作戦会議・ドラゴンを倒せ
「うん、ご飯食べて8時には帰る。駅に着くときに電話するね」
なぜか耳としっぽのついたスエット上下を着たキノコが家に電話をしたのは、5時半。実はそれほど長い時間地下にいたわけではない。河岸からアパートに戻ってきたびしょ濡れの3人を見た塚田さんは、まずは女子2人にお風呂を勧めた。小さな古い浴槽の下がどうなっているかはおいおい説明するとして、二人がのんびりとそしてキャキャと入浴して浴室に戻ってくると、そこには塚田さんがドン・キホーテで買ってきたお揃いのジャージがあった。急いでいた塚田さんは入り口近くにあったグレーのフード付きのジャージを買ってきたのだけど、どうもハロウィン仕様だったようで、お尻のところにしっぽが付いている。
「座りにくッ」
と叫びながらも、阿美とキノコはインスタに挙げる写真撮影に興じている。
セーラー服はこれも塚田さんが、ドライコースの洗濯機で洗って陰干ししてくれていた。
「家に帰れば予備があるから」
とキノコは余裕の表情。
一階にある、このアパートがリフォームしてバストイレ付きになる前に使っていた食堂で、山田を含む4人は塚田さんが作った夕食を食べている。塚田さんは食事にお金をとっていて、豆腐と鶏肉のハンバーグに春雨のサラダ、筑前煮ときんぴらの小鉢が付いていて200円とかなりリーズナブルな値段だ。ご飯とみょうがの味噌汁はお替り自由という太っ腹な食堂である。
当然のことながら、かなりの冒険でおなかが空いていた4人はご飯を山盛りお替りして、おなか一杯になるまで無言で食べ続けた。
塚田さんはご飯の用意だけすると、部屋に戻ってしまった。地下の冒険にはかかわりたくないのだ。
「私はね、ふつーの人なの、なぜかここに住んじゃったけど、だから、見ないことにしてるのよ、すべて」
そういって塚田さんは笑った。
4人はおなかが膨れると、ふぅとため息をついて、しばらくは無言で過ごした。
机の上に置かれた山田のスマホが小さく揺れる。
「玲子さんが帰ってくるの待とうと思ったけど、9時過ぎるって」
山田が雄一を見る。
「じゃ、玲子さんには後からにしよう」
「このアパートには後2人住んでいるけど、一人は海外留学中、一人は…」
山田と雄一が顔を見合わせる。
「まだ誰も会ってないんだ。いるみたいなんだけどね、謎の住人。タマおばあちゃんが気が向けば出てくるからって」
「男子?」
キノコの質問に山田が、
「女子。ここリフォームする前は女子だけだったんだって。最初の男子が僕で…」
と答える。
「次に入ってきたのは俺。田舎の中学から東京に来ることになって、母さんがどっからか聞いてきたんだよね、ここのこと。賄いあるけど強制じゃないし、お茶目な大家さんがさんもいて、しかも家賃が激安だって」
「で、こんなやばいとこでよかったの?」
キノコの質問に、皆がきょとんとする。
「やばいって?」
と山田。
「やばいでしょ、だって変なもの、次から次に出てくるんだよ?」
「変なもの?違うよ、すっごく感動だよ」
「だよ」
と男子2人が答える。
「タマさんが実は…って言いだしたとき、最初は半信半疑だったんけど、地下水路に初めて入って、ゴブリン見たときの衝撃は忘れられないよ、本当にいたんだって」
「俺も」
皆が初めて会った魔物の感動に浸っているとき阿美は、
「もう出たら…」
ラーメンどんぶりの中に浴槽の地下から運んできた湯を入れて、湯あみしているフクのお世話をしていた。
「もう出たらハム、のぼせるハムよ」
「やめろよ、そのハム、ってか、湯がぬるいよ」
「いつまで入ってるのかハム?」
「俺の体が元に戻るまで」
ハムスターのフクの体は背骨が伸びて、二足歩行の動物みたいになっている。
「少しづつ、戻ってんだよ、いいか、戻ってるんだ」
阿美はケトルで沸かした湯を足しながら、
「フクが人間になるなら、それもいいのにハム…」
とつぶやいている。




