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40超えたおっさんの英雄譚とか誰得すぎる  作者: 聖
一章『先生』
2/8

episode.1



                 1

 

 「改めまして、ボクは『タイム』。ないすちゅうみぃちゅうですねせんせえ。そしてこちらの先程のやる気のなさそ〜なコンビニ店員は『弾』。また、あちらにいらっしゃるのが『サイレント』。他にもいらっしゃるのですが他の方は今みっしょんにごーしております。後で紹介してさしあげましょう、あ、せんせえないすちゅうみぃちゅうちゅうをお願いします」

 「……はぁ」

 ぺこりとお辞儀をしながらペラペラと話すセーラー服のずた袋を外した『タイム』の伸びてきた腕には裾が絡んでいてどう見ても握手がするようにあるとは伺えずに、取り敢えず恐る恐る掴むことはなく手だけを差し出してみる。

 「あらら」と『タイム』が言ったかと思えばセーラー服の裾をなれない手つきで手首の方まで折る。も、折り方が悪いのかすぐにずり落ちてきた。その姿を見て背丈の高い猫背の糸目で寡黙な先程『サイレント』と紹介された高校生のような青年は『タイム』のセーラー服の裾を折ってあげると、俺を見てぺこりと頭を下げた。

 つられてこちらもぺこりと会釈をすると、『タイム』は嬉しそうに俺と『サイレント』を交互に視線を動かしたかと思えば、すぐに黒色のセーラー服から出てきた白すぎる細くて長い繊細な掌を開けて握手を求めた。

 「な、ナイストゥーミートゥートゥー……?」

 「のんのんのんですせんせえ、ないすちゅうみぃちゅうちゅう、です」

 ひとまず言われた通りに握手の手を掴むように手を伸ばし、少し恥ずかしかったのもあり自分の言いやすい言い方に変えてみたも、『タイム』は納得がいかなかったのか左手の人差し指を左右に動かしながらむすり、とわかり易い膨れっ面を作った。

 助けを求めるように『サイレント』の方を見ると、『サイレント』は頑張れと言いたげに申し訳なさそうに小さいガッツポーズを俺に見せる。こればかりはどうしようもなかったので、恥ずかしさを噛み殺しながら言葉を絞り出す

 「な、……いす、ちゅ」

 「40代のおっさんの赤ちゃん言葉なんて気色悪いですね。おやめください、センセイ。『タイム』も嬉しいのは分かるがあまりセンセイを困らせるんじゃない。それと『サイレント』、貴様が『タイム』を甘やかすからこうなるんだぞ。それとセンセイにもちゃんと挨拶をしろ」

 いっそ殺してくれ、そう思った矢先手助けをしてくれた(?)のはコンビニ店員の儚げなまつ毛が長く色素の薄い少しばかり目つきの厳しい美青年『弾』。気持ち悪いと言われたのは聞き流したが、『タイム』と『サイレント』は『弾』には頭が上がらないのかわかりやすくしょんぼりと肩を落とす。

 どちらかと言えばいきなり爆弾を渡されかけて銃口を頭に突き付けられてそのまま謎の家のような会社のようにも思える場所に連れ込まれたかと思えばずた袋を被っていた黒色のセーラー服の少女らしからぬ人には赤ちゃん言葉の強要をされる俺が一番の被害者のような気もするが、あまりにもしょんぼりとした姿を見せてくるもので逆に俺が悪いことをしてしまったような気分になるのが気持ち悪い現状だ。

 「ごめんなさい、せんせえ、ちょっと楽しくて。何はともあれこれからはうぃーあー仲間です。せんせえはお偉いの席が残されているのでせんせえはボク達に敬語は必要はのんのんですよ。これからは宜しくお願いします、せんせえ。一緒にわんだぁらんどを見に行きましょう」

 にっこりと全く謝罪する気のなさそうな笑顔を見せると『タイム』は気になる言葉をちらほらと残しながら頭が膝につきそうなくらい深いお辞儀をしたかと思えば何故か満足そうに笑い、俺の手を取ったかと思えばそれを上下に動かしながらだいぶ雑な握手を交わす。

