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果てからのパヴァーム -Play of color bridge-  作者: 六花梨花
1.モールラガードでの一夜
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1.モールラガードでの一夜 02

 わあわあと騒ぎながら石畳を駆ける子供達は、男女の立つ位置から三軒ほど離れた雑貨屋の前でぴたりと裸足の足を止め、汚れた額を突き合わせた。

「ここ、人がいないよ」

「奥に引っ込んでるのかな」

「じゃあ、ここにするか。行くぞ」

「ほら、お前も来いよ」

 子供達は一斉に気配を殺す。

 ただ一人、ボロを纏う集団の中で一際薄汚れた長髪の子だけは木偶のよう。誰かに手を引かれないと動かない。

 気配を殺し続けたまま、子供達は音も立てず店内に入って行った。

 そろりそろりとパンの並ぶ棚の前に来ると、抱えられるだけパンを乱暴に抱え、猛スピードで踵を返す。

「あっ……! こらぁぁぁ!!」

 子供達が出口を目指すと同時に、奥から中年男の怒声が響いた。

 獲物を抱えた子供達は、火にくべられた栗のように路地へと飛び出す。

 全員が店を出たのを確認して、最後の一人が木偶の子の手をぱっと離した。その子だけ、出入り口でぴたりと立ち止まる。

「うっ!? おおおおっ!?」

 奥から飛び出してきた店主の男は、勢いのまま木偶の子にぶつかった。その子は呆気なく、ぽーんと飛び、どっと路地に落ちる。店主は構わず、逃げ去る子供達を追いかけて行った。

 ややあって、木偶の子はのろのろのと上体を起こし、緩慢に立ち上がった、が……そのまま棒立ちになっている。左頬、左手、左膝にできた擦り傷から垂れる血をかまうことなく。無表情で、じっと。

「反応の鈍い子だな」

「何日も食べてないのかもしれないわね」

 周辺の町や村と比較すれば、モールラガードには食糧は豊富にある。

 路地に住む孤児達もかっぱらいや店舗の手伝いをすれば生き延びる確率は高い。

 ――それができれば、だが。

 案山子のように突っ立ったままの貫頭衣の子供からは生気がまったく感じられない。

 このままでは近いうちに路地の隅で動かなくなり、掃除屋に片付けられるのだろうと二人は思った。

 ただ、そんな境遇の子供は、この世界には掃いて捨てるほどいる。

 一人を助けたところでどうなるものではないことを二人は知っている。

 だから、二人は黙ってそこから立ち去る。さっき関所でもそうしたように。

 目に留まることのない風景と同じように子供を見過ごし、目的の宿へ向かう……つもりが、ぴたり。女の足が止まった。

「どうした?」

 男の問いに、女はくいっと親指を動かして答える。

 それを目で追った長身から小さく息が漏れた。

 立ち尽くしている子供に近寄って来るのは人相の悪い男達の集団だった。

 皆、腰に剣をぶら下げている。規律は取れていない。盗賊崩れのならず者達なのだろう。

 しかし、親指が示していたのはその集団ではない。

 その一番後ろにいる、(くるぶし)丈の黒マントのフードをすっぽりと被った細長い人物だった。

煉組術師(れんそじゅつし)だな」

 男が言うと同時に、女は動かぬ子へと早足に近づいた。

 ならず者達より先に子供の前に立ち、軽く腰を曲げ、親しげな声を作る。

「こんなとこにいたの。捜したわよ」

 と、木偶の子に話しかける。

 しかし、木偶の子は表情どころか目線さえ動かさない。

 反応の一切がない。

 この子の意志はひとまず置いて、一刻も早くここから離れると判断した女が、子供の肩に手を回そうとした、その時。

「おい、ちょっと待った。お前、そのガキの仲間か?」

 ならず者の中央にいる男が声をかけてきた。

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