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どうして王子と呼ばれてしまうの

今日も今日とて皆さんが私の噂をしている。可愛らしい小鳥たちが淡く甘い視線をこちらに向けて、その可愛らしい唇で囁いている。


ーーみて、白城さまよ。今日も麗しいわ。

ーーあのさらさらの髪がとても美しいわ。まるで太陽のよう。


囁きに視線を送りにこりと微笑めば、ほら小鳥たちは私に見惚れて頬を赤らめる。何と可愛らしい小鳥たち。


ーーああ、白城さまが私に微笑んでくださったわ。

ーーあの笑みをみるだけで蕩けてしまいそう。

ーー本当にあの御方は素敵ね。まるで


さあ、小鳥たち、私に極上の言葉を囁いて。



ーーまるで、王子さまみたい。

















「なんで姫様じゃないのよーーーー!」


誰もいない屋上で叫んでしまうのも仕方がない。だって私がなりたいのはお姫様なんだから。

髪だって毎日念入りにお手入れして、いつもさらさらキューティクルで、ちょっと事情があってボブくらいの長さになってしまったけれど、まるでお姫様みたいじゃない。


ーーあのさらさらで太陽のような髪、まるでお城の王子さまみたい。


顔だって、すこしすこーし凛々しさはあるものの、どこをどう見たって女の子の顔つきで、白い肌と長い睫毛にプルプルの唇はどう見たってお姫様みたいじゃない。


ーー青く凛としたあの眼差し。まるでお姫様を守る王子さまのよう。


女の子には常に優しく、おしとやかに優雅に色気も少しプラスして指の先まで神経を研ぎ澄ましたこの立ち振舞いだって、どう見たって、どう見たってお姫様みたいじゃない。


お姫様みたいじゃないか


それがどうしてオウジサマだとかいう方向になってしまうのか。レンズが汚れた眼鏡を皆がかけているようにしか思えない。

あ、予鈴がなった。教室に行かないと。


「きゃ…っ」

「っと、大丈夫?」

「あ…、はい。ありがとうございました。」

「うん、気をつけてね。」


階段から落ちそうになった女子生徒を助けて、急いで教室に向かう。もちろん女子生徒にはお姫様スマイルを忘れない。


「白城…さま…素敵。」


そうでしょう、可愛いでしょう。毎日鏡の前でにっこり笑う練習をしているのよ。と、急がないと。私はいつも朝のHRギリギリに教室に行くようにしている。ギリギリなのでクラスメイトの視線を集めてしまうけれど、そこは笑顔で悩殺してしまえば良い。今日もみんな私の魅力に頬を染めているわ。みんな可愛い。

しかし、


「おはよう、白城さん。」

「……おはようございます。黒城さん。」


ああ、話しかけられてしまった。あなたは別なのよ、黒城薫。イスに座る前にちらりと見てしまったのがいけなかったのか。いいえ、そもそも前後の席で視界にいれるなという方が無理があるのか。どちらにせよ、もうこれ以上話しかけられないように、さりげなく彼と反対方向に視線を向けたが、問いかけは続いていく。


「もうすぐ期末テストだけど、白城さん調子はどう?」

「…ど、どうもこうもないわ。いつも通りです。」

「今日も図書室で勉強して帰るの?」

「その予定です。」

「そうなの?僕も放課後に図書室にいくつもりなんだ。良ければ勉強を教えてよ。」


どうして正直に図書室に行くなんて言ってしまったの、私。そして、そこはノーを突きつけてやるのよ。頑張って私。


「ね、だめかな?」

「……少しなら、良いですよ。」

「本当?嬉しいな。ありがとう、白城さん。」



ーーきゃ、黒城さんが笑ったわ。なんて可愛らしい。

ーー白城さんと黒城さんって、お似合いよね。

ーーそうね、王子さまとお姫様みたいね。


「皆さん、」(しぃーー)

「「「ーーー…」」」


黒城薫が人差し指を唇に当ててにっこり笑った。なんなの、その可愛い仕草は。あなた男子なんでしょう。男子なんでしょう!?


これではどちらがお姫様ですか、なんて愚問である。

話しているだけなのに、どんどんと私を王子さまにしていく後ろのコレは黒城薫。髪は艶やかな黒髪で、なぜか背中に届く長髪で、違和感なく似合っている。顔は抽象的で長い睫毛に艶やかな唇。どこか儚げな雰囲気を醸し出しつつ、やわらかな微笑みは花が咲くようで、私の胸はずきりと痛むのだ。


先生、はやく来てください。先生!


これ以上この人と話しているとお姫様が遠退いていく気がする。こんなことではいけない。何とかしなくては。


開く扉の音と共に、私の中の何が始まりを告げた。


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