お茶が美味しい
「鳴海様、少々お時間頂く事になっても良いかしら?この娘と少しだけお話がありますの。お茶でも飲んでこの景色でもゆっくりご堪能下さいませ。」
「はい、喜んで!」
反射的に了解の返事をするとこの上空の何もない場所に急須と湯飲み、大好物の栗羊羮が置かれたテーブルセットが現れる。
…30分。
「あぁ、癒されるなぁ…。このお茶と羊羮どこのだろ?お高いのかなぁ…。」
…60分。
「あっ、あそこに飛んでるのはなんだろう?結構大きいな…。」
…90分。
「風が心地良いよねぇ〜」
…120分。
「少し肌寒くなってきたかな?でも、このお茶が美味しいからあんまり気にならないな」
…150分。
「急須のお茶無くならないのは何でだろう。不思議だよねぇ…。」
えっ?何時までまったりしてんだって?だって視界の端っこで異常なオーラを纏って説教が展開されてるのよ?誰だってあんなのに自分から首突っ込まないよね?
…180分。
「ごめんなさいねぇ。お待たせしちゃって。うちの旦那とこのお馬鹿が大変な迷惑をおかけして。」
「いえいえ、滅相も御座いません。まったりとこの景色を堪能させて頂きました。ところであの…。」
ちらっと、正座させられたままの女を見る。
「あら、良いのよ。少しはこのこも反省させないと。」
「いえいえ、そうじゃなくて1つお伺いしても宜しいでしょうか?お二方は私達のところでいう女神様だと思うのですがお名前をお尋ねしても失礼になりませんかね?」
「あらこのこは自己紹介もしてないの?うちの旦那の事は聞いた?あら聞いてないのね?もう本当にしょうがないこね。ちゃんと後で旦那共々躾からやり直しておくからどうか私に免じて許して頂戴ね。」
正座させられている女神はもう半分魂が抜けた様な顔でぐったりしている。わたしもカクカクと同意を示す様に首を縦に振るしか出来ない。
「ほら、ボケっとしてないで自己紹介する!」
「この世界アルステイティアの管理を任されていますビクティニアスと申します。本件につきましては本当に多大なる迷惑をおかけして申し訳御座いません。」
「いえいえ頭を上げて下さい。神様にそんな頭を下げられるなんて…。」
まともな言葉使いしてると出来る美人秘書って感じに見えるななんて考えながらビクティニアスを眺めていると、
「わたくしの自己紹介もさせて頂いて宜しいでしょうか?わたくしの名はヘラと申します。夫はゼウスと申しまして一応地球では要職につかせて頂いております。今はココにはおりませんが本来なら本人が貴方様に謝らないといけませんのに、お仕置きとお仕事の都合でこの場には参上出来ず代理としてわたくしが参らせて頂いた次第です。お許し下さいませ。」
ヘラにゼウス?…ギリシャ神話の主神とその妻じゃねぇか!てかゼウス様なに賭け事して負けて奥様にお仕置きされて…っていうか確かヘラ様ってゼウス様の姉にして絶対に怒らせてはいけない鬼嫁として有名だった気が…いや、焼いたり煮たりされたくないから忘れよう。目の前にいるのは優しい気遣いに溢れる美人な女神のヘラ様!この人(神様だけど)だけは今のところ自分の味方してくれてるのだ!多分…。
「あらやだ、優しくて気遣いに溢れる美人だなんて…貴方は本当に良い子ね。そんな子を馬鹿なうちの旦那は…。」
心読まれてるし!というかこれを聞くなら今しかない!
「あのぅ…ヘラ様?ヘラ様のお力で何とか今回の賭け?の事どうにかなりませんかね?急に異世界にと言われましても両親も兄弟もいますし、仕事もありますので…。」
「ごめんなさいね。こればかりは神の契約に基づいた遊戯の規約で契約不履行にしちゃうと両方の世界に色々と不都合が出ちゃうのよ。貴方も嫌でしょ?貴方を帰す為に両方の世界で10億人程死んじゃうとか?」
無理です。はい、異世界行かせて頂きます。自分でいうのも何だが自分が帰る為だけに人が10億とかの規模で死ぬとか、自分自身が過去最大の災害になるとしか胃に穴があくとかそういうレベルじゃないじゃないじゃないか。別の世界である程度優遇されて新しい生活を送るだけさ、ただ世界から独り立ちして別の世界で…生きれるかなぁ?
「優遇はされないかな?世界に降りた時点であんまり干渉が出来ないのよね。」
これは駄女神ことビクティニアス。
「だから死んだりしない様にスキルなんかを加護として付与して少しでも転移者の負担を減らして世界を良い意味で変えるきっかけになって貰わないといけないのにこのお馬鹿はっ!」
「何かあったんですか?」
「夫から巻き上げたスキル付与券8枚は貴方に使うって聞いてたのにピンハネして3枚しか使おうとしてなかったのよ!」
「ぜ…全部とは言ってないもん!」
ビクティニアス最後の抵抗は…
「何か?」
「いえ、何でも御座いません。」
笑顔の一言で打ち砕かれたのだった…。うん、怒られて良いと思います。