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40超えたおっさんの英雄譚とか誰得すぎる  作者: 聖
一章『先生』
6/8

episode.5



                 1


 小童に入れられた拳は思ってた七倍くらい強烈なもので、年を取ったのを実感するのと同時に『姫』の才能が脳筋系だという事が分かったようなわからないような気がする。というか脳筋なお姫様なんてこの世に存在するのだろうか。もしや武術国だったのか?

 七倍の痛みを未だに放つ腕を抑えていると、『サイレント』は控えめに『タイム』が手書きしたであろうなぜか若干すでにボロボロになっている”てぃいちゃあずるうむ”と書かれた部屋を数度ノックして控えめに扉を開ける。失礼にも一瞬どうせ音や存在感の能力を持っているのだからわざわざこんな面倒なことをしなければいいのにとも思ったのだが、そうはいかないだろう。というか才能のせいで誰かに認識されないことが多かったから今のようになってしまったのでは?そう思うと、さすがにやるせない気分になってくる。申し訳ない事を考えてしまった。間違えてでも『サイレント』には言わないでおこう。

 「せんせい……『姫』がごめんなさい………その………あの……『姫』、いままでぼくいがいとはなしたことなかったから………その、うれしい、んだとおもうの……」

 「は!?」

 あいつが『サイレント』以外と話したことがない?おいおい、冗談がきついぜ。あんな小童の相手をしていた『サイレント』もなかなかすごいが、何よりもあんだけ会話のし甲斐があるようなメンバーだらけで『サイレント』以外とのコミュニケーションを取らないのはさすがにどうかと思う。

 どうかと思うというよりは、それ以前にそんなことが可能だったんだろうか。

 「『姫』は……おひめさまだから………だれもせんせいみたいにおはなしできなくて……。その……かってにひとがとおのいちゃうさいのう、なの……ぼくみたいにじぶんから……とかじゃなくて……その……なんでぼくがはなせるのかはわかんない、けど……」

 「勝手に人が遠のく才能……?いってぇ!!」

 「ご、ごめんなさい……その……『姫』のこぶし……ほうちしてるとしぬから……」

 「死ぬ!?」

 「ちょっぴりうそです……」

 『サイレント』はどうやら『姫』の代わりに謝りに来てくれたと言っても間違いではないだろう。というか実際に謝ってくれた。そしてわざわざ『姫』の才能のことまでも教えてくれた。一瞬はどういう意味かは全く持ってわからなかったが、『姫』という存在は近寄りがたい。だからこそ勝手に人が遠のくのだろう。しかし男がそんな才能を持つことがあるという事に若干の驚きを隠せないでいるのも事実だ。

 まぁ、俺としてはあいつの才能が分かったからこれからもガンガンいじってやろうとも思ったし、何よりも『サイレント』がくだらないジョークを言ってくれたのがうれしかった。それにしても『サイレント』が『姫』と話せることだけはやはり少し気になるところではある。手話だからだろうか?そういえば『サイレント』は姫と手話で会話していたようなしていなかったような……。

 というかそれならみんな手話を使えば『姫』と会話することが出来るんじゃないのか?それは駄目なんだろうか。難しい。素直なことを言ってしまうと、よくわからない。しかしそれだと猶更俺が『姫』と会話できる理由が分からない。つまりなんだ、あれだからか。『先生』だからなのか。

 するとまたもや”てぃちゃあずるうむ”の扉がコンコンとノックされる。いったい誰だろうか。『サイレント』はびくりと体を大きく揺らすと俺の椅子の後ろに隠れるように回り込む。『サイレント』は背が高いので全く隠れていないが、そのちんちくりんな様子が面白かったので敢えてそれは突っ込まないでおいた。

 「おっさん、『姫』よ」

 「おっさんだけどおっさんはやめろ。おじさんそこそこショックだ。入っていいぞ」

 「自分でおじさんって言ってるじゃないの」

 くすくすと笑いながら『姫』は部屋に入ってくる。『姫』だという事が分かると『サイレント』も身を隠すのをやめて素直に前に出てきた。『姫』は『サイレント』を見ると満足そうな恍惚とした表情を見せるも、すぐに俺の若干引くような視線が目に入ったのかぷくりと頬膨らませてすぐにそれをやめて頬をぽりぽりとかいた。

