに関わるもの全てを焼き尽くしたとき、恐怖から逃れることができるのだ。

 だがミヒャエルはまだ知らなかった。

 レイが魔王軍四天王、さらにはオーク王になっているとは。

ちゃんと終わらせますよー

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