【祝250話】雷霆(サンプル)の行方
「ちょっと聞きたい事があるんだけど。」
「ん?ヘラ様とアテナ様が揃って何を?」
「雷霆のサンプ…」
カンカン……カンカン……カンカン……カンカン……。
「ちょっと待って下さい。緊急を告げる鐘の音です。2つ鐘の繰り返しだから獣の襲撃です。すぐに報告が来るので待って下さい。」
アテナの言葉を遮り街に鳴り響くのは緊急を報せる鐘で、2つの繰り返しで獣の襲撃(魔物、魔獣含む)、3つで軍の襲来(盗賊等も含む)、4つで火災発生、5つで天災、鐘を打ち続ける事によって緊急避難と先日決まったばかりだ。
「おにいちゃん!前に街に来た亀の魔獣と同じのが来たの!ランスロットおじいちゃんとヤザおじいちゃんが迎撃に向かったよ!」
「まるっきり前と同じじゃねぇか………メイ!2人に広い所に誘導する様に伝えてくれ!街に魔法撃たれたらマズい!」
「了解しました!すぐ伝えますね!」
「ちょっと!メイが直接行くんじゃないぞ!」
走り去るメイの背中に慌てて注意する。
「で、何の話でしたっけ?」
「ヘパイストスの所から雷霆のサンプル品を持ってきたでしょ?提出して貰えるかな?」
ヘラの笑顔の要請に困り果てるマサル。
「いや………あの………実はアレ使っちゃいました!」
「使ったってドコで!?何をしたの!」
アテナが慌ててマサルの胸ぐらを掴んで、ぐりんぐりんと振り回す。
「ちょっ……アテ、ナ様……待っ……て………話せ…な……。」
「落ち着きなさい。雷霆は使ったからって無くなったりしないでしょ。マサルは理不尽な使い方はしないわよ。」
そうかと納得して掴んだ胸を離そうとした時、マサルのが表情が完全に「ヤバい」と物語っているのをアテナは見逃さなかった。再度、マサルの胸ぐらを掴み直して笑顔で問いかける。
「………何したの?」
「………武器の材料に使いました。」
「「使ったってそっち!?」」
武器として完成された雷霆の仮にもサンプル品だった物をまさか材料として使われていた事に頭を抱える2柱の女神。
「………じゃあ、取り敢えず見せてくれる?実物見ないとやはり色々と判断出来ないから。」
「じゃあ、ちょうど良い魔獣が来てるので試し撃ちをしてみましょう。」
試し撃ちという物騒な言葉を聞き、顔がひきつるが結局は見ないと何とも言えないとマサルの案内で城壁の上へと大人しく向かった。
「距離は300mって所ですね。十分に安全面でも距離あるのでここから狙ってみます。」
そう言ってアイテムボックスから取り出したのは1つの鈍く白銀に籠手であった。無造作に右手に籠手をはめると続いて取り出したのは飾り気も何もない柄から刃まで鉄で出来た槍である。
「じゃあ、撃ちますね。」
説明も何も無しにマサルは少しだけ離れて槍を空中へと投げる。すると槍は空中に固定されたかの様に止まり、刃で目標を狙い続けている。
「弾丸固定、術式展開………出力上昇、仮想標準器用意………標的を捕捉………出力は8割に固定。」
槍を中心に10を超える魔法陣がいくつも現れ、異常な魔力が渦巻き始める。マサルの目には魔力で作った仮想の標準器で標的の亀の魔獣を捉えていた。
「ランスロットとヤザを退避させろ!巻き込むぞ!」
マサルの叫びに出された合図で2人は魔獣から距離を取る。
「…………………発射!」
音も無く発射された槍は初速マッハ5で亀の硬い甲羅を抵抗も無く貫いた後、地表を吹き飛ばしながら地中深くへ潜って消えていった。
「なっ………なんて物作ってるのよ!!レールガンよね?あれ、絶対そうよね!?」
「レールガンのエネルギーと術式に雷霆を使ったっての事?」
アテナがパニクる中、ヘラは多少顔をひきつらせながらも冷静に分析する。
「そうですね………アレなら色んな意味で何度でもレールガン撃てるんじゃね?と思い付いてやっちゃいました。安全面に関しては十分な配慮が取れていると自負しております。」
「じゃあ、仕方ないわね。大事に使って頂戴。」
「えっ?回収しないんですか?」
マサルは驚いて聞くが言われたのは意外な言葉だった。
「だってそれはヘパイストスじゃなくて、貴方が作った武器なんでしょ?なら、私たちが手を出すのは違うと思ってるわ。もう雷霆のサンプルなんて物は存在しないもの。」
「ありがとうございます!ヘラ様に怒られる様な使い方はしない様に頑張ります。」
「ふふっ、誓うじゃなく頑張るだけなのね………貴方らしいわ。」
そう誓ってはいけない………下手な事したら本当に怒りにくる口実になるのだから。籠手をしまい、やりきった感満載で城壁を降りると、貴重な甲羅に穴をあけたとアデリナに怒られたのは余談だ。
遂に250話です。
長かった………本当に長かった………と言いつつ未だ7ヶ月ちょっとなんですよね。長かったようで意外と短かった(笑)




