フウタ逃げてぇ〜
「フウタ………絶対に急に動いたり、大声出したりするなよ。」
フウタは察したのか身体をビクリと震わせて、ゆっくり振り返ろうとする。
「フウタ!振り返るな!…そのままゆっくりこっちに歩いて来い。」
マサルの言葉に再度身体を震わせると言われた通り、こちらへゆっくり歩いてくる。
「そうだ…いいぞ…ゆっくりだ。」
そろりそろりと慎重に歩を進めるフウタだが、フウタが近くと同じだけ皆は少しずつ下がっていく。
「ちょっと!何で置いていくでござるか…。」
小声でフウタは抗議してくるがそれは仕方ないのである。ゆっくりと進むフウタの後ろを同じペースでそろりそろりと歩いてくる巨大な蛾の姿がマサルたちには見えているのである。
「駄目だ………日光の苦手よりフウタへの興味が勝っている………。」
その絶望的な状況に実に理論的な解決策を導き出した者がいた。
「フウタをそのまま歩かせて私たちは左右に逃げましょう。私たちが進路から離れたら後はフウタが全力でこの山の斜面を駆け下りるというのはどうでしょう?フウタが途中で転ばなければ逃げきれる可能性があります………蛾はあまり地面を這うのに向いてないハズですから。」
そう言ったのは先ほどフウタには生き物を任せられないと言ったイーガの少女だ。
「………作戦は他に何も無いから仕方ないか………フウタが転ばない事を祈ろう。」
嫌なフラグが立ったんじゃないかなと凄く心配になりつつも、作戦を決行する事にしたフガ家とイーガ家の人たちは1人ずつ左右へと姿を消して、最後にマサルだけがフウタの前を歩いていた。
「み…みんなは何処に行ったでござるか!?」
「大丈夫だ………絶対に助けてやるからな。合図をしたらこの山の傾斜を全力で下るんだ。良いな?転けたら………いや、何でも無い………食べられないミンチなんてグロいだけとか思って無いから。」
「ちょっと!?もう少し安心させる言葉が欲しいでござるよ!?」
「じゃあ、行くぞ?そら、走れ!」
「ちょっ…心の準備がまだっ!って、ぎゃはぁあぁぁぁぁっ!
マサルの合図で反射的に坂を走り始めたフウタは足を縺れさせながら、悲鳴と共に全力で下っていく。
「……………………………。」
「……………………………。」
予想に反して蛾の魔獣はフウタが坂を下っていくのを静かに眺め、ゆっくりとマサルへと向き直ったのだった。遥か下の方でバキッとかガサガサとか変な音が聞こえてくるが気にしてはいけない。
「結局、人の浅知恵よりコイツの方が賢かったのか………でも残念だな……喧嘩するなら何で1番選んだらマズい相手を選んでしまうかな?」
蛾の身体に少しずつ電気が溜まっていくのが分かる…パチパチと放電音が聞こえている。
「えっと…何だったかな…マギアルウスとの戦いではヘラ様の一撃で叶わなかったけど、今度こそは………さぁ、どっちがアルステイティアの雷の王者か決めようか!」
そしてマサルと魔獣化したホウデンカイコガの戦いが始まったのである。
フウタは最初は坂を下っている途中に蛾が後ろで転けて巻き込まれる……って考えてましまが、とっさの判断でスルーされました。




