毒ほど深刻ではないけど問題なのです。
前夜祭前日…マサルは1つの大問題の解決の為にゼラフィティスと共に行動していた。
「悪いな、ちょっと儀式までにゼラフィティスたち神に少しは皆が慣れてくれないと悲劇が待っていそうな気がしてな…。」
「喜劇じゃないのか?」
「神々との会食を伴う宴でゲロったり、気絶したりして欲しいのか?」
「ゲロ………それは勘弁だな………。」
「だからこそ少しは耐性をつけておかないとな。」
「まるで化け物か毒物の扱いだな…。」
否定出来ないところが悲しいところである。ちょっと次元や方向性が違うだけで………。
「まずはロブスター用の巨釜とオーブンのテストからでどうだ?広場の目立つ場所に設置するから最初としては良いだろ?」
「つまみ食いも出来る?」
「少しだけだぞ………ビクティニアスにもそう言ってあるんだ、機嫌を害したくない。」
「なんだ?もう尻に………痛っ!?ちょっと!?尻を蹴らないでっ!」
無言で後ろから蹴り上げたマサルに笑いながら抵抗するゼラフィティス…2人はじゃれあいながら広場へと向かった。
「じゃあ、釜に温泉の源泉の湯を入れるぞ!手の空いている人は手伝ってくれ!同時にオーブンと薪入れをして火を入れる準備をする!みんな火傷や怪我にだけには気をつけろよ!」
一言かけると準備していた者全てが自分の役割を見付けて作業を始める。
「いやぁ、無駄がないね。ちゃんと自分の仕事を把握して誰にも聞いたりしなくても皆が働けるなんて…実に素晴らしい!」
「朝のスタッフミーティングできっちり全体の仕事の手順や分担をしっかり話し合ったからな…ここ最近だよ、こんな風に動ける様になってきたのは。」
「でも、周りを見てごらんよ。他所から来た人達は働きっぷりに驚愕しているよ。」
「これくらい出来ないとこの短期間に街造りなんか出来ないからな…今までの積み重ねの成果さ。」
「よく分かったよ、君がスパルタだって事はね。」
日本では当たり前に行われる仕事前のミーティングだが、実は簡単に出来る事ではない。1人1人の意識の高さや、仕事への理解等が必要で、それには本来教養が必要なのだ。
「この温泉のお湯ぬるいんじゃないか?沸騰してから海老入れるんだろ?」
「そうだな、沸騰させてから塩とロブスターを入れて茹でる。さっき火入れしたオーブンには既にロブスター入れてるけどな…何しろあのサイズだ…火が通るかも分からん。」
「解決策は?」
「熱を移動させる魔法の開発をした。それで何とかしてみるさ。」
「まさか…この調理の為に魔法を組み上げたのか?まったく凄いというか何というか…。」
やはりマサルも日本人という事か、食にかける情熱と意気込みは半端なものではない。
「まずは巨釜にロブスター入れてっと…次はこっちかな…火力や中の温度的にオーブンの方をしないと殻が焦げるな。」
「そうだな、焦げたらマズイよな…色んな意味で。」
「あぁ、焦げたら焦げたでそこが現場の味見って事だな。」
「えっ?オレも焦げた所なのか!?」
「当たり前だろ、今日はお手伝いで本番じゃないんだから………特別扱いは無しだ!」
ガッカリするゼラフィティスは放置しておいて、オーブンの中の熱の操作を魔法で始める。
「熱操作………ぐっ、オーブンの側めっちゃ熱い………。」
「ちょっとマサル!?それはちょっと危ないよ?焦げる…君の方が焦げるから!!ちょっと誰かマサルの袖口のところに水でもお湯でも何でも良いからかけてあげてっ!燃える!燃えちゃうから!」
ゼラフィティスの慌てた声に周囲も慌てて貯めてあった水や温泉の湯を思い思いにマサルにかけていく住民たち…ちょっとしたパニックにより、肝心な手や袖口には熱めのお湯が、頭や身体には水がかけられる。
「頭や身体要らなくね?火がつく程なら離れるくらいするんだけど…。」
「離れてロブスターが焦げたら困るじゃないか!焦げたとこの味見なんて嫌だよ!?」
「てめぇ…ゼラフィティス!後でもう一度ケツを蹴り上げるからな!」
「ちょっと!?それ酷いよ!?」
マサルとビクティニアスが、またじゃれあい始めたその時…周囲の人たちは時間が止まったかの如く固まっていた。
「…………ゼラフィティス様?えっ?嘘!?」
「ん?呼んだ………ってアレ?」
周囲の大人たちはパニックになった(さっきから2度目)呆然として何やら呟き始める者、ただ瞬きを繰り返す者、そしてその場に座り込む者…漏らした人や気絶した人がいないだけ上出来ではある。が、困るものは困るのである。
「ねぇ、マサルどうしたら良いかな?」
「さぁな、俺は焦がしたら駄目だから手が離せない…自分で何とかしろ!神だろ?」
「神だからこうなってるんだけど!?」
すっかりパニック仲間にゼラフィティスが加わりかけたその時、救いの天使たちは現れたのだった。近くでボートレースの準備をしていた子供たちである。
「ゼラフィティスさまですね!はじめましてメイです!おあいしたかったです!」
そう言って跪くメイに続いて、他の子供たちも次々に名乗りゼラフィティスの前に膝を折る。
その姿にやっとすべき事を見付けたと大人たちも追随していく。
「頭をあげてくれ、今日は皆に神に少し慣れて貰おうって事でお邪魔したんだ。あまり気にせず自分たちの仕事をして欲しい。」
「………慣れるって………。」
誰かが漏らした言葉に頷く大人たち。
「慣れないと宴で美味しいご飯が食べれないぞ?」
「「「「「「…………………………。」」」」」」
「美味しいご飯の前に小さい事気にしたら駄目だよね〜♪」
「神さまが小さい事なのか…兄ちゃん。」
ジータが呆れた顔で見上げている。
「おいしいごはんしゅきぃ〜♪」
その横ではメイと小さな女の子たちが小躍りしながら喜んでいる。美味しいご飯は正義なのだ!
