まじめな住人とつながる部屋。
さて、中学生が大家になれるのだろうか。しっかりとした後見人がいれば可能らしい。。
阿美の場合はおばあちゃんの弁護士がいたし、家を出て大家としてアパートで暮らすことにも家族は誰も反対しなかったので、中学生大家さんはわりに簡単に誕生した。
阿美には意地悪な継母がいて、いつも意地悪されている。シンデレラや白雪姫を思い出してほしい。意地悪な継母が出てくる話では、父親の影は薄い。阿美のストーリーも同じ。父親はたぶん出てこない。父親は今回の決断でも「どうかなぁ」を繰り返し、ただただ影が薄かった。
「どうかなぁ、もし無理だと思ったら帰っておいで」
アパートの元おばあちゃんの部屋に移り住むといったときの父親の言葉。埃だらけのリビングの薄汚れたソファーで手垢の落ちてないグラスで発泡酒を飲む。そんなことが日常となっている父親は、私が出て居いくことをどう考えているんだろう。
「帰れると思ってる?」
と少し意地悪な気持ちで阿美は聞いた。
「当たり前だろ」
と、このときは迷わず少し涙ぐんで言ってくれたことが少し救いだった。少しは愛されてるのかもしれない。
義理の母と、その女が溺愛する2歳の異母弟が住む家に帰ってこれるの?
本当にそう思ってるの?
私の部屋はいつまで残してくれるの?
意地悪な質問がたくさん浮かんだけど、だけど、そんなことを聞くのは時間の無駄。さっさと引っ越すことだけ考えよう。
そんな感じで家から荷物をまとめて、後楽園のアパートにやってきたのは、あの暗闇に落ちる1時間前。
これから住む場所は、おばあちゃんの生まれ故郷から名前をとった「葉山アパート」。築49年。後楽園駅から歩いて10分のところにあった。内装はリフォーム済みなので思っていたよりも便利そうだ。部屋数は6。家賃5万円の格安アパート。
大家である阿美の部屋はアパート住人の部屋よりもかなり大きい。広めのリビングに寝室、そして畳の小部屋があった。
引っ越し業者の軽トラックから荷物が運び出される間に、アパートの住人数人があいさつに来た。
最初に来たのは、年齢不詳の長身美女。
「玲子です、よろしく。本当に中学生が来たのかぁ」
阿美の頭をポンポン叩く。初対面なのに、すごくなれなれしい。
「荷物片付いたら、声かけて。このあたりを案内してあげる」
すぐに立ち去っていった。201号室。
そして、東大男子。こんなアパートにいるのが不似合いな王子様系。
「ロリコンじゃないから、心配しないで。山田です。勉強とかで困ったら聞いてね」
204号室。
次は、学ランを着た男の子。
「枝野雄一。高校1年。家が遠いから、ここの部屋を借りてるんだ。たまに母さんが来るけど、基本的には一人。学校はね…」
彼は超有名進学校の名前を出した。
「ここはね、死んじゃったタマさんが気に入った人しか住めないから、なんていうか、まじめな人しかいないよ。今日いない3人も普通にまじめな人たち」
「女子中だよね。お弁当?」
「お弁当はね、今日いないけど、塚田さんっておばさんに頼むと作ってくれるよ。1食300円。かなり美味しい」
「雄一って呼んでよ、今度、合コンしようね」
さっぱり系のジャニーズ系。203号室。
話に出てきた塚田さんは102号室。30才半ばぐらいの会社員らしい。101号室と202号室は女の子だと雄一から聞いた。
時刻は午後2時。
そろそろ阿美が暗闇に落ちる時間がやってくる。その時は突然やってきた。
畳の小部屋についた押し入れに、家から持ち込んだ衣類ケースを押し込んでいたとき、床が抜けたのだ。
ここで話はプロローグにつながる。
住人キャラはインテリ大学生とジャニーズ系高校生、シシドカフカ風女子とおばちゃんキャラの世話好きOL。あと2名はこれから。