賢い男子、女子中に紛れ込む。
変な秘密の扉があって、しかもスリル好きの友人がいたらー。その友達は必ず物語の主人公を引っ張っていくでしょう、その扉の向こうへ。阿美も当然のように扉の向こうを目指した、キノコといっしょに。でも、「やばいんじゃ」という気持ちもある。
なぜなら。
扉から、あの匂いが漏れてきたから。葉山アパートの地下で嗅いだあの、水と草と、そして何やら生臭い匂い。
「やっぱ、放課後まで待って入ってみようよ」
という優等生には似合わないキノコの言葉を聞いて、
「だよね」
と答えら阿美だったが、かなりの不安がある。そこで一本の電話を掛けた。
やってきたのは、夏服の白いセーラー服の上に校章のついたセーターを着た雄一である。
「やばいよ、おれ、守衛にごきげんよーって言われた」
阿美とキノコが来ているのは冬服。10月という時期は、わりと冬服でも夏服でもOKという学校が多いのだ。
「はじめまして、かわいいですね」
急によそ行きモードでキノコが挨拶する。
「ほめられてますね、ありがとう」
雄一が答えた。
「で、おれはずーっとこのプリーツスカートでいるの?」
「脱いでどーするの、パンツで過ごすの」
ちょっとイライラして阿美は答えた。
雄一のセーラー服姿は、クラスで一番かわいい女子よりかわいい。。許せない。
「放送室のカギ、コピーしたから、放送室で時を待つ」
雄一が来て急にアニメキャラにキャラ変したキノコが言い放った。そういえば、キノコは放送部だった。
」
そして、3人は完全下校の時間を待つ。
「俺さ、調べたんだよ。江戸城には抜け道が複数あって、有名なのは3か所。一つは新大久保近くの皆中稲荷神社、もう一つは赤坂の山王神社、そして、神楽坂の穴八幡」
ここで雄一は息をつぐ。
「でも、他にも地下道や地下水路の話はいくつもあって、とくに江戸城周辺に多い。しかも、その出口らしいところにはここと同じ100年以上の歴史のある女子高男子校が多いんだ。わかっただろ?」
「ん?」
意味がわからない。
「まぎれて逃げるため?」
キノコ、この話に盛り上がってるようだ。
「都市伝説も好き?」
思わず聞いてしまう阿美。キノコの頬が少しだけ赤く染まる。
「生徒に紛れて外に出る、女子生徒の引率教師を装って外に出る、外に出れないときには学校でかくまってもらう」
「もしかして…」
「そう。江戸城のどこかに繋がってると思うんだ」
「あの部屋が?」
阿美の脳裏には緊張感の欠片もなかった校長の顔と声が浮かぶ。
「ないない」
「いや」
真顔で雄一が言った。
「あるよ」
時計は夕方6時を指している。
「職員会議の時間だ」
キノコがつぶやく。
なぜ知ってるかは聞かないことにしよう。
「いくよ!」
セーラー服姿の雄一が雄たけびを上げた!