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哀愁カニバリズム  作者: 原田昌鳴
13/18

【13】


 本日午後より厚い雲に覆われる可能性が高い。フラッシュなど使えない潜入取材のため、暗くなると困る。なので午前中のうちに祭りをやっている場所を特定、潜入し、祭りの核心は無理にしてもある程度全体を把握し、俯瞰、祭りの様子、祭りに興じる村人等の撮影を終わらせたい。

 出発前のミーティングにおいて、梶川はこのように言った。前夜祭でのハッスルといい、昨夜から梶川は気合いが入っている。サルに惚れられているということも大きな原動力なのかもしれない。

 今回の取材は、南のところが出す裏モノ雑誌のカラーで4ページ、『恐るべき日本の秘祭 ~ウッホッホ・潜入ルポ~』として発表し、その後『首長族よ、奮起せよ!』を掲載する別の雑誌連載にも手縄村のことを書く予定だという。

「もしも祭りをしていなかったらどうすんの?」

 と根本的な質問すると、

「村人のインタビューと高い塀だけ撮って、あとは昔ラオスで撮った祭りの写真を使って、いかにも手縄村の祭りのように仕立てる」

 と梶川は堂々と答えた。嘘を書けばそれで良く、雑誌は売れるのだと言う。有名ライターたるものがそんなことでいいのか。インチキ野郎とはまさに梶川漫歩のことである。

 午前中が勝負、ということで早々にバンガローを出発。朝食も手縄村に向かうトゥクトゥク内で摂取。それも二日前に梶川が独断で買ったアルゼンチン穀物パンという、味気なく、出来損ないの餅のような固い食感のするとても不味いパンである。

 トゥクトゥクの後ろに並んだ自分とサルは珍しく同調し、お互いパンを完食出来ないでいた。自分は人喰い祭りの不気味さを想起し、食欲が減退、それにパンの不味さが相まって食えないでいたのであるが、どうもサルのほうは食にうるさい性格らしく、不味いものは断固として食わないというポリシーを持っているらしい。

「不味いわ、これ」と小声で言ったサルは、急カーブの遠心力を利用してパンを外に放り投げた。

「ああ、おじさまが痺れるドライビングするからパンが飛んで行っちゃった! もったいなぁい!」

 発狂していた梶川はそんなサルの言葉が聞こえないようで、いつも通り「うひょ~」。

「ほれ、俺の分やるよ」

 自分はにやっと微笑んで、手に持っていたパンをサルに差し出した。

「チッ、いらないわよ。だいたい男ならそれぐらい食べなさいよ」

「不味すぎるのだ」

 次の急カーブを利用して自分もサル同様にパンを放り投げてやった。その瞬間、サルは口元を押さえ「クプッ」と吹き出したが、すぐに目を見開いて「しまった!」というような顔をし、慌てて不機嫌を装った。

 やはりサルは、自分に親近感を憶え始めていて、しかしなんとかそれを押さえようとしている。こいつが素直に心を開くならば、意外と良い奴なのかもしれぬ……。

『はっ! なにを考えているのだ!』

 自分はドキリとし、すぐに我に返った。

 どうもサルに舌を出されてからおかしい。現在、自分の目的は生きて帰ることである。梶川やサルを置き去りにしてでも生きて帰ることである。昨日梶川は「そんなことあるわけない」とカニバリズムを否定していたが、白装束の密会や富子のおののき、郵便局のおっさんの忠告めいた態度を見ていれば、やはり手縄村が尋常な集落でないことは明白なのである。そう、サルに対する自分の心情などを分析している場合ではない。こうしている間にもトゥクトゥクは手縄村に向かってひた走っているのだ。

 うひょ~!


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