目的地はどこ?水の流れが行きつく場所
温かい水に包まれて阿美と雄一は流されていく。流れのスピードは速く、阿美と雄一は離れないようにギュッと手を握り合って息が出来るよう仰向けになって流れに身を任せていた。
頭上を鶫が飛んでいる。時々、高らかな鳴き声を出す。その声に呼応するように、遠くから音がする。
阿美と雄一はギュッと握り合う手に力を入れる。
その声は、あのドラちゃんの声だ。
きっと助かる!
二人は、追いかけてくるだろう船の音を待っていた。
山田や玲子が改造した高速ボートで追いかけてきてくれるはずだ。そしたら、そのボートに乗ってアパートに帰れる。あ、でも、あのボート焼けちゃったんだ。
でも大丈夫。古いボートがある。最初に阿美が乗ったボート。
明日はクリスマスイブ。アパートに帰ったら塚田さんの美味しいチキンを食べて…。
阿美は不思議とちっとも怖くはなかった。
水流は蛇行しながら流れの速さを増していく。
川の両側にあった水草や葦はだんだん姿を消し、ごつごつした岩が目立つようになった。
雄一はこの流れが、探していた場所に行きつくことを確信していた。
何度も地下水路を探り、何度も地図を書き換えているが、この風景は見たことがない。
この流れはタマさんがずっと探していた場所に繋がっているに違いない。
雄一も阿美とつながる手の平に力を込める。
山田さんがあのボートで追いかけてきてくれることを願って。
そのころ。
アパートに戻った安孫子ちゃんは、だれもいないアパート内で立ち尽くしている。
「どうしよう」
ぐるぐる廊下を歩きまわっているときに、キノコがやってきた。
「スマホ、通じない。ラインも既読なし」
「どうする?」
「って、やるしかないでしょ」
二人は、顔を見合わせて歯を食いしばった。
「わかった!」
さっき駆け上がったばかりの秘密の階段を駆け下りていく二人。
船着き場に着いたときには、黒い防水スーツを着て戦士に変化した二人の少女がいた。
「とにかく追いかけないと」
焼け焦げたボートの隣に以前からある木造のボートと雄一の作りかけの緑糸の小型ボートがある。
試作品!触るな!と大きく側面に書かれた緑色のボートに飛び乗ったのはキノコだ。
「あ、これ、うちのレクサスと同じだわ
キノコがエンジンボタンを押す。と、グワーッとスクリューが動き出した。
ブレーキを踏んで、ギアをドライブに入れる。
「なんかいろんなボタンあるけど…」
安孫子ちゃんが、青色のボタンを押す。ボタンが沈んで小さな隙間が現れた。
「これは!これはよね!!」
「なに?」
「これは、これに入れるのは…」
安孫子ちゃんが右手をぎゅっと握ると、中から光の石が現れた。
その石を隙間に入れる。
ふわっとボードが宙に上がった。
キノコがブレーキから足を話す。
すーっと、ボートが、ものすごい速さで前に進んだ。
「だめだ、早すぎる」
「うわ、このボード、どこに行くの?」
「俺を忘れないでくれー」
背後から声が聞こえた。
ハムスターのハクは、外の寒さが苦手で、日中はぬくぬくとした小屋の中で寝ている。しかし、今日はバタバタする足音で目を覚ました。慌てて追いかけてきたのだが、あと一歩というところでボートに乗りおくててしまった。
「おーい!阿美はどうした?阿美ー!!」
ハクは風のように飛びさるボートを見ていた。
「やつら、どこに行くんだ?」
少し更新、滞ります。
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