 交わすというよりは、交わされた。

 嵐のような『タイム』のあまりにもの大雑把さに呆然としていると、いきなり肩をトン、と軽く叩かれ「うわぁ!?」と叫びながら思わず後ろを向きながら尻餅をつく。

 肩を叩いた張本人である『サイレント』は困ったようにもじもじしながらも俺に手を差し出して立ち上がれるようにしてくれた。この中では恐らく唯一の優しい人な気がして、嬉しくなってしまい「ありがとう」と言って立ち上がると、『サイレント』は嬉しそう小さく首を横に振りながらすこし照れくさそうに微笑んだ。

 「……ぼ、く……『サイレント』って…………いい、ます……あの、えっと…………は、じめま、して…………せんせい」

 小さく笑う『サイレント』の姿がどうしても擁護してやりたくなるというかなんというか、作家としての語彙力がためされているのも承知だが、なんだかふわふわとしたこちらまで優しい気持ちになる気がした。

 『サイレント』の姿に驚いたのかはっと目を見開く『弾』と「ありゃ」と声を漏らしながらセーラー服の余る裾で口元を抑えるようにしながらも驚いたようにする『タイム』。

 『弾』と『タイム』が目を見合わせていることにどうしたのかと主に『弾』の方を見ると「あ、あぁ」と驚きが隠せないのかそのまま驚いたような声音で口を開く。

 「『サイレント』が自分から名前を言うのは珍しいんだ。いつも手話で片付けちゃうんだよコイツ」

 『弾』の発言に驚いて『サイレント』の方を見ると、『サイレント』は困ったように(恐らく)手話をしながらぷんすかという効果音がつきそうな怒りからかもしくは照れからかは分からないが顔を真っ赤にしながら『弾』を見る。

 「『サイレント』のおかげで手話はここのめんばーはますたぁしてますよ。せんせえも頑張って覚えてください」

 「へぇ……。『サイレント』は賢いんだな。な、もし良かったら手話教えてくれないか?」

 思わず感心して『サイレント』にそう言うと、『サイレント』は嬉しそうに糸目を少し開いてきらきらと輝いたような瞳で俺を見てくるかと思えば俺の手を掴んで『タイム』と同じように小さく手をぶんぶんと振る。

 「ぼ、ぼくでよかったら……!せ、せんせい、あ、……ありがとう、ございます……!」

 「こちらこそ、ありがとう『サイレント』」



                 2

 

 「ところで……ここって一体なんなんだ?」

 『サイレント』と打ち解けた事で気も緩み、思わず聞こう聞こうと思っていたことを今の今までずっと聞きそびれてしまっていた。というか、正確に言えば奮闘し始めた『サイレント』が俺に必死になって手話を教えてくれたのもあり、俺もそれに応えようと必死になっていたのもあり、休憩が入るまでにだいぶの時間が掛かってしまった。

 休憩に入ったかと思えば『サイレント』が小走りでお茶をいれにいってくれたみたいで、当然ながら『サイレント』にはなつかれているだろうと自覚もあったし、嫌な気がするわけでもなかったのもあり『サイレント』からの好意はありがたく頂くことにした。

 「あれ、せんせえに説明してませんでしたっけ?」

 明らかにとぼける『タイム』。『弾』もすっかり忘れていたようで鼻の付け根あたりをしまったとでも言いたげに苦渋の表情でおさえていた。

 「それでは改めまして、こちらは大雑把に“才能者集団”と把握していただければ結構です。わぁるどにはしゃどーとらいとがありますね。今までのせんせえが生きてきたわぁるどはらいと。そして今日からせんせえはしゃどーの人間になるわけです」

 「…………?さ、才能者……?」

 『タイム』からの質問によく分からずに首を傾げていると、よく分かりづらい説明をしていたのを見兼ねて『弾』が『タイム』の口を閉ざさせたかと思えば口を開く。

 「才能者。例えば『タイム』は“夢を見る”才能がある。と言っても『タイム』は一際特殊です。逆にわかりやすいのは『サイレント』は静音。つまり“音、存在を消せる”才能があります。俺は“百発百中”の才能を持ってます。ほら、幼少期に居ませんでしたか?『サイレント』みたいに妙に影の薄いヤツ」