 「……。ティーチャー、ごめんなさい。『姫』は今まであまり誰かとお話しすることがなかったから、『姫』はうれしかったの。だから少し、調子に乗ってしまったの。ごめんなさい、『先生』に失礼なことをしすぎだって、『武蔵』に怒られたわ。でも、少しだけ嬉しかったの。ティーチャーがきっかけで『武蔵』が『姫』に声をかけてくれたの。ただでさえ寡黙で堅物で人とのかかわりが少ない『武蔵』よ?本当にうれしかったわ。ありがとう、ティーチャー、これからも『姫』とたくさんお話させてね」

 ふわふわのゴスロリスカート(パニエって名前だったか。おっさんにはわからん)を翻して嫌に素直にそんなことを言う『姫』の姿には思わず拍子抜けだったが、俺がきっかけで誰かと会話ができるようになったという事実は悪くない。

 そのあとの沢山お話しさせてね、と言いながら笑った姿は女そのもので年がいなくときめきかけたが、相手が女装の野郎だという事実が俺を正気にさせた。というかこの『姫』野郎にときめきかけるのはこれで2回目だ。ほいほいとだまされるこっちが悪いのは百も承知なのだが、なんというか納得がいかない。理不尽じゃないかさすがに。『王子』じゃダメだったんだろうか。

 「つーかお前ティーチャーって……ふは、面白いやつだな」

 「だまらっしゃい!!」

 「ふふ……、よかったね……『姫』……」

 「さ、『サイレント』様……!お恥ずかしいところを見せましたわ」

 おほほほ、なんていまさらのように取り繕う姿は少し滑稽でありつつも面白かった。ますます『姫』が『サイレント』にべったりしている理由が気になったが、本当に『サイレント』以外と会話ふぁできなかっただけなのだろうか?何かただならぬ理由を感じるのだが……、それはきっといずれ聞けるのであろう。ここではあえて追求しないのが大人というものなんじゃなかろうか。

 大人というよりは、もうおっさんになっちまったが。




                 2


 「せんせぇ、愛しのらばぁであるボクがせんせぇに会いに来ましたよ。みぃとです、みぃと。せんせぇ、今からボクと一杯いかがです?飲みません?どぅりんくです、どぅりんく。『弾』と『無感情』と一緒に飲んだんでいかがです?」

 「まったくもって愛しのらばぁじゃないが飲むのは賛成だ」

 相手がセーラー服を着ていなければ、だが、ここにきて不服にも”才能者集団”になってしまった以上そんな細かいことや個性派ぞろいのここで常識を求めるのはもうやめた。というより二十代を超えてセーラー服を着ているのはまだしも、気になることの一つがあるとすれば俺ととはどうせ顔を合わせる羽目になったのに何故わざわざ袋を被っていたのだろうということくらいか。正直に言って息苦しそうだ。腹立つ顔を隠している、という意味では最高の策であるが、それで死なれたりなんかしたらたまったもんじゃない。死なれるくらいなら殴りたくなる糸目の腹立つ顔を常に見せててくれればそれもいい。

 「びぃるを買ってきました。せんせぇはびぃるがお好きなのですね。らいくはいいことです。それはらぶも同じこと。あ、煙草吸います?ボクのですけど」

 「ビールか……分かってるな、『タイム』。あと煙草は遠慮させてもらうよ。しばらく吸ってなかったから多分噎せるだろうしな。今さら吸ってもまずく感じるだけだ。ビールだけありがたくもらう」

 「そうですか。それならボクもすもぉくは控えましょうか。自分で言うのもなんですがなかなかのへびぃすもぉかぁなんですよね、ボク」

 知るかよ。

 そんな突っ込みを軽くしながら、だるんだるんのセーラー服の裾を珍しく折り曲げて俺がコンビニで買う予定だったビールがテーブルの上に出される。なんというか、飲んでばかりな気がする。そもそも今日は一体何にちなんだ?日付感覚がどうやらくるっているようで、時間間隔もままならない。何よりも、ここには時計がない。

