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愚者の末路⑤

「なぁ、なんだか外が騒がしくないか?」


「良いからゼラフィティスは仕事しろ………ったく、すぐに集中力乱すんだから………。」


神殿の一室ではマサルとゼラフィティスが神としてのお仕事に追われていた。


「なんで教えに来たオレより仕事早いんだよ!?」


「これくらいの管理が出来なくてどうする?今時のホームセンターは大小合わせると普通に何十万〜数万種類もの商品があって、在庫管理から入荷、販売まで基本的には売り場の責任者が仕切るんだ。

つまり責任者は、ある程度仕事で使える様になって1つの売り場を任されると数千〜数万の商品の内容を把握して、お客様の相談にのれる様になってから、更に在庫管理や入荷を同時にするんだ。」


「なにそれ、めっちゃブラックの匂いが…因みにマサルはどんな事してたんだ?」


「俺は比較的楽なネジや釘なんかの消耗品の棚かな………。」


「おっ、楽そうで良いな!」


「うちは小さい店だったから常時取り扱っていたネジが約1100種類、カタログや取り寄せなんかを合わせると約4000種類くらいチェックしてたかな?釘やボルトとナットなんかを合わせると数万点の商品を扱う訳だ。」


「げっ………なんて世界だ。」


本気で大きなホームセンターになるとネジだけで常時取り扱い3000種とかしてる店もある頭のおかしい世界なのだ。


「まぁ、売れるネジなんて結構決まってるんだけど、売れる数が少ないからって販売しないとお客様が困るからなぁ………。」


数年売れたりしなくて販売中止になったネジが急に必要で………と言われたりするのは結構ある話なのだ。しかし、置ける商品の数には限りがあり、倉庫にも置ける場所は限られている。


「しかも、常時店員が必要な棚じゃないから他の売り場の応援に駆り出されるんだ。お陰様で花や野菜の苗から肥料、植え方から池に噴水を設置したり………あっ、そのうち噴水を作ろう!………なんだっけ?………そうそう、購入した商品を届けたり、庭にプレハブ置きたいからって言われて購入して貰ったプレハブの組み立てに行ったり………真夏の組み立ては辛かったなぁ………。」


「苦労してたんだな………。」


「まぁ、毎日違う場所でウロウロ出来たのは気分的に少し良かったけどな………田舎だから爺さん婆さん優しいし、上司の目が届かないからコーヒー飲みに喫茶店行ってみたりな。」


「サボってたんじゃねぇかよ!」


「力の抜き方まで覚えて仕事は一人前なんだぞ?何でもかんでも一生懸命やれば良いってものでも無いんだよ。だいたい、力の抜くのが下手なヤツから辞めていくし、力の行き過ぎなヤツから辞めさせられるんだ。仕事出来なくて辞めさせられるヤツなんて殆ど見ねえよ。」


「名言だな………。」


一生懸命過ぎたり、仕事が出来すぎたりするのも社会人としては不適切なのがなかなか世知辛いのではある。しかし、出来る人が普通まで仕事量を落とすと仕事してない様に見えたりするのも難しいところだ。

日本人は休むのが下手で8時間仕事をしなさいと言われれば8時間仕事をしていないと悪いと思う節がある。しかし、欧米など世界的な基準で考えると8時間分の仕事を終わらせれば後の時間は自由な時間となるのだ。仕事に向き合う姿勢としては好ましいのかも知れないが手が空いたら掃除をしなさいとか、早く終わると他の人との兼ね合いがとか、無駄に自分たちの首を絞めているのも日本人特有の仕事意識なのである。


「こっちは日本と違ってスローライフで良いよなぁ〜こんなに余裕あると何して良いか分からなくなっちゃうよなぁ〜♪」


「これがスローライフ???日本人怖ぇ………。」


ゼラフィティスやアルステイティアの人の感覚だと1日中部屋で書類仕事をやるなんて感覚も、1日中物を作ったりする事も普通しない………ましてや兵士や騎士などが平常時に1日訓練したりなどあり得ないのである。

メイでさえ、半日くらい船作りをしたら遊びに行ったり昼寝したりする………一方、マサルは朝日の出と共に狩人たちと起き、日が暮れるまで何かしていない気になる様で現地人たちの勤労感覚で言うと日12時間以上労働している事になる。実際はマサルにとって趣味だったり娯楽の延長も含まれるのだが生産性のある事をしている為、労働している様に見えるのだ。


「マサル………程々にしないと他の皆が休めなくなるから休暇はしっかり取れよ。」


「お?………おう。式終わったら休暇とって新婚旅行用の船を作ろうと思っているから問題ないよ。」


何処が休暇だよ!とゼラフィティスは脳内でツッコミを入れるが無駄だと分かっている為、声には出さない。


「さてと、話も区切りがついたし仕事に戻るかな。」


ゼラフィティスが「今のは休憩だったのか!?」と驚いているとドアが激しく叩かれる。


「マサル、街に賊が侵入した!至急出て来てくれ。」


「すぐ行く!」


クックの声にマサルが立ち上がると、同時にゼラフィティスも嬉しそうに立ち上がる………しかし、そのまま肩を押さえられて再び席に戻される。


「ゼラフィティスは仕事しとけよ、その書類終わらせたら来ても良いぞ?」


「酷いっ!これあと1時間は終わらないぜ!?」


「先輩の神の力見せてくれよ!じゃあな!」


颯爽と駆けていくマサルの背中に情けない声が届くも聞こえないフリで神殿から出るとそこは野戦病院?といった感じで盗賊たちが蠢いていた。


「何なんだよ、この大量の汚いのは………。」


「全部盗賊だ。何組にも分かれて侵入したようだが全員返り討ちにした様で、この有り様だ。」


「そこの全身血塗れの酷いのは?」


「それはメイたちが魔法でめった撃ちに………。」


視界の端でこっそり逃げようとしている一団が見えた。


「おい、コラ!そこの!後で説教だからそこにいなさい!…………で、そこの全員鼻が潰れている団体は?」


「ルルさんにオバサンと言ってぶん殴られた馬鹿な連中だ…。」


ぶるりと震えるクック。


「………母娘(おやこ)揃ってまったく………そこの顔の白いのは?」


「あぁ………ランス司令が叩き斬った集団の後に来て、胃の中のもん全部ゲロった奴らですね。」


「ランスロットを呼び出しておけ………あいつも説教だ。」


その後治療をして、捕まった盗賊たち130人の留置所作りに囚人護送を終えたマサルはやり過ぎた関係者全員にみっちり説教をしたのだった。

その途中、鼻唄を歌いながら小踊りしながら現れたゼラフィティスは追加の仕事に埋もれる事になるのは仕方なかったのであろう。





今回の愚者は対応した街の人たちでした。

子供たちに殺しをさせる気はないマサルは手本となるべき大人たちも含めて力の使い方に凄く厳しい先生なのです。ジータたちだけは誉められてご満悦でしたが、家に帰ると怒られたルルとメイが暗くて大変でした。

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