 「ああ……なるほど……」

 本当にそのままの意味の才能だったようだ。『サイレント』に関しては『弾』の言い方にむす、としながらまたもやぷんすかと音を立てそうな風に頬を膨らませる。どうしてもその姿がリスやらモルモットなどといった姿に見えてしまい笑いが込み上げそうになったのをぐっと堪える。

 待てよ?それならなんで俺はそんな才能者集団様の所にいるんだろう。

 「な、なあ、お、俺ってなんで……」

 「『無邪気』の伴侶だったので。……というのは建前で、センセイには『先生』の才能がありますから」

 「……は?」

 先生に先生の才能がある?どういう意味か全く頭が働かない。というか、小説家という仕事も仮にもしていたのもあり俺の才能は『文才』とかなんじゃないかと思っていた自分が恥ずかしくもある。そういうのは一人前の小説家になってから言えというものだ。

 それだけではない。建前として出てきた『無邪気』という名前に首を傾げる。伴侶だった、ということは元嫁、もしくは最近亡くなった嫁の二択なのだが、無邪気らしい性格をしていたのはどちらかと言えば若々しさもあり最近亡くなった嫁の方だった。

 「センセイは、今までずっと『先生』と呼ばれていたのでは無いですか?あとは、そう……長の立場に立つことが多かったのでは?例えば……大学教授のお誘いとか」

 その言葉に思わず背筋が凍りつくような思いになる。幼少期こそは『先生』などとは流石に呼ばれていなかったにしても、中学や高校に入ってからはやりたくもない生徒会会長になり、大学に行く時は嫌々主席卒業をし、現に大した作品を作っているわけでもないのに周りからは先生と言われる日々。

 というかそれをなんで知っているんだろう。

 「さて、この“才能者集団”の敵対勢力と言いますか……科学手術やら薬やらで異能力を持った集団“異能者集団”が我らの敵として見ていただきたい。彼らは全ての人間に手術やらなんやらを施しゆくゆくは地球そのものを我が手にするというのが狙いです。それを止めるために奮闘するのがここ、才能者集団になりますね。というか、故意的に能力を手に入れたのが異能、元から持っているものが才能というふうに把握してください」

 「はぁ……?」

 話が大きすぎてついていけない。人類の敵だとか手術だとか薬だとか、どうもピンとこない話ばっかりだ。一体何がどうしてそうなっているのかがよくわからない。唯一わかったことと言えばいくらその『先生』とやらの才能があろうとこの場には自分が場違いだということくらいだろうか。

 「それ、俺いるんです……?」

 思わず敬語になってしまうも、この際そんな事を気にしてなんかいられなかった。何せ、こんなよく分からないとんでも組織に引き込まれたかと思えば次は敵対性がどうのこうのだの言われてしまう。はい、そうですかと言われて納得行けるほど俺も賢くは無い。

 「ええ。というか、『先生』が来たことにより才能者の勝利は殆ど確定したようなものです」

 「…………はい?」

 何故。恐らく話の流れからすれば『タイム』はケタ違いの才能を持っているのだろう。というか、そう考えるのが自然な話だ。そして、『サイレント』は音を立てない、存在を消す、正直に言ってしまえば個人的意見としては最強の才能にすら思える。そして『弾』は百発百中。なにをしても百発百中だと言うし、中学生の頃は頭も良くなかったのに超進学校に進めたくらいにはとんでも才能者だ。おみくじは大吉以外を見たことがないという。万年凶の俺からすれば羨ましい限りだ。

 そのうえまだ任務とやらで帰ってきていないがまだ何人か才能者集団の幹部クラスの人間もいるという。ごりごり戦闘向きなのかもしれない。だとすれば尚更不思議で仕方が無い。俺、いるか?

 「簡単な事です。人類最初の才能者は『先生』らしいんですよねこれが。特に何かを成し遂げたわけでは無いそうですが、その場に存在するだけで正しき道を示してくださる才能です。つまり、『先生』は異能者にとっても凶悪で害悪。『無邪気』も『先生』としての貴方に近付いたのですから、簡単な話です」

 「…………は?」

 存在するだけで正しき道を示す。そんな才能、おとぎ話も良いところだ。



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