魔法と科学
ノーム達は簡単な歓迎の宴会を開いてくれて少しの酒と料理で皆楽しそうに騒いでいた。そこから少し離れた場所でマサルとアデリナ、ボッツ爺は意見を交わしながらまったりお茶をしていた。
「武器となりそうな毒は手に入れた、地形的な有利は待ち受ける我等が冷静に対処すればあの魔熊を害するには及ばぬが何とかなるだろう………あとは火力が足りないか。」
「火力?火の魔法使い?」
「意味は違うけど魔法使いがいるの?」
「いや、いないんだけど…ノームは土の魔法が得意な人がいるかも?」
いないんかい!アデリナさんや何のコントですか?土魔法か…。
「ボッツ爺、土魔法の使い手は?」
「やはりいないの、こんな田舎じゃあ魔法を教えてくれる者がおらんからの。」
教育問題ですか…なかなか難しい問題である。
「因みにアデリナ。魔法の普及率…使える人はどれくらい街にいた?」
「街に飲み水が出せる人が1人いただけだよ?」
ビクティニアスめ…何が剣と魔法が閃くだよ…魔法なんて使うヤツいねぇじゃねぇか!完全に詐欺じゃねぇか!(※覚えてない方は『ようこそ幻想世界へ』の冒頭を参照)
「ん?マサルどうかした?」
「いや、例の女に次にあったら文句言わないとなぁ〜って思ってただけだ。そうか、魔法はそんなに使える人いないのか…。」
「例の女?あぁ…お手柔らかにね。」
******
『新着のメッセージがあります』
『ビクティニアスの要請によりこの世界の魔法の現状についてお話します、魔法や事象を司る神ゼラフィティスと申します。
現在この世界は科学も魔法も発展の途上で現在基礎原理の一部が出来上がりつつある状況です。一部の魔物などは特性として使用しているものもいますが人族、エルフ、ドワーフ、獣人、魔族などを含む人間は未だ現象が解明出来ず魔法の構築をする以前に事象の観測の方法を模索している段階です。
稀にイメージで基礎の魔法が構築出来る者もいますがあくまで基礎は基礎です。
貴方が科学の基礎を広く教え魔法へと繋がる道を示せば世界が変わっていくかも知れません。今後のご活躍を楽しみにしております。』
******
「魔法の構築の基礎や基盤を作れっていう事か…。」
「えっ?何?」
「神託だ、今度はゼラフィティスって神様だな。魔法の基礎になる知識を教えてやってくれって事で良いんだと思う。」
「神とはどういう事だ?」
当然ボッツ爺には疑問になりますよね、しかし最初からボッツ爺もこちら側に引き込むつもりなので問題ない。
実は異世界から来た事や神様と多少の縁があり、たまに神様からコンタクトがある事を告げるとボッツ爺は目を見開き大袈裟に驚いていた。
「なるほど、あの実の食べ方なんぞ変わった事を知っているとは思っていたが…全て神のお力か…。」
「そんな事でいちいち神まで引っ張ってこねぇよ!あれはちょっとした豆知識だ。商売の中でちょっと覚えただけだ。」
田舎のホームセンターなめんな!林檎に梨、葡萄にみかん、桃に梅の木まで売ってるんだぞ!それだって年間を通して考えれば一部でしかない。植え方や育て方、病気やその対処、肥料に予防などお客様に聞かれる必要な知識は山ほどあるのだ。
「で、何でマサルが魔法を教えて…って魔法使えるの?」
「治癒の魔法なら使える。でも今回はそういう意味じゃなくて魔法の基礎になる知識をこの世界の人は知らないから勉強させてくれって意味らしいな。」
「ちょっと待てお前さんはそれを知っているのか?」
「難しい事は分からないけど基礎くらいなら何とかなるかもな。」
多分、中学生の習うくらい迄の科学で十分だよね?
「元いた世界で学んだ知識か?」
「そうだね、俺のいた世界では全員が6歳から9年間様々な知識を学校という施設で学ぶんだ。それから殆どの人が更に3年から7年くらい学び、更に何年も色々な事を勉強する人もいる。」
「10年以上勉強に費やすの?何の為に?」
「ここよりもずっと技術も文化も進んでいる世界だから勉強しないと仕事に就けないんだよ…もちろん学の要らない様な職種もあるだろうけど貰える賃金は安いし、身体的にキツい仕事が多い。」
「危険な仕事も多くなるという事か…。」
「いや、危険な仕事はむしろ専門的な勉強した人が安全を第一にする仕事だな。危険な仕事を考えなしにやらせたら事故が起きるからな。」
考え方の違いに驚きを隠せないアデリナとボッツ爺。こちらの世界では危険な仕事は犯罪奴隷などの事故が起きてもいい人材にさせるのが当たり前だ。むしろそういう仕事に就くという事は死ぬ為の地に足を運ぶ事と同じなのだ。
「技術も文化も遅れていると言ったわね?どれくらい違うか教えて…。」
「金属の加工が鉄や他の物が扱える事に関して言えば中々のものだと感心した。文明や知識のレベルを考えると青銅が使えるくらいでもおかしくないからな。」
実のところ鉄の加工というのは技術的にはかなりの革命なのだ。青銅と比べるととても高い技術が必要になる。
「他は…まだまだかな。俺のいた世界の国と比べると1000年とか2000年単位で技術も文化も遅れていると思う。」
「1000年とか2000年って言われても逆に分からないわ。もっと分かりやすく何かない?」
もっと分かりやすくって言われてもな…物のスペックを比べているんじゃないだから簡単に…ん?物のスペック…そうだ!
「これを見ろ。あ、絶対に触るなよ…壊れたら直す方法無いんだからな。」
そう言って取り出したのはスマホだ。物のスペックと言えば分かりやすくオーバーテクノロジーでインパクトも十分なハイテクなのだ!なんせ、マサル自身も使いこなせてないのだからな!はい、そこ笑うところだよ!?
「何それ?」「何じゃそれは?」
「これは…何て言えば良いんだ?…遠くの人と話が出来る機械なんだ。あとは写真や動画が撮れたり、音楽が聞けたり、辞書で調べものが出来たり…うん、分からないわな!実演を少しだけしてみよう…まずは写真っと…。」
それからは2人とも百面相しながら驚き喜びパニックになりと表情は大忙しだった。写真にはしゃぎ、動画で自分はこんなんじゃない!と怒り(←理不尽)、小さな音量でかけたクラシック音楽に耳を傾け涙していた。まるで猿にオモチャを渡してみたらこんな感じなのかなとか失礼な事を思いながらその姿を笑いながら見る。
気付けば日は暮れて結局何もしていない事に気が付き頭を抱える事になるのはもう少し後の話である。




