第2話 誤魔化し
「なあ、柊矢」
「……」
「なぁってばぁ」
浅い茶髪の野郎が肩に手を回してきた。
……うざい、チャラい、面倒くさいの三拍子が揃っている。とりあえずいつものように肘の裏辺りを思い切り殴っておくことにした。
「ちょっ!? またそれ!? 本当に痛いって言ってるじゃん!!」
「……」
「おーい、たらしイケメン女泣かせの柊矢くーん」
「今すぐうちの妹に右ストレートでその塞がらない口を塞いでもらうか、この家から出て行くか、どっちか選ばせてやる。三秒以内に選べ」
「あぁ! ごめんって! 怒った!? 怒ったよね!? 怒らせちゃったよね!?」
「どうせなら謝るか煽るかのどっちかにしてくれ……」
友人の西条寿光は肩を竦め、「ごめん……そんなつもりじゃなかったんだ……」と呟いた。いや、どんなつもりだったんだよ。怒らせる気満々だっただろ。
そう心の中で呟いた俺、宮国柊矢は柳田高校に通う三年。れっきとした受験生だ。今も寿光と一緒に、俺の部屋で教科書やら参考書やらを机の上に広げ勉強に励んでいる。ついでに言うと寿光は勉強していない。こいつ一体何しに来たの?
そんな寿光は、とうとう手に持っていた参考書すらも投げだし、床に仰向けで寝そべった。
「なぁ柊矢~」
今日は一段としつこいな……。
勝手に人様の家に上がり込んで受験生の勉強の邪魔をするとは本当に肝が据わっている。とりあえず無視を決め込んでおくことにする。
「…………」
「……お前さ、このままで良いと思ってんの?」
その言葉は、俺の中の何かを強く叩きつけた。鈍くて重い衝撃が心を打ち付ける。
そして、灰色の感情がひょっこりと芽を出す。胸にしこりのような心苦しさを感じる。
それは痛烈なまでに静かな部屋の中で、時間と共にどんどん成長していった。そうして、俺の胸を更に苦しめる。謎の罪悪感が俺を締め付ける。きっとこれは報いなのだ。受け入れるべき報いだ。
「……なんのことだよ」
堪らずそう聞き返した。何も言わずに黙っていれば、俺の中で育った芽が俺のなにかを突き破ってきそうだったから。それ程に苦しかったから。
それが表情に出たのだろうか、寿光は「なんでもねーや」とお茶を濁すように首を振り、その辺に転がっていた参考書を手に取って、適当にめくり始めた。
これで良かったんだ。俺はきっと……きっと間違っていない。