 『タイム』なんて名前だし時間が分からないものだろうかと思っていたが、こいつの才能は”夢”をどうにかするんだったか。timeじゃなくで大夢という意味だろうが、ちょっとこじつけっぽく感じてしまうのは俺の皮肉屋な性格の成果だろう。まったく必要じゃない成果だ。

 「さて、酒の席というものは深い話をするものだと昔から決まっています。ろんぐろんぐあごぉから。『永寿』が言っていたことをせんせぇは覚えているでしょうか。『天才』の目覚めについてです。その話をすぴぃくしなくてはならないのです。わんだぁらんどのために、わぁるどをせぇぶするために」

 「気が滅入るな……」

 こちとら楽しくビールを飲みましょう、と誘われたと思っていたこともあり、こんな時までそんな話をされるのは正直勘弁だ。ただ、あまり文句を言えないのも事実、俺がこのままでいいわけでもないのも事実、俺が”才能者集団”に馴染んできているのも事実、何よりも俺そのものがここを自分の居場所だと思い始めているのもまぎれもない事実だ。

 嫁が死んで、死んだような生活をしていた俺は急速に、たった一日(二日だっただろうか)でここまでガラリと変わってしまった。爆弾で脅されるような人生経験をする奴がこの世に何人いるだろう。俺一人かもしれない。嫁が死んだら急に人が集まってくるような人間がどこにいるだろう。ここにしか居ないだろう。個性派ぞろいのこの場所をまとめろなんていきなり言われて時間がたってそれをあっさり受け入れてしまう男がどこにいるだろう。ここにいる俺だけだろう。

 難しいことは正直に言ってしまうとわからない。それでも。俺が俺を『先生』だと認め始めてきてしまっているという事実がここにあるのであれば、余計な口答えはよして、素直に受け入れるしかないのだろう。それがどれだけ不服でも。うまく行けそう、だなんて、そんな可能性がちょっとでも自分の中で芽生えてしまったのだから。

 「せんせぇ、『天才』は眠っています。すりぃぴんぐしているということです。全ての根源は、今安らかに。”異能者”の生みの親は、呑気に。そしてきっと、ボク達の会話も、バレてしまっているでしょう。『天才』に小細工は通用しません」

 「……そうだな。誰かはわからないが」

 「”異能者”の生みの親は、この対立を止めたいと思っているのです。だから、『先生』を求めているのです。どいつもこいつも。ボクも求めている一人です。ただ、『先生』がもう少し来るのが遅ければ。ボクたちの『無邪気』の始末がもう少し遅ければ、このわぁるどは今頃ないでしょう」

 「……何故?」

 「『天才』ではない誰かが作ってしまったのですよせんせぇ。『先生』という”異能者”を。つい三十分前、せんせぇが『サイレント』とぷりんせすとのとぉくによって『先生』になることを認めた、一分後です」

 「はぁ……!?」

 「あと一分遅ければ」

 いつにもまして神妙な顔つきの『タイム』の姿に思わず固唾をのむ。出してもらったビールももはや喉を流す気になれず、苦渋の表情を浮かべる以外のことが俺にはできなかった。俺がそんなに重要人物だという自覚は、正直に言ってしまうと未だにはっきりとはない。なんなら、何がどれだけすごいのかもいまいちわかっていない。

 しかし、『タイム』が口を開いて息を吸った時、いきなり部屋の扉が開かれる。

 「『先生』、『タイム』、”異能者”からの宣戦布告が来たと認めます。『先生』、わんだぁらんどの鍵です。鍵を開けてほしいと願います。『タイム』には眠ることを願います。この宣戦布告、一戦交えるのが最良の判断だと認めます。指示をしてください、『先生』。わんだぁらんどの鍵を、開けてください」

 「……はぁ!?」



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