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トラブルは時を選ばない【アデリナ視点】

「これがマサルの戦い………凄い………。」


アデリナは子供たちと街を囲む城壁の上からマサルと亀の魔獣の魔法の撃ち合いを見ていた。凄まじい爆音と吹き飛ぶ地面、荒れ狂う炎に子供たちは脅え顔を青くしている。


「おにいちゃんが死んじゃう!!みんな、おにいちゃんをたすけて!」


そう訴えるメイをただ抱き締めて「大丈夫だよ」と慰める事しか出来ない自分の無力に泣き出したくなるが、ここで自分が弱い姿を見せる訳にはいかないと何が起きても決して戦いから目を背けないと強い眼差しで睨み付ける。


「何とか逃げれた…くそっ、歳だろうな…腰にくる…。」


「なんだヤザ、書類仕事で鈍ったんじゃないか?………おっ、アデリナここにいたのか。」


ランスロットとヤザも戦いを見る為に城壁に上がってきたようだ。


「また派手にやってるな………ありゃあ、オレたちじゃあ混ざれんわ。」


「確かに優れた魔法と馬鹿みたいな身体能力と化け物みたいなスタミナが要るな……気付いたかヤザ?」


「あぁ……マサルは本気じゃねぇな。ありゃあ、誘導だ。広い場所に誘き寄せてやがる。」


その言葉に信じられない思いで戦いを再び見直す。確かに石牢の近くで始まった戦いが既に50m以上も場所を移している、それはマサルがずっと押されているのかと思っていたが2人の古強者に言わせると余裕を残して場所を移しているだけだという………どちらの観察眼が正しいかなんて今回の場合は考えるまでもなく………。


「おい、クック!王の護衛に城の魔導師いただろ見せとけ!あれが魔法戦だってな。」


城壁の下にいるクックを見付けると叫ぶランスロットにクックは少し躊躇った後に叫び返した。


「もう見てます!頭を抱えて脅えてますが。」


アデリナはそのやり取りに無茶な事を言うと呆れる………あれが魔導師の資質なのだと言われれば死にたくなるに決まっている。私なら職業魔導師なんて廃業して田舎暮らしをする…絶対に…魔導師というだけでは決して超人にはなれないのだ。


「あれくらい動けとは言わん、せめて魔法だけならどうだ?」


「無理ですよ、アレは参考にならないですって…城の魔導師たちは私にも1対1で勝てる姿が想像出来ないですし。麦の穂と鋼の剣とを比べられている様なものです…あまりに酷ですよ。」


「なかなか辛辣だな…でもまぁ分かった。麦の穂を持って戦場に行かす訳にはいかないだろうな…せめて木剣くらいを持つ者を育てなければならないか………。」


「そういう事じゃないですかね。ヴィンターリアでは魔法についての教育も資質次第では一般の者にも解放するって言ってましたよ。他国からの留学?も可能らしいです。」


財政担当の自覚が出てきたのか、ちゃっかりと宣伝をぶちこむクック。それに対して誰を学びに来させるか真剣に悩み始めるヤザ。


「そろそろ戦いに動きがあるぞ。もうかなり広い場所に行ったからな…。」


ドォオォォオォォォォン!


「おぉ!ひっくり返し……ってマサルも吹き飛んだぞ!?」


「おにいちゃん!!?」


ヤザの解説に思わず駆け付けようとするメイをしっかり抱き締めるアデリナ。


「大丈夫、マサルは無事よ。ほら見てみなさい。」


「ピンピンしてるな………おっ、トドメを刺す様だな。」


「んっ?……………………………………何も起きないぞ?」


チュドォォォーーーーーーーーーッン!!


「げっ、今度のはヤバい!!マサルが動かないぞ!」


「救助よっ!急いでっ!」


「おにいちゃん!!!!」


「ちょっと誰かメイちゃんを止めて!!」


メイだけではなく、戦える者は思い思いに武器を持ちマサルと魔獣の元へと既に向かっている。


「みんな!止まりなさい!全員止まって!」


アデリナは必死に叫ぶが、誰1人足を止めない。


「何でよ………何でなのよ………みんなに何かあったら何の為にマサルがあんなになって………。」


「アデリナっ!馬だ、乗れ!まだ遅くない!」


立ち尽くすアデリナに声をかけたのはザーグ。万が一を考え馬と突撃槍(ランス)を用意していたのだ。ザーグの後ろに乗りしっかり抱き付いて身体を支える。


「行くぞ!落ちるなよ!」


全力で馬を走らせると先頭を進んでいた者たちとマサルと魔獣の元へ到着するのはほぼ同時だった。


「全員止まりなさい!!魔獣の近くには近寄らないで!マサルも無理に動かさないで、治療出来る人を待って!下手に動かすと危ないわ!」


「アデリナ。オレは魔獣を見てくる………民は任せたぞ。」


言外にお前は女王になるんだろ?と言われ気を引き締めるアデリナ。


「おにいちゃんっ!!」


「ちょっとメイちゃん、まだマサルは動かしたら駄目よ!頭を打ったりしてるかも知れないでしょ?」


「おねえちゃんてつだって!これおにいちゃんのぬのなの!これでたんかつくるの!」


「たんか?………あぁ!ちょっと!槍持ってる人は貸して頂戴!これでマサルを運べるわ!」


メイは門に緊急用に用意してあった担架用の布を持って来ていたのだ。槍の柄を通せば通常の担架に使えるし、人数さえいれば布だけでも運べるように持ち手をつけてあるのだ。大人たちが感情的に動く中、メイだけはマサルに習った事を実直に実践したのだ。


