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俺は人類をせぇぶするひーろーになる

 はじめまして。5IS1と申します。5ってSに見えるよね、Iって1に見えるよねっていう頭の悪い発想で5IS1(コイシ)って読みます。良かったら覚えてやってください。初投稿の執筆になり今とてもドキドキしております。まだまだ表現力も足りず拙いものになってしまうとは思われますがどうぞ宜しくお願い致します。更新速度は遅めです。ご了承下さい。



                 1


  ────嫁が死んだ。

 妙に暖かな東風が吹いて、春らしい陽射しも射していたにも関わらず霙と殆どさして変わらない雪が降った四月九日、コンクリートは雪の影響でつるつると滑り土の上はぐしゃぐしゃになっていて足元は最悪だった。死因は不運な足を滑らせた故の交通事故だと言う。

 詳しいことは聞かせてもらえなかったが、晴れた日の霙の影響で少しの雪はコンクリートを凍らせるのにはそう時間はかからなかった。暖かいのだから溶けているものだと思ったが、事故は事故、そうして受け止めなければならないのだ。

 「……皮肉な」

 ぽつりと誰も拾わない独り言を呟く。理不尽な世界はこうしてまわっていく。理不尽だと理解しているのに、それに声をあげて高らかに言うものは居ない。この世界で生きていくために。

 その日はいわゆる結婚記念日というもので、四十代半ばのいい歳したバツイチのおっさん、つまり俺と二十代前半の若くて綺麗で素直な女との結婚……と言うよりは再婚だった。俺はその辺にどこにでも居るような無名のミステリー作家で、嫁は夢を見る新米教師。正直に言えば俺は煙草は吸うし酒も飲むし身なりも180以上の高い背丈を持っただけのガリガリで白くて目元には消える事の無い黒い隈に明らかに手入れのされていない剃られていない髭。毎日風呂にちゃんと入っていても正直小汚いと言われる分類だ。まあ俗に言う、不健康なおっさんのお手本のようなものだ。

 そんなおっさんの俺があんな良い女と付き合って、結婚まで出来て、仮にも俺は一度離婚していて、しかもそれが一年も続いたのは奇跡だった。出会いは大学の方から小説家を辞めて大学で仕事をしないかとオファーが来た時、彼女はそこに居た。

 珍しくも俺の熱狂的なファンだとかで、いつしか恋に落ちて、好きになって、いつの間にか結婚にまで至って、いつの間にか……嫁は俺よりも若いのに、俺よりも早く亡くなった。

 「皮肉な」

 ぽつりとまた同じ言葉を一言呟きながら街を歩く。嫁の葬式に出て、帰路につく。家に帰ってももう「おかえり」と笑って出迎えてくれる若くて綺麗な笑みを見せる女はいない。胸ポケットに入れた煙草の箱を取り出すと箱を開いて1本取り出す。嫁が出来て以降回数を減らしたセブンスターは心做しか少し湿気っていた。

 ズボンの尻ポケットに入れたライターを取り出すと、赤々と燃える炎を揺らめかせ、煙草の先に火をつけようとする。湿気った影響かは分からないが、なかなかつかない煙草の火に苛立ちを覚えつつも、煙草の先に火がついたのを確認すると煙草を口にくわえる。

 「うっ……ごほっ……けほっ…………」

 噎せた。久々の煙草だからだろうか。単純に年齢的な意味で不健康な生活も続けていたし肺が弱くなったのだろうか。それとも、今。

 しゃくりあげそうになっているのを無理にこらえていたからだろうか。


 「くそう…………」


 熱くなる目頭を左手で抑えて、火をつけたばかりのまだ先の長い煙草はコンクリートに落とし、足でグリグリと踏みつけて消火して、踏みつけた煙草を拾ってセブンスターの箱に押し込んで箱ごと近くのゴミ箱に投げるように捨てる。

 ぐしゃぐしゃになりそうな汚い泣き顔を人に晒すまいと、帰路につく足取りを早めた。

 「はー……お気の毒ですねぇ、せんせえ。皮肉に思うのも無理がないものです」

 それを見送った喪服というよりは、わざわざ卸したような中学生のワンサイズ大きめのセーラー服を着た大人びた顔つきのどうも中学生のようには見えない20歳近くのどこか胡散臭さのある飄々とした顔付きをした少女(?)はにっこりと口元に弧を描きながら早歩きでその場を去っていく姿を見送った。

