マリーさんに見つかる
レイは座っている。そこを取り囲むのは少女モードのアリシアたちとマリー。
アリシアは目に涙をためてレイに抗議する。
「れ、レイの浮気者!」
「誤解を産むような言い方をするな!」
だがアリシアはレイの話を聞かず、きゅんきゅん鼻を鳴らしながら体をすりつける。においつけである。
「きゅーん、きゅーん、きゅーん」
「やめんか! その姿だと誤解を産む!」
だがやめない。ぽんっと音がしてゆるキャラモードになると、アリシアはレイの膝に乗りそのままお腹を出す。
「なでろ」と言いたいらしい。
「はいはい。なでるのね」
なでなでなでなで。きゅんきゅんきゅんきゅん。なでなでなでなで。
「うらやましい……」
その姿を見てマリーが本音を口にする。
「ん?」
「い、いやなんでもない!」
どうしても素直になれない。
だから大声を出す。
「れ、レイ! どういうことか説明しろ!」
「説明か……そうだな。奴隷になってから冒険者の荷物持ちしてたんだが、魔王城に置いてかれた。腹が減って動けなくなったところをオークに拾われて以降、食堂のおっさん兼オークキングをやっている?」
「ちょっと待て。その説明はおかしい!」
マリーが怒鳴る。
そう言われてもレイにもよくわからない。
なんとなくこの地位に就いてしまったのだ。
「困った顔をするな。……つまりレイは魔族の国の大臣になったということだな」
「たぶんそれだ!」
いまいち自信はないが、たぶん大臣なのである。
きゅんきゅんと鼻を鳴らすわんこの世話係ではないはずだ。
そんなアリシアはしっぽをふる。
「レイはすごいんだよー!」
四天王たちも同調する。
「そ、そうだぜ! レイは凄いんだ」
「そうですよ! レイ様は凄いんですよ!」
「マスター凄い」
誰もが具体的にどう凄いのかが言えなかった。
やっていることが幅広すぎて具体的な例を出すことができないのだ。
だがマリーも同調した。
「レイが凄いのはわかっている。でもレイはなんの仕事をやっているんだ?」
「あー……マリー……内緒にして欲しいんだけど、今まで焼かれたり壊されたりしたプロジェクトあるじゃん」
「ああ、私が手伝ったやつもいくつかあるな」
「全部ここでやってる」
「ぜんぶ……?」
「うん全部。水耕栽培も村作るのもなにもかも……」
マリーはそれを聞いて胸が締め付けられた。
そう、レイは王国ではなにをやっても認められなかった。
片っ端から焼かれ、壊され、否定されてきたのだ。
全てが硬直した王国ではレイの存在は異物なのだ。
それはマリーの婿として戻っても同じだろう。
こちらの方がレイは自分の能力を存分に発揮し、自分らしく生きることができるのだ。
「レイ……わかった。私が間違っていた。レイはここにいて。たぶんレイはここで生きる方が幸せなんだと思う」
「お、おう。どうしたマリー」
「私は……レイの幸せを考えてなかった。レイは自由に才能を発揮すべきなんだ!」
マリーは目をキラキラさせていた。
「だから私が妻として支える!」
「結論が異次元に飛んだ!」
もはや意味がわからない。
だがマリーの中では妻は確定した。
「そう……だから……アリシアちゃん。私のことをママって呼んでもいいのよ」
マリーはアリシアに手を差し出す。
アリシアはマリーの手に顔を近づけ……
がぶり。
「いたたたたたたた! 痛い! ちょっと痛い!」
「ううううううううううううッ!」
アリシアはマリーの手を噛み続けるが、レイに首根っこをひょいっとつかまれる。
「がう?」
思わずマリーの手を解放すると、そのままアリシアはレイに抱っこされ大人しくなった。
レイはアリシアの頭を指でグリグリしながら聞く。
「なんで噛んだのかな?」
「うううううう。マリーはお母さんじゃないもん! レイの嫁は私だもん!」
アリシアはジタバタと暴れる。
「嫁……?」
その場にいた全員の脳裏に疑問符がよぎる。
シルヴィアが最初にツッコミを入れる。
「アリシア……それは少し無理があると思うぜ。だって嫁は俺だからな!」
斜め上方向である。
レイは頭を抱える。
そしてアーヤも参戦する。
「アリシアちゃんも、シルヴィアちゃんもだめですよ。嫁は私です」
「違う、マスターの嫁は私」
レンまで参戦。
ここで収拾がつかなくなると思われた事態は動き出す。
マリーが勝利宣言をしたのだ。
「ふふふふ。子どもの戯言など効かぬな。なぜなら私だけが大人の女性なのだ! レイの嫁を宣言できるのはこの私だけだ!」
マリーの勝利宣言。ところがアリシアたちは動じない。
ぽんっとアダルトモードになる。
そこには美女二人。それにリッチとゴーレムがいた。
「ふふふふ。我こそ滅殺万魔のアリシアなるぞ!」
アリシアが名乗りを上げる。
「暴虐戦士シルヴィア見参!」
シルヴィアも続く。
「レイ様、パス」
「ガガガガガ。マスター、パス」
アーヤとレンはパスを行使した。
さすがに勝ち目がない。
だが良く見ると、二人ともがんばっておしゃれをしたのがよくわかる。
「なんかすまねえな。いい子いい子」
不毛な戦いを繰り広げる三人を放置して、レイはアーヤとレンの頭をなでた。
「あー! アーヤちゃんとレンちゃんずるーいー!」
「あ、ずるいぞ! 俺も頭なでてくれ!」
「そうだぞ! ずるいぞ! 私は嫁なんだぞ!」
三人は一斉に抗議する。
レイはなんとなくわかってしまった。
マリーは四人と精神構造が同じなのだ。
だから次の行動は同時だった。
「レイは私のだー!」
マリーが抱きつき、アリシアたちも同時に抱きつく。
もうわけがわからない。
レイがいろいろとあきらめていると、部屋のドアが開く。
「すいません。レイ様。地下の農場のことで……ゴッド!」
「い、いや、これは違うんだ!」
「レイ様……やはりオーク王に覚醒しておられたのですね! そうグレート・セクシー・オーク王に! いえ、言いませんとも! なあ、みんなー!」
オークは部屋の外に走って行く。
絶対に言いふらすつもりである。
ここにグレート・セクシー・オーク王レイが誕生した。ちなみにまだ長くなる。
「そういやマリー、結婚は一端置いて、これからどうするんだ?」
「レイのもとで働く」
「だめー!」
アリシアがジタバタと手足を動かす。だがレイの直属部隊に人手が足りないのは明白だった。
こうして後に名を轟かせる魔王軍四天王【豚王地獄】レイの副官マリーが誕生するのであった。
なお嫁問題はまた再燃する。
このときレイは「アリシアたちはまだ子どもなんだろう」と思っていた。
そのときレイはまだ知らなかった。
狼は一生を同じパートナーと添い遂げることを。