「メイちゃん、ゴメンね………わたしまだまだね。」


メイと自分を比べ不甲斐なさに情けなくなるアデリナ。しかし、落ち込んでいる場合ではない。


「魔獣は死んでるぞ!念のため周囲の警戒は怠るな!アクシオン王に伝達!ヴィンターリアの警護に兵を回して貰え!」


「マサルはちゃんと息をしてるわ!脈拍もちゃんとうってる………外傷は少しの火傷だけみたいよ!さぁ、みんな運ぶわよ!魔獣の方も運ばせて!マサルが起きて放置してるって知ったら怒るわよ!」


マサルを運んで治療をして寝かしたり、魔獣を運び終えると既に昼前だった。マサルの様々な用意という名の様々な道具作りのおかげで重い亀の魔獣も何とか運搬出来たのだが、結局置き場に困って石牢の前に放置状態である。


「ちょっと!建国の儀式の準備が全然出来てないわ!みんな準備にかかって!ヤバいわね…マサルがいないと動かない事の方が多いじゃないのよ!誰よ、マサルを戦いに投入したのは!?」


「アデリナ…現実逃避する暇があったら頑張ろう?」


「ザーグ………あなた………。」


「「良いから働け!!」」


住民たちからツッコまれて我にかえったアデリナはそもそものところから躓く。儀式の進行も必要な準備も分からなかったのだ…神殿の外側の準備に関しては知っているが内部はマサルに任せっきりだったのだ。


「まさか!………メイちゃん、もしかして神殿の内部の準備について何か知らない?」


「おにいちゃんがへやにやうことのメモしてたの!」


「ヤバい………メイちゃんの方が仕事出来るとか、立場ない…頑張らないと。」


メイと一緒にマサルの私室のメモを見ると…。



******


◆進行

観覧するものが揃ったらアとザが入場。

神様降臨(多分3柱?)

祝福される?建国と戴冠(アドリブ?)

テラスから外に出て外で待っている民にアが建国の報告と演説?


******


「アとザは私とザーグだろうけど…ほぼアドリブ?しかも演説とか聞いてないよ!?」


「おねえちゃん、さきにずんびだよ!」


「そうでした、ごめんなさい。」



******


◆準備する物

燭台と蝋燭

祭壇の絨毯

席の配置

ビクティニアスたちのオヤツ


******


「……………………燭台と蝋燭は今出てるのじゃ駄目なの?それに絨毯は何処にあるのよ!?席の配置ってどうする気!?そもそも観覧に誰が入れるか聞いてないよ!?冠って…戴冠のヤツ?何処にあるのよ!?それにオヤツ???」


「どうぐはおにいちゃんのアイテムボックしゅのなかだよ?よおれるからしまっとくねって言ってたの!」


「アイテムボックス!?どうしようもないじゃないの………。」


「おにいちゃんのアイテムボックしゅの中だすの?」


「え?出せるの?」


「ゼあフィティス様呼んでくゆね!」


「え?ちょっと待って!私も行くから!ちょっと!!?」


駆けていったメイはマサルのところまで行くと、


「だれかみていたらゼあフィティス様を呼んでくだしゃい!!おねがいします!」


「え?どういう?」


「おにいちゃんのおへやは神さま見てないのよ。」


自分の物の知らなさに、そして何も出来ない悔しさにアデリナはきつく拳を握りしめる。


「お待たせ!メイちゃん、呼んだかな!?」


ジャジャーンとポーズ付きで突然現れたゼラフィティスには忙しさも相まって誰も反応を示さない。


「………えっと、外した?」


「ゼあフィティス様っ!おにいちゃんのアイテムボックしゅの中のどうぐないとおねえちゃんこまゆの!」


「マサルどうしたの?気を失ってる?」


「あのね、かめさんのまじゅーとね、どぉーんてなってね、おにいちゃんもいっしょにどぉーんてなってね…。」


「つまり、魔獣との戦いで魔法の爆風に巻き込まれて頭打つかどうにかしてみたいで………。」


「あぁ、なるほど。これは………軽い脳震盪だね。濡れた布でも顔に当ててやれば多分起きるよ?」


「おにいちゃんぶじなの!!?メイ、みゆとぬのもってくゆ!!」


「何か最近メイちゃん、滑舌悪くない?」


「興奮するとあぁなるってルルさんが言ってましたよ?可愛いですよね。」


「可愛いよねぇ…持って帰っちゃいたいよ。」


「絶対に駄目です。」


やっぱり?と落ち込むゼラフィティスを完全にスルーして、水を入れた桶と布を持ってきたメイはびしょびしょのままの布をマサルの顔にベシャっと置いた。


「「あっ!」」


「ぶふぁ!?何だ!何で俺溺れてるの!?」


「おにいちゃん目がさめた!やったぁ!」


こうして起きたマサルによって何とか儀式の前までに準備は終わるのだった。


「メイちゃん凄いわぁ〜………将来絶対に女傑とか呼ばれるな。」


呟くゼラフィティスの言葉を全面的に肯定するしかないアデリナだった。

緊急時の対応力はメイちゃん>アデリナさんとメイちゃんに軍配が上がりました。

そもそもアデリナは軍にいた訳でも帝王学を学んだ訳でもない一般人の女性なのであって、何でも出来る訳ではないのです。今後の成長に期待です。

今回だけで何度メイにコテンパンにされたのでしょうか?未来の女王陛下は…頑張って欲しいですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] メイの話し方が序盤と全く違ってイラっとする。
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