 「いいでしょう。助けてあげましょう。せんせえには多大な恩がありますしね。お嫁さんを蘇生……とまではいきませんが。そんなことはいくらせんせえの命からがらのお願いでもしてやりませんが。ボクにとって……いや、チームにとって『無邪気』は邪魔で仕方ありません。ボクならふぁんたじっくでびゅーりほーでべりーはっぴーなわんだぁらんどを見させてあげることくらいは容易い。現実がココだけという事を覆してやりましょう」

 目を細めてどこか拙い言葉で話したかと思えば、「ボク」と言った敬語でブツブツと独り言を続ける少女はセーラー服の長いスカートを翻して、茶色のローファーと長さの合わない黒色の靴下を脱いだかと思えば、裸足でペタペタと音を立てながらひんやりとするコンクリートの上を歩く。

 『無邪気』という深い意味の無さそうな言葉を残して。

 「任務遂行。新目標、せんせえにわんだぁらんどを」

 「お前……私情を挟んで勝手に目標を変えるんじゃない『タイム』。俺達の今回の任務は終わりだ。戻るぞ」

 「少しくらいいいじゃないですか。本当に頭の硬い野郎ですね。それに……せんせえは恐らく“こちら”の人間ですから。この際仲間にしちゃいましょ。もしうまくいかなければきるみぃです」

 「まったく……」

 セーラー服を着た少女『タイム』。彼女の合流した背の低いこちらも顔立ちだけが大人びた不似合いな学ランを着ていた少年(?)。俺、もとい“せんせえ”の後ろに着く人間は一体何者なのか。



                 2


 家に帰って、機能しないいつかに切った冷蔵庫を開けると、表面が生ぬるくなった缶ビールを取り出す。

 タブに手をかけ、前に押し倒すと缶を開ける独特の心地良い音に誘われるまま、開いた所に口を付けて生ぬるくなった美味しいとはとても言い難い缶ビールを喉に通す。

 「……マズ」

 先程から止まらないポツポツとした独り言に思わず虚しさで溢れる。それでも、何かをしておかないと自分が壊れてしまいそうで、気を紛らわせるためにも独り言をただただ虚しく呟き続けるしかなかった。

 まずい缶ビールをリビングに持っていき、テレビを付けてぼんやりとテレビを見ながらビールに口をつける。小説の締切が近かったなとか、どうせまた売れないんだろうなとか。そんな事を思う。もういっそ、小説家なんてやめてオファーの入った大学で働こうか。そっちの方が安定した収入も得られる。そうだ。

 「もうやめよう」

 輝きを失った瞳でそう決意して、パソコンを開いて辞めることを担当の人に送ろうとしたその時、亡くなった嫁の言葉を思い出す。

 『先生の作品は絶対に評価されるべきです!私、こんなに素敵な作品読んだ事ありません!まだまだこれからですよっ、先生!』

 その言葉にどれだけ救われたか。その言葉にどれだけ希望を見出したか。そして今も尚、その言葉を思い出して先程までの決断が揺らいでいる事を。そう思い始めてしまえば行動は早く、辞めると書いた文をすべて消して、原稿のページへとそのまま移り、パソコンを弾く軽やかな音を立てながら少し止まりつつ小説家としての仕事を、また始めた。

 金にならなくても、仕事をするのは好きだった。小さい頃から本を読むことが大好きで、友達よりも本が好きで、ずっとずっと小説家になりたかった。試しに応募してみたところ運良く小説家になることは出来たが、それが功を奏したとはとても言い難い。なれた所で、売れなければなんの意味もない。

 それでも、文字が好きだった。だから打ち続けた。文字中毒者のように、睡眠時間も食事時間も、全てを削って。

 嫁が亡くなった反動故か、生きる気力を失っていたからこそ今までよりも異例のスピードで小説を幾度も幾度も書き続ける。それが評価されているとは言い難いものではあるのだが、それでも気を紛らわせるには充分すぎるほどだった。

 「大丈夫……、俺は、まだやれる」

 そんな事を呟きながら、黙々とパソコンに向かってカーテンの開いていない暗い部屋でブルーライトを浴びる。時々口にするものは生ぬるいまずいビールをチビチビと。立ち上がる時はトイレに行く時のみ。元々荷物なんてものは届かない、来るとすれば電気代やらなんやらの請求だ。そればっかりは流石に対応もするが、小汚い男の登場に業者も思わず顔を顰める。しかしそれでも気にしなかった。

