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哀愁カニバリズム  作者: 原田昌鳴
7/18

【7】


 M島二日目。

 昨日とうって変わって雲ひとつない快晴!

 目がくらむほどの太陽のもとであらためて周囲を眺めてみると、豊かな新緑の木々に囲まれ、しかも海まで望むことができるこのキャンプ場のロケーションはいかにも胸の踊るような開放感に満ちていた。その開放感に誘われたのか、本日このキャンプ場はたくさんの人で活況を呈していて、朝から飯盒炊さんをする者、バドミントンをする者、腕立て伏せをする者など、ざっと見積もって二十人はいらっしゃる。

 が、しかし、確か昨日ホテルの姉ちゃんは自分たちしか利用者がいない、と言っていたのであって、なぜ朝っぱらからこんなに賑わっているのだろうかと疑問に感じるのは当然である。しかもよく観察するとどの顔もやはり黒光りしており、若者はおらず、集まっているのは地元のじいさんばあさんだけであることは間違いない。それに気のせいか、全員がチラチラとこちらを伺いつつ炊飯、バドミントン、腕立て伏せをしているように見える。一等奇妙なのは、誰も笑っておらず、決して楽しそうではないということである。彼らはこちらのバンガローと一定の距離を保ち、決して近づく様子もないのであるが、試しに一服がてらバンガローのテラスで体操をしてみても、挨拶をしてくる者は一人もいない。

 おかしいではないか。キャンプ場においては、そこに集った者みな仲間、みな友達という雰囲気が通常ではないのか。

 部屋に入って外の様子がおかしいことを梶川に告げると、呑気に茶をすすっていた梶川は「気にすることはない、ウッホッホ」と言う。一本ぐらい乗り過ごしてもまた次の電車に乗ればいい、みたいな、そんな軽いノリで大丈夫なのかと自分が焦っていると、窓の外、さっきまでてんでバラバラに遊んでいた奴らが全員で梶川のトゥクトゥクを取り囲み、なにかぼそぼそと話し合っているではないか。

 ほら、これはただごとじゃあない。

「おっちゃん、やばいよ、もう気づかれてるよ、やっぱあの船員に話聞かれてたんだよ」

「大丈夫、大丈夫、だって僕たちまだなにもやってないじゃない。きっと僕の愛車が珍しいんだよ、彼ら田舎者だから見せてやれば良いのよ、イッヒッヒ。君、朝の日課で関節鳴らしたりしないの?」

 梶川がこんな調子なので、自分は勇気を出し、威嚇すべく窓をガラガラッと勢いよく開けた。奴らはビクッとしてこちらを見、トゥクトゥクから散っていき、再び無表情で炊飯やらバドミントンに戻っていった。とてつもなくわざとらしい。ここまでのわざとらしさは、こちらに恐怖のエモーションを与える。

 梶川を急かして準備をさせ、ようやく取材に出発することになったのは良いが、我々を乗せたトゥクトゥクが横を通って行く際、やはり彼らは笑顔も見せず、じっと威圧感のある目で我々を見送った。

 振り返ると、彼らは列をなして遠ざかる我々を凝視していた。言いようのない不気味さに自分はぶるりと震えた。

 それにしても厄介なのは、危機感や恐怖感をひしひしと感じている自分とは逆に、梶川は呑気そのものということである。我々は今、運命共同体、一蓮托生であるのに、他方がこれでは危ういに違いない。一方が石につまずけば、他方も膝を擦りむくであろう。同じトゥクトゥクに乗る者同士、意識の差異は危険である。相変わらずうひょーと奇声を上げる梶川の後ろで、自分はそんなことを考えていた。


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