結婚式場
マリーが副官になって数日。特に問題はなかった。
幼なじみだけあって意思疎通は迅速。マリーは細かいところまでフォローしてくれる。
まさに有能な部下だった。
「レイ様、今日のご予定ですが……」
マリーはポンコツを隠しその有能さを発揮した。
オークたちもマリーの存在を受け入れ、特に不満も苦情もない。
もしかするとオークは自分たちとそれ以外の区別が曖昧で、適当なのかもしれない。
「今日は休日です。私と街に行って結婚式場の予約を取ります」
「嘘をつくのはやめなさい」
この世界の結婚制度はひどくいい加減だ。
戸籍制度がないので結婚と同棲の違いは些細な物だ。
そもそも辺境には式場などないし、結婚式は村の人たちの手作りだ。
つまりマリーは有能だが、それでもお嬢様で世間知らずなのである。
だが……レイは閃いた。
「ちょっと待てよ……マリー、ダークエルフを集めてくれ」
ダークエルフたちがやって来る。
するとレイは新たな計画を発表する。
「はいみんな。これから式場を作るぞ」
おずおずとダークエルフが手をあげる。
「こんなところで経営がうまく行くのでしょうか?」
「そうだな。今、魔王領を目指すのは貴族の子弟がほとんどだ。なぜなら俺が噂を流したからな」
「レイ……どんな噂を流したのかな?」
マリーは嫌な予感がする。
そういえば、魔王城について王国でわけのわからない噂を聞いたことがある。
「その内容は魔王城には定期的に魔王が発生し、だんだん強くなる。だから弱いうちに倒せば箔がついてお得だとな。だから冒険者たちはダミーのゴーレムを倒して満足するようになったんだ」
レイは極悪非道のプランを考えた。
魔王の存在はいつか発覚する。だから弱いダミーモンスターを魔王ということにして、定期的に倒せば怖くないと思わせることにした。
実際効果は出ており、箔をつけたい貴族の子弟が魔王城に殺到。
冒険者が彼らの子守に専念した結果、個々の生活は安定すれど全体的なレベルは低下。
おまけに高く防御力の高い防具は必要ないため、鍛冶屋は他の稼げる街に移動し、飾り職人ばかりが街にあふれた。
当然のように戦闘力は暴落したのである。
国のあずかり知らぬ所で最前線はすでに崩壊。国がおかしいと気づいたときにはもう修復は不可能だろう。
さらにレイは新たな策を思いついた。
現在、魔王周辺の街では出会いを求めた貴族の子弟、子女が大量に来ていた。
魔王城(偽)を攻略すれば英雄という箔がつき、出世にも加点される。
そして将来有望な若者をゲットするために貴族の子女は出会いを求め街までやって来る。
婚約者がいれば別なのだが、よい縁談、よい婚約者を持つものは少ない。
レイはそこで貴族の若者から収穫する手を思いついたのだ。
それが結婚式場である。
勢い余って現地で結婚を狙うのだ。
「若い男女がパーティを組めば面白いくらいに恋愛に発展する。つまり今必要なのは結婚式場だ!」
マリーはため息をついた。
なぜかレイはこういう所にはよく気づく。 マリーの気持ちはわからないのに。
「ということで、諸君らにはスタッフをやってもらおうと思う」
「あの……レイ様。私たちはダークエルフですが、大丈夫なので?」
ダークエルフはエルフの中でも神に見捨てられた部族とされている。
だからこそ魔王軍の一員になっているという事情もある。
「問題ないよ。中央の連中はダークエルフの知識はあるけど実際に見たことがないし」
ダークエルフたちは王国内において住処を追われているため、見たことのあるものが極端に少ない。
それほどレアな存在のため、王国民は恐ろしい姿をしていると思っている。
実際はエルフとあまり変わらない。ゆえにちゃんとした格好さえしていれば、そうそう見破られることはない。
「そ、それなら……やってみます!」
レイは笑顔になった。こうして結婚式場計画が遂行されることが決定したのである。
そして……その計画には必要な人材がいたのだ。
「それで……私ですか?」
玉座の間にアーヤを呼び出す。
アーヤの前には賄賂代わりのパンケーキが置かれている。
「うん。部下に神官がいるだろう? 少し貸して欲しい」
「レイ様、いることはいますけど……邪神様の神官とか、聖光中央教会を破門された神官ですよ」
「それでいい。王国の国教は聖光中央教会で国民はそれ以外の神を知らんのだ。ちょっと変わっていてもわからんよ」
「ちょっと」どころではないが、それでもいいらしい。
「あの……レイ様。レイ様は自身の信仰心とかは……?」
「ない。まったくない」
レイはふんぞり返った。
よほど嫌な目にあってきたのだ。
そんなレイを見てアーヤはほほ笑む
「それじゃあ、やりましょうか♪」
こうして魔王城の周辺で結婚がブームとなる。
どこまでもゆるい日々……。そして彼がやって来るのだ。