味方は悪魔?敵は誰?
部屋の中にある暖炉はインテリアの一つで普段は実用的ではなかった。煙の逃げる煙突を見上げてみると、夜空が見える。明かり取り窓のようだ。足元は想像通り地下に繋がっていたが、おばあちゃんちの押し入れのような落ちる穴ではなく、階段だった。
「校長先生もこの穴を使ってるのかしら」
キノコは阿美の背中にしっかりとつかまって、周囲をきょろきょろ見ながら歩いている。
階段幅は狭く、手作りなのか、段の高さがさまざまで歩きにくい。
天井には明り取りの穴がいくつか空いていて、月の光が差し込んでいる。
「謎すぎる、どこにつながるんだろう」
雄一がつぶやく。
「政府の要人が使う地下通路だったりして」
キノコの言葉に、
「都市伝説あるある」
と阿美が返したとき、突然指輪が重くなった。
とたんに、左側の壁が消える。
その先には、茂る葦と静かな川の流れがあった。
「でた!」
雄一が小さく叫び、スマホと取り出すと自分たちの位置を確認する。
「清水濠の近くだけど、俺らが作っている地図にない水路だ」
雄一がスマホを操作する。
「今、山田さんに位置情報送ったから、水路の先がわかると思うよ」
「今日はここで帰ろう、山田さんたちと一緒に来たほうがいいような気がする」
阿美は周囲に生臭い匂いを感じて、後ろに後ずさる。
「だめ、見つけちゃった」
キノコが少し震えながら、指さす先には大きな枯れ木と葦の塊があり、その中には、ドラゴンがいた。
「ドラゴン、初めて見た」
「学校の下にいる?」
「ドラゴンかぁ、やっと会えたなぁ」
雄一が興奮したように声を殺して叫ぶ。
「5回ぐらい地下入ってるけど、いつもドワーフしかいないくて」
ドラゴンは体を大きく揺らしている。灰色の体毛に覆われた大きな体は鳥のようであり、頭は三つに分かれていて人のようでもあるし魚のようでもある。翼は周囲の葦の色と溶け込む緑色で大きく地面を覆っていた。しっぽは巣の中に隠れている。
「悪魔が味方ってことは、ドラゴンも味方かなぁ」
雄一が考え込んでいる。
「ねえ、ドラゴンで宝物を守ってるんでしょ」
震える声でキノコがいった。
「ドラゴンの先、見て!」
キノコが指さした先に、大きな洞窟の入り口のようなものが見える。
「いや、とにかく、これが起きる前に帰ろう」
阿美がゆっくり後ずさりしている。
「起こしちゃダメ、起こさないようにゆっくりと」
雄一がうなずく。
「今、山田さんに船頼んだから、少し戻ったところに合流地点があるはずだから、そこまで…」
さて、ドラゴンは寝ていたわけではなかった。ただ、時期を待っていたのだ。突然きた来訪者が戦う意思が折れる時を。ドラゴンを見て戦いを挑む勇者はここにはいない、迷い込んだ人間は大抵逃げ出す。その瞬間を待って襲うのが彼のやり方だった。三つのドラゴンの頭は目配せをする。久しぶりの戦いだ。
「グォー」と地鳴りがして、壁が揺れた。まるで地震だった。
ドラゴンはゆっくりと体を起こすと、水路の中にもぐりこんだ。あとは人間の前で頭を出して、彼らを食べればいい。人間はたいして美味しくはないが、まあ、ないよりはまし。水路の水が大きく盛り上がる。
「船までは無理!」
キノコが叫ぶ。
「来た~」
三人は水路の周りにある葦の草むらを走るが思うようにスピードが出ない。
「泳ぐ?」
「まさか」
「泳ぐ!」
阿美が叫んだ!
水の中であれば、おばあちゃんが助けてくれるはず。
「だって、何の武器も持ってないのよ、おばーちゃん、何とかして!」
ハムスターのフクが目の前に現れたときを思い出す阿美。
「おばーちゃん!」
大声で叫ぶ。
三人はドラゴンが追ってくる川に飛び込んだ。
その瞬間、ドラゴンの3つ顔が水面から飛び出してきた。ドラゴンの顔は葦の中に顔を突っ込み、三人を探す。三つの首が葦をなぎ倒す。隠れて様子をみていたドワーフが慌てて逃げ出した。ドラゴンはそのドワーフをひょいと首でからめとると、水中へ消えていった。
そのころ、3人は黒い煙に包まれて水中を泳いでいた。ひたすらひたすら泳ぐ。不思議と三人とも息は苦しくない。暫くしたころ、水面に灯りが見え、船底がやってくるのが見えた。
そのころになると、三人を覆っていた黒い幕は消えていた。