放電蚕蛾(ホウデンカイコガ)
「フウカさん?呼んでますよ?」
先ほどまで跪いていたフウカは慌てて立ち上がり声のする方へと向かう。
「おぉ、フウカ!さっきも言った様にイーガ家の蛾が………って、そちらの方は?」
「マサルと申します。フウタ君とちょっとした縁があってお邪魔しております。それより蛾の魔物が魔獣化したと聞こえましたが…。」
「あれが魔獣化………貴方は魔獣化に関して何か知っているのか?」
「魔獣とは何度か戦った事があるだけで詳しい訳では無いですね。魔獣とは魔物や動物に魔素が異常に溜まって変異したものだというくらいの知識しか有りませんよ。」
「それでも十分だ。我々より詳しいようだし、魔獣と戦える程の腕前なら少し手を貸してくれないか?魔獣化したとはいえ、我々蟲繰りの一族が飼っていた魔物だ。ケジメは付けねばなるまい。」
「あなた………その方は………。」
フウカはマサルが神だと知った為、手を煩わせるのを躊躇っている様だが魔獣になった魔物が逃げたとなると放ってはおけない。というか旦那だった様だ…。
「フウカさん、大丈夫ですよ。俺もお手伝いしますから早めに対処をしましょう、人死にが出てからでは問題になります。」
「分かりました、あなた!フウタ!戦支度をしなさい!絶対に余所様に被害を出してはいけません!」
鎧に槍姿のフガ家の3名に連れられ、マサルもアダマンタイトの槍を持って現場へと向かった。そこには4m程の巨大な蜘蛛の死骸と4名の男女がいた。どうやら彼らが蛾を飼う一族イーガ家だろう。
「この蜘蛛を殺して逃げたとなるとその蛾は一体どれ程の巨体なんです?かなりヤバくないですか?」
「………この人は?」
「我が家の客人で助っ人です。何度も魔獣と戦った事があるみたいで協力して頂く事になりました。」
フウカの旦那がそう紹介すると疑わしそうな目でマサルの観察を始めるイーガ家の4名。
「この蜘蛛は胴と腹が引きちぎられてますね………相当な怪力ですね。しかも少し焼けて香ばしい匂いが………取り敢えずは邪魔なので片付けちゃいますね。」
強烈に美味しそうな匂いを放つ巨大な蜘蛛の死骸をアイテムボックスへとしまう。一瞬で死骸が無くなった事に目を丸くして硬直する一同。
「ぼぉ〜としてないで魔獣化した蛾を追うんでしょう?何処から逃げたか教えて下さいませんか?」
「こっちです!私が案内しましょう。」
逃げた先を案内して貰うと洞窟の奥には巨大な穴が空いていて、空がみえる。
「ここは…………っ!そういう事か!」
外に出てみるとそこは夢でドラゴンが出てきた場所だった。
「空を飛ぶ魔獣が空に………早く探さないと!」
「待って下さい!あのホウデンカイコガは日光が苦手なので何処か近くの日陰に居ると思います。」
フウカが教えてくれる。魔獣化してもそんなに劇的に生物の特性が変わらない事を祈りつつ考えを巡らせる。
「日光が苦手な蛾が自由を求めて外へ出ようとして岩壁をぶち破り穴を空けたらそこは苦手な日光………自分がその蛾ならどうする?」
「それは………近くの陰になっている場所を探すでござる!」
自信満々に答えるフウタにマサル以外の全員がため息をつく。
「これだからフウタには生き物の世話を任せられないのよ。生き物っていうのは基本的に自分に向かない環境の中に出ていかないのよ。自ら生存率を下げる様なもんでしょうが………そんな事するのは人間くらいのものよ。」
そうイーガの女の子が話すのを聞いてマサルはそっと洞窟に空いた穴から離れる。それに気付いたフウタ以外も穴からそっと離れた。
「何で皆そっちに行くのでござるか?」
不思議そうに首を傾げるフウタの後ろには無機質な複眼の巨大な目が並んでいた。
フウタ〜後ろ!
皆酷いとか思わない様に………みんな我が身が可愛いのですよ。




