主神の結婚の儀【中編】
BGMと光のレッドカーペットとフラワーシャワーで注目を一身に集めた新郎新婦は粛々とした雰囲気を感じさせない悠々とした態度で祭壇へと歩いていく。
演出に利用した光によってビクティニアスのドレスにされた刺繍は美しく浮かび上がり女性たちの視線を釘付けにし、マサルの燕尾服の銀糸も光を反射して輝いて見える。
派手は派手なのだが、決して見る人を不快にさせる様なゴテゴテした派手さではなく、新郎新婦の飾りとしてしか主張しないのは着る者が神である事を除いても一級品の証と言えた。
祭壇の前にマサルとビクティニアスが着くとBGMも次第に弱まり、ヘラの持つピリッとした緊張感のある儀式の空気へと変わる。
「これより、この世界の最高神である新婦ビクティニアス様と新しく神の位に就いた新郎マサル様の結婚の儀が執り行われます。皆様、起立して祭壇の方をご覧下さい。」
アデリナの緊張した声が響く。「では、宜しくお願いします」とヘラに頭を下げアデリナは役目を終えて自分の席へと向かう。
「では、ビクティニアス………そしてマサルよ。その方らが守護するアルステイティアの世界へと誓いを立てよ。」
「「我ら、ビクティニアスとマサルは世界に誓おう。このアルステイティアと共に歩み、守り、育んでいく事を………互いを敬い、愛し、永遠を過ごす事を。」」
「……………永遠………長いわよ?人の言う永遠じゃなくなるけど後悔しない?」
意地悪な笑みをマサルに向け問いかけるヘラ。
「ふんっ、ヘラ様はあのゼウスと結婚して後悔してるのかよ?」
「後悔なんてしまくってるに決まってるでしょ!」
「それでも愛してるんだろ?じゃあ、俺たちも問題無いさ。後悔しない生き方なんて本気じゃない証だろ?大いに後悔して、その中で大いなる幸せを探してやる!なんせ時間はたっぷりあるんだ。」
「そうね、後悔なんて超える何かを探し続ければ良いのよ!」
「眩しい………眩しすぎるわ。」
マサルとビクティニアスの誓いにヘラはおどけながら、苦笑を漏らす。
「「愛こそ全てさ!(よ!)」」
「………くっ、馬鹿に見習わせたい………負けた感が半端じゃないわ………。」
何やら本気でダメージを受けたヘラは投げやりに進行をする。
「では、誓いのキスをして頂戴………わたしは少し休ませて………。」
「「………キス。」」
思わず目が合い顔を真っ赤にする新郎新婦。
「え?まさか………。」
「神事での結婚の儀式に誓いのキスはなかったですよね?」
「マサル………何言ってるのよ。貴方が王女の結婚の儀で正式な形体にしたんじゃないの。ちゃんと責任取りなさい。」
自分の行いが自分に帰ってきて言い返す事も出来ない。
「………ヘラ様?やらないといけないですか?まだ私とマサル………キスとかしてない。」
「子供か………あんたらねぇ………さっきの誓いは何だったのよ。力抜けるわ………良いからやりなさい………。」
ヘラの視線を逃れようとするとアデリナとザークと目が合ってしまう。
「(逃げるんじゃないわよ!自分たちが始めたんでしょ!!)」
「(ここまで来て往生際が悪いぞ!!ほら、早く!)」
またもや視線から逃れる様に来賓たちの方へと助けを求める………。
「ヤバいわよ………みんな視線がキラキラしてる………逃げられないわ。」
「どうしようか!腹を決めるしかないのか!?」
本気でウブな新郎新婦は狼狽え、顔の赤みだけが増していく。
「………よ、よし!いくぞ、ビクティニアス!」
「はっ、はい!よろしくお願いします!」
ビクティニアスの肩を抱き寄せ、少しずつ2人の顔が近付いていく。時間をかけた分だけ、周囲からの期待はドンドン膨らんでいき、熱を帯びた視線が増えてくるのを感じながら遂に唇が重なる。
「「「「「「おおおおぉっ!」」」」」」
思わず歓声が起こり、続いて拍手が街中を割れんばかりの勢いで満たしていく。
「「「「「「………………………。」」」」」」
「あれ?長く無い?」
マサルとビクティニアスは唇が重なった瞬間から時間が止まった様に硬直している。
「ちょっと2人とも?そろそろ終わっても良いのよ?」
ヘラが2人を止めようとした瞬間、マサルとビクティニアスは黄金に光を帯び始めたのだった。