 と、言いたいところだが、ビールもついに底をついてきていた。正直に言うと睡眠も足りていないし腹も減った。もう何日も風呂に入っていないのもあって風呂にも入りたかった。不健康な生活故か、抜け毛が少し増えて体重も減った。これ以上減れば本当に病院送りにされるだろう。今まであったものが無くなってから、やっと全てに気が付く。今の自分の惨状を。

 ひとまず風呂に入ることにしようとのろのろとした足取りで箪笥から畳まれたシャツとズボンをとって脱衣所へ向かう。畳まれた服に少し涙誘われるものはあったが、気にするわけにはいかないと目元をごしごしと拭って服を脱いで洗濯機に放り込んだかと思えば、よく分からないまま洗剤などを突っ込んで洗濯機の入ボタンを押してそのまま蓋を閉じて風呂に入る。

 蛇口をひねれば数日ぶりの冷水に目が冴える。少しづつ暖かくなっていくシャワーを浴びて、さっさと洗ったり何やりを終わらせると脱衣場に出て取ってきた服を着て、暖かいシャワーを浴びた影響か眠気が誘いそのままソファで眠り込んだ。


 「ん……」


 目が覚めたのは午前一時。寝た時間が何時だったかは分からないが、ひとまずパソコンをつけて日にちを跨いでいた事に驚愕する。どれくらい寝たんだろう。そもそも何時頃、いつ寝たんだろう。

 まだ少しぼんやりする頭で立ち上がり、財布と鍵を持って玄関へ向かう。スポーツメーカーのロゴのある焦げ茶色のシャワーサンダルを履いて外にでて鍵を閉めると、アパートの階段を音を立てながらゆっくりと降りていく。

 「春でも夜は冷えるなぁ」

 そんな事を言いつつコンビニまで向かう。久々に睡眠をとったからか、やけに頭が冴える。コンビニにつけばやる気のない店員の雑な挨拶と少なからずともいる人。ビールの置いてある棚の方へ向かい、五、六本ほど手に取ると次は冷凍食品の方を見る。取り敢えず人気と謳われている冷凍食品を手に取ってそのままレジへ向かうと、嫌に儚げな美少年のレジの店員が一言。

 「逃げてください」

 「…………は?」

 意味が分からなすぎる。唖然としていると、コンビニの自動ドアが開き、誰かが入ったことを告げる音楽が鳴る。

 「ボクは『タイム』。せんせえ、あなたにひーろー行きの切符を授けましょう。べりーせんきゅう、俺は人類をせぇぶするひーろーになるとせんせえが言えば契約完了です。はいせんせえ、べりーせんきゅう、俺は人類をせぇぶするひーろーになる。言わなければこれが爆発して死にます」

 「…………は?」

 コンビニに入ってきたのは、いかにもと言った雑なずた袋を被ったサイズの合わないセーラー服を着た裸足の少女『タイム』。変な女だとジロジロ見ていて、思わず「はっ!?」と驚きの声を漏らす。

 無理もない、『タイム』の手に握られていたのは、駅の改札で使えそうな切符……のような形をした数字の刻まれた薄型爆弾だ。

 「だから逃げろと言ったのに…………」

 レジの店員がそう言ったかと思えば、頭に何かを突きつけられる感覚がして嫌な汗が頬を伝う。ちらりと突きつけられた方を見れば、やっぱり。銃だ。

 「『タイム』の交渉にはい、か分かりました、か、イエス、か了解、か承諾、で答えてください。さもなくば貴方────死にますよ」

 「…………ひゃ、い……」

 「それでこそです、せんせえ」

 人生で初の謎の脅迫。自分が何をしたのかと検討もつかない。唯一あるとすれば締切お構い無しに遅れていた時期だろう。怖くて震えて死ぬという言葉の洒落にならないおぞましさに、思わず裏返った声で承諾をしてしまった。

 怯えながらに了解の一言を言い、自分の言った通りに発言してくれなかったことに『タイム』は少し不服そうにしつつも嬉しかったことに変わりはなかったのかにっこりと貼り付けたような笑みを見せる。

 意味が分からないまま、“俺は人類をせぇぶするひーろー”になってしまったらしい。『タイム』、貴様何者だ。



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