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おばあちゃんが作ったダンジョンで泳いでみたら…  作者: まいる
中学生女子、大家さんになって戦士にもなる
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阿美、大家さんになる。

 さて、ここから話は阿美が暗闇に落ちる一週間前にさかのぼる。

場所は都内にあるそこそこ有名な私立女子中学校。中高一貫の女子だけの学校で、セーラー服が可愛いことで有名な学校である。入学偏差値は難しいとも簡単とも。公立の小学校で2番めに賢い女子が集まる学校だと思ってほしい。

阿美は今、その学校で白飯だけが詰まったお弁当箱を手にしてトイレの前にいる。いわゆるトイレ飯をするためだ。中流よりちょっと上の子だけが集まった私立の女子中で、白飯だけのお弁当箱を持ってきてるのは阿美ぐらいだと思っている。阿美は4月の一番最初のランチでお弁当箱を開けるのは恥ずかしくてトイレに行ってしまった。

それ以来、学校で「トイレ飯が好きな子」という分類になっている。休み時間に話す友達もいるし、体育のダンス授業のグループ分けで仲間外れにされることもない。普段は話す友達も多く、ごくごく普通の当たり障りのない生活をしているのだが。それなのに、ランチタイムになると、スーッとみんなが離れていく。

阿美のトイレ飯を邪魔しないように。

何か事情があるのとか、習慣なのかとかは誰も聞かない。、不思議なことに、阿美が通う準お嬢様中学では小学校でいじめられていた子が多くいた。だからか、ぼっちでいることにみんな寛容なのだ。

そこが阿美が通っていた小学校と大きく異なるところだと阿美は思っている。



阿美は過酷な小学校生活から抜け出すために中受をした。

・ごめんねぇ、手が滑っちゃったと油性マーカーで顔にバッテンを書かれる。

・ごめん、躓いちゃったとバケツの水をかけられる。

・あの子、阿美が好きなんだってと男子トイレに連れていかれる。

などなど、書き出したらきりがないぐらいの些細ないじめを毎日毎日受けていた。

一番、面倒だったのは、あの人と呼んでいる継母が何かあるたびに学校に怒鳴り込みに来ることだった。

普段は何もしないあの人は、なぜか自分以外が阿美をいじめることを無性に怒る。ごはんは作らない、掃除もしない、阿美が風邪をひいても病院にさえ連れて行かないあの人は学校に怒鳴り込みに行くことが大好きだった。

いつもウキウキ。きれいに着飾って学校にやってくる。困ったことだった。あの人が学校に来るたびに先生は阿美に冷淡になり、いじめは加速する。


このまま近くの中学に行ったらもっといじめられる、そんな理由で阿美は中受を頑張った。学費その他を面倒見てくれたのは、タマおばあちゃん。そう、プロローグで出てきたダンジョンを作ったというおばあちゃんだ。死んだお母さんのお母さん。白髪が似合う、きれいなきれいなおばあちゃん。

「あたしが死んだとき、財産を引き継いでくれるなら学費は出してやるよ」

江戸っ子だというおばあちゃんはそういった。たまにしか会わなかったけど、顔を合わせばいつも優しかったおばあちゃん。後楽園の近くで古びたアパートを経営していて、毎日が楽しそうだった。

きれいで楽しそうなおばあちゃんは阿美の理想だった。


「おばあちゃん、ありがとう。あの人は白飯の弁当しか作らないけど、トイレ飯だけど、学校は楽しいよ」

阿美はお弁当を抱えてトイレに入る。

トイレがきれいなのは、この学校の売りの一つ。個室ごとにきれいな花まで飾ってある。

いつものように、便座に座り、ポケットからゴマ塩ステックを取り出して白飯に振りかけたところで、

「神田さーん、先生が探してたよ」

声が聞こえた。

ちょっとだけ話したことのある風紀委員の女の子。名前はキノコちゃん。本名なんだって。二つ三つ編みにしているけど、前髪パッツンだけど、きっと普段はおしゃれさん。そんな感じの子。

「はーい」

とりあえず返事をする。

その声を聞いてキノコちゃんは軽く返事すると、

「そうだ、今度、一緒に理科準備室でお弁当食べない?ここよりスリルあると思うの」

と笑った。

この時、スリルを愛するキノコちゃんが私に話しかけたのは正しかった。このあと、世界一長いウオータースライダーを100回続けて乗る以上のスリルがキノコちゃんに降りかかるから。そして私はキノコちゃんが大好きになるんだけど、それは少し後の話。

まずは職員室。

ここで、感のいい人なら分かったと思うけど、おばあちゃんが危篤だと知らされた。で、病院に行ったときには、もうおばあちゃんは亡くなっていた。


そこからは毎日毎日違う大人の人が来て、毎日何かにハンコを押して、騙されないように、あの人に持っていかれないように、毎日毎日背筋を伸ばして、なんとかお葬式まで頑張って。


学校には何日も行かなかった。制服も着なかった。

だから、急に大人になった気がしてた。だから、弁護士さんから、

「タマさんのアパート、あなた名義になってます」

と聞いた時、すごくうれしかった。

「わたし、大家さんになるんですね」

これからはあの人の感情に振り回されなくていい。

これからは自分のお金で生活できる。

これからは白米だけのお弁当を持っていかなくていい。

そう思った。




キノコちゃんは長身女子中学生。私服のスタイルは考慮中。

ゴスロリか乃木坂風か、迷い中。


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