「よし、ジータとメイ!オーブンの火をおとしてくれ…あとは余熱で十分だ!」
「「りょーかい!」」
てきぱきと作業をこなす兄妹をゼラフィティスは珍しそうに眺めている。
「いやぁ、よく働くねぇ。良い手際だよ。」
「そうだな、下手な大人より良く働いてるかもな。」
この世界では子供といえど、普通は労働力に数えられる。その中でもこの兄妹はかなり働き者の部類に入るのだ…挙げ句に頭も悪くなくやる気もある。
「可愛いし働き者…持って帰りたい…。」
「駄目だ…ロリはノータッチがルールだ。」
ゼラフィティスはメイちゃんがお気に入りの様だ。いつの間にか椅子に座ってメイちゃんを膝に座らそうとしている…父性愛である事を切に願おう。
「じゃあ、茹での方にもっと…熱操作!………こっちはこっちで湯気が熱いな。」
オーブンでやっている時には中が見えなかったし、未だに余熱で蒸している状態なので分からなかったが青かったロブスターのその外殻は熱が入ると共に透き通った透明になっていく。最終的には仄かに青みを残して身が透き通って見える程の透明になった。身は純白でプリプリしていてとても旨そうに見える。
「じゃあ、こっちも火をおとして暫く置いておくか…。」
蟹や海老は茹でたりした後に急に冷やすと身が縮んで中がすいてしまうのだ。マサルはウキウキで巨釜やオーブンを見ているが、周りはこれらを食べる習慣がないばかりか虫だと思っているので不安そうである。
「じゃあ、そろそろ食べれるかな?マサルちょっとだけおくれ!」
「………子供か……このロブスターの解体にどれくらい時間かかるか分かってないな?」
只でさえデカイのに熱々なのだ…こんなもの誰にも手が出せない。
「たまには解体スキル活躍させてあげなよ…マサルの本気が見てみたいなぁ♪」
「うるさいゼラフィティス!こんな熱いロブスターを解体したらどうなるか分かっているのか!中から熱々の汁が溢れて大変な事になるんだぞ!?」
「熱々………旨いのかい?その汁は?」
「…………そりゃあ、コイツが旨いなら旨いだろうな。」
「やろう!今から解体やろう!」
野郎のワガママって何でこんなに面倒くさいのだろう…自分でやれば良いのに…ん?自分でやれば…?そうか!
「よし、やろう!ちょっと待ってろ!汁が流れて無駄にならなき様に受ける皿用意するから!」
「やったぁ〜♪流石マサル、話が分かるね!」
「よし、準備出来たぞ!ほらゼラフィティス、アダマンタイト包丁だ。」
「えっ?何でオレに包丁なんか…まさか!?」
「おう、そのまさかだ!さぁ、ここからブスッと刺し込んで!一気にいけよ!躊躇うなよ?」
「おっ、おう!任せろ!」
マサルの勢いに負けてやらなきゃならない気になったゼラフィティスはマサルの指示通りに一気に包丁を殻と殻の間に突き刺した!!
ブシュっ!
当然の如く吹き出す汁がゼラフィティスの顔を襲う…。
「うぎゃあぁぁぁぁぁっぁぁあぁあっ!!?」
「ちょっと暴れるな!汁がこぼれる!向こういけよ!ほら、ジータ!そこの水瓶の水かけてやって!」
「えっ?えっ?えっ?えっ?えっ?」
神に水をかけろと言われてパニクるジータ少年。暴れるゼラフィティス…必死に海老汁を守るマサル。
「くそっ、このままだと海老汁が!ゼラフィティス少しだけ我慢しろよ!えいっ!」
ゼラフィティスは後ろから抱えられ、そのまま頭から逆さの状態で水瓶の中に放り込まれる。当然、今度は足だけを瓶から出して溺れてしまう。
「えいっ!」
メイがゼラフィティスの足を引っ張って水瓶ごと倒す。
「ごはっ、ぐほっ、ごぽっ…ごほっごほっ…助かったよメイちゃん。」
「ほら、ヒール…火傷は大丈夫みたいだな。まったく手がかかる…。」
「マサル…君ねぇ…ちょっと酷いよ?」
「酷いって、それを俺にやらせようとしてたんだろ?」
「うぐっ………それはそうなんだけどさぁ……。」
「じぶんがわるいと思ったときはごめんなさいだよ?」
メイの一言にトドメを刺されて本気で反省するゼラフィティス。
「マサル…ごめんよ。そんなつもりはなかったんだ。」
「あぁ、別に食べさせないと言ってる訳じゃないんだ、それなりに色んな配慮が要るって勉強になっただろ?誰だって熱いのも痛いのも嫌だしな。」
「そうだね。なかなか勉強になったよ…メイちゃんに嫌われるのは嫌だしね。」
そんなこんなで何とか神さまがいる事には多少慣れたヴィンターリアにいる人々であったが…。その夜、色んな大人たちにマサルはゼラフィティスにした行いで責められ怒られたのは仕方ないのであった。
いやぁ、ヴィンターリアの住民たちも重鎮たちと同様に巻き込まれてきましたね。ハゲないと良いのですけどね。
あぁ…体長5mを超えるロブスター2匹って何人前あるんでしょうね?(笑)




