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【side story】子供たちの本気

「よしっ、流れに負けるな!いけっ!」


子供も大人も熱心に船を追いかける姿はとても見ていて微笑ましい。

出走する船の数は11艘で、動力と舵という条件が付いただけで作れる数も管理出来る数も制限され難易度は何倍にも跳ね上がる。それでも夢中にさせるのは海や航海への憧れや、最新の技術への興味だったりするのだろう。


「メイちゃんのところのはしっかりした船に見えるけど、ほとんどのチームは見た目だけそれっぽくした箱ね………竜骨の意味さえ分かっていないみたい。」


やはり教本だけ渡した弊害だろうか、ビクティニアスの指摘通り、形だけ真似しているが意味が分からずそれっぽく作られている物が多く分かる者からすると頭が痛い。


「メイは教本を読み込んで、分からない所は何度でも聞きに来てたってゼラフィティスが言ってたよ。何がメイをあんなに駆り立てさせるのかってね………船乗りになりたいとか言わないよな?ルルさんに本気で怒られそうで嫌なんだが………。」


「航海に興味があるなら本物を作るって言ってるんだから航海術の方に興味持つんじゃない?」」


「それもそうか………って、4番の船も沈んだな………。」


「渦潮なんてやり過ぎじゃない?船の構造が出来てるのは最低限だろうけど、航路なんかにも詳しくないと渦は越えられないわよ。」


そう、マサルの作ったコースの最後には小さな渦があって、その渦を越えないとゴール出来ないのだ。出走した数が少ない為、勝敗がタイムアタックになったのもあって、渦を強行突破しようとする者もいて、現在4艘が挑んで全てがお湯の底のお魚とお友達となっていた。


「はい、流れが変わるから沈んだ船は回収してね〜。」


「大丈夫よ、次があるじゃない。泣いても良い物は作れないわよ、しっかり見て勉強して次も頑張りなさい。」


せっせとゼラフィティスは大会運営をする中、沈んで落ち込んだ子供たちを慰めているのはアイラセフィラだ。


「くそっ、5番も6番も沈んだ!あんなのクリア出来る訳ないよ!」


「本当は本物の船なんて作るつもりなかったんだ!そうに決まってる!」


半分が終わってもゴールした船が無いことから出走した子供たちから不満が出て来始めた。


「じゃあ、そろそろお手本の出走といくかな。ビクティニアス………行ってくるよ。」


「いってらっしゃい。本物を見せてあげて。」


マサルがアイテムボックスから1艘の船を出しながらスタート地点へと向かう。マサルが作ったのは教本に載せた船を忠実に丁寧に作っただけの物だ。


「次は俺がやるからコース空けてくれ。ちょっとお手本やるから皆に見てもらおう。」


「おにいちゃんも出るの!?」


メイがヤバいという顔でマサルの持つ船を見る。


「大丈夫、俺はあくまで手本でレースには出ないよ。これも教本の船そのままだ。」


まだレースで船を走らせてない子供たちは安堵の色を浮かべて、よく見える位置を求めてコースの周りへと移動する。


「じゃあ、スタートします!」


気負いもなく進みだした船は暗礁もS字コーナーも楽々越えていき、あっという間に渦潮の前へとたどり着く、


「ここは、タイミングを計って………渦の流れに沿って進むと………ほら、簡単に抜ける。」


流れに逆らわず最後抜ける一瞬だけタイミング良く渦の外に出せれば思いの外簡単に外に出られるのだ。これが自然の渦ならもっと気まぐれで理不尽なので完走のハードルを下げる気はありませんよと笑顔で文句は黙殺する。


「オレたちだってコレを見てたら………。」


「最初にこのデモンストレーション見てたらなんて言い訳するなら辞めてしまえ、優勝したら本物の船にするって言ってあるんだから人の命を預かる気概の無いヤツが優勝なんて口にするなよ。

ただの遊びなら頑張ったで良いし、本気のヤツは覚悟と勉強が足りなかっただけだ。」


珍しい子供たちに対して厳しい事を言い放つマサルに、自分たちの覚悟を試された気がして落ち込む子や泣きそうになっている子がいる中、反論は大人たちから出てきた。


「子供たちにやらせておいて命を預かるとか無茶苦茶言ってんじゃねぇ!じゃあ、なんで大人にやらせないんだよ!」


「は?いつ子供しかやっちゃいけないなんて言った?本物の船を作るって言ってるんだから、やる気あるなら大人だって当然参加するハズだろ?お前らが勝手に子供の遊びだと思って一線引いてたんだろうが!!」


「じゃあ、オレたちが同じように船作り目指しても良いって言うのかよ?」


「別に良いんじゃね?やる気あるんならな。」


その言葉に嫌そうな顔をする子供たち。ほとんどの子供が俯いてしまった。


「ただ、仕事の合間にとか中途半端な事してこの子たちに勝てると思うなよ?この子たちは本気で何年も勉強して、本気でこの分野に打ち込んで来たんだ。聡くやる気のある子供たちが何年もかけた分野、勉強の基礎のない大人が太刀打ち出来るなんて思わない方が良いぞ?」


今度は大人が俯き、子供たちが顔を上げる。そもそも教育を受けた事の無い大人たちと勉強に飢えるようにして知識を吸収していった子供………誰がどう見ても大人に勝ち目が無い。あくまで競われるのは開発と発展なのだ、どんな職人をしている大人よりも子供たちに分がある。この世界の職人は反復でその仕事を覚えるのだから。


「今度は失敗した子もいる。しかし、次は同じ失敗をしないそうやって彼らは賢くなってきたんだ。いつか、俺なんかの教えられる事なんてなくなって教えを乞う事になるかも知れない………そんな才能の原石だちがこの子供たちだ。」


「オレ次は絶対にマサル様に凄いのを作って来たって褒めて貰うんだ!絶対船作り辞めたりしないんだからな!!」


1人の男の子がそう高らかに宣言すると「オレも」「わたしも」と目に闘志をみなぎらせた子供たちが声を張る。


「ふふふ………将来が楽しみな子供たちがいっぱいで嬉しいわ。」


ビクティニアスはとても上機嫌にその様を見ていた。

慰めたり誉めたりするのだけが成長を促す事になるとは思いません。

失敗したり叱られたりすることでしか学べない事もあるのです。

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