前夜祭 3〜キャンプファイア
「前夜祭最後と言えばやっぱりキャンプファイアだよね!」
「何がやっぱりなのかは分からないが豪快過ぎない?」
ゼラフィティスが呆れるのも仕方ない…丸太をそのままドドドンっと高さ5mまで積み上げて作ったキャンプファイアは広場の真ん中を陣取り勢いよく炎をあげていた。豪快で中々危険に見えるが一応は倒壊しない様に念入りに対策はなされている………本当だよ?
「で、BBQを皆でフリーでして貰うと…。」
「びーびーきゅうってなぁに?」
「バーベキューっていってね、自分たちで欲しい肉や野菜を焼いて食べるんだよ。ほら、広場の周りにルルさんたちが用意してくれてるだろ?」
「おかあさん?あ、おかあさんだぁ〜♪」
母親であるルルさんを見付けて駆け寄っていくメイを寂しそうに見詰めるゼラフィティスは娘を取られたお父さんのようだ。
「あと、ゼラフィティスにボートレースのトロフィーと彫刻刀の授与して貰うからメイもまた来るから元気だせ。」
「おっ………おぅ。ちゃんと準備したんだな…ってミスリルの彫金で名前入りか…やっぱり自重はしないんだな。」
「自重は地球に忘れて来た…文句あるならゼウス神にでも言え。」
「また無茶苦茶言い出す…まぁ、良いや!バーベキューには海産物もあるんだろ?蟹とか海老とか?」
「いや、無いな。海産物が欲しいなら謎の亀やタツノオトシゴでも食べるか?」
「食べれるのか?」
「知らん………ゼラフィティスなら死にはしないだろ。」
相変わらず酷い扱いに肩を落とすゼラフィティス。そして、ふと頭に過った質問を投げ掛ける。
「地球でも君は神様の扱いはこんな感じだったのかな?向こうではまさかコレが普通?」
「向こうでの神様の扱い?そんなものは存在しない!」
「はい?」
「地球にいた頃は神様に会ったとか言ってたら普通に頭おかしい人だからな?普通に人の前に姿は見せないし、神が喋りかけても証明する方法は無いだろ?だからそれは幻聴だ。」
病院行けよ?と言われるくらいなら良いが下手をすると変な薬の使用を疑われたりする可能性すらある。最低でもヤバいヤツのレッテルがつきまとう事になるだろう。
「ちょっと待て!地球では神々の力が強いという事は信仰の力が強いという事だぞ?」
「そこは総人口とか、何となくじゃない?」
「何となく??」
「そう、都合の良い時の神頼みとか、恋愛する時にだけ信仰に目覚めたりだとか…クリスマスや年越しだとか…色んな事に宗教や神様がくっついてくるんだよ。そんなのも力になるんなら………色々と複雑だよな。」
「なかなか地球の神々は高度な事をしてる様だな。」
「それを狙ってやってるとは思えないけどね。」
「何でだい?」
「ここのヴィンターリアの数人にさえゼラフィティスですら右往左往してるだろ?神様だって人の監督は出来ても支配は出来ないって事さ。」
「まったくだね…まぁ、右往左往してるのは主に君の…マサルのせいだけどね。」
ふふっ、と笑ってマサルはゼラフィティスから逃げる。
「おにいちゃん、兎人族のおねえちゃんがきたよ!」
「ん?兎人族のおねえちゃん?誰だ?」
「おにいちゃんの机の中の絵のおねえちゃん!」
「メイ………まさかそれって………見たのか?いや、見たんだな………。」
「ダメだったの?」
「いや、良いよ………でもな、あのおねえちゃんは兎人族じゃあないんだよ。紹介してあげるからおいで。どっち行ったかな?」
「あっちなの!」
メイの案内でキャンプファイアをぐるりと回って行くと、
「いた!おねえちゃん!」
「やぁ、ビクティニアス。今日はどうしたんだ?」
「えっ?ビクティニアス様っ!!!」
メイの叫びに全員が一斉に振り向く。
「知ってるだろうけど、メイちゃんだ。ゼラフィティスのお気に入りの天才少女。」
「はじめましてメイちゃん、ビクティニアスよ。いつの間にゼラフィティスは幼女趣味になったのかしら?まぁ、凄く可愛いけど。」
「はじめまして、ビクティニアス様。メイです。よろしくおねがいしましゅ!」
「可愛いっ!持って帰って良い?」
「駄目だ。ゼラフィティスも同じ事言ったぞ?」
「むぅ………一緒にしないで。マサル!バーベキューで蟹を食べるわよ!」
「………蟹も海老も明日だって言っただろ?」
「脚一本はくれるって言ったじゃない♪」
「仕方ないな………じゃあ準備するからメイとそこで待ってな。」
「メイ、イスもってくゆね!」
「ふふっ、こうしてると私たち家族みたいね。」
「あぁ、そうだな。家族みたいだ。」
………前夜祭の夜はふけていく。
あぁ…家族かぁ。家族かぁ………しくしく。




