もうすぐですよ。
なんだかんだと細かい事はあったが、前夜祭の1週間前くらいになり続々と各集落から代表者、そして子供たち、そしてその護衛たちがヴィンターリアへと到着しだした。
街に入ると皆揃って暫く立ち止まり、綺麗に整った街並みに夢の中にいるかの様な表情をするのが面白い。これは生活の中で少しずつ発展したのではなく一辺に規則性を持って造り上げられたからこその美しさだ。本来の街並みはもっと不規則で発展の仕方も富裕層や貧困層などバラバラに発展するものなのだ。
その日もマサルはどこかの一行が来たと報告がある度に、出迎えに城門へと駆け付ける。
「遠くからよくお越しになりました。小人族の風弓の氏族長のハライタ様と護衛の戦士6名様、子供たち12名ですね。お待ちしておりました。ご無事の到着なによりでございます。」
まず、城門を抜けた場所での確認で向こうの名乗りを待たず、相手の素性と人数をこちらから提示して言葉だけは下手に出ながらも立場的な優位さを見せ付ける。勿論、ゼラフィティスとつるんだマサルの悪巧みの一環だ。
「まずは、旅の疲れと汚れを取る為にそちらの湯屋にお立ち寄り下さい。」
旅の汚れを落とすという名目で湯屋に案内した後、服や靴の泥や汚れを少しでも落とすと称して簡易的なボディチェックと荷の確認を行う。鑑定スキル様々なのである。ついでに、靴や服のほつれをマサルがスキルで修復のサービスも行っている。
湯屋から一行が出ると、
「それでは簡素な建物ではありますが、皆様の滞在先へとご案内させて頂きます。」
と一行を滞在先の建物へと案内する。この滞在先の建物は昔でいう長屋の様な形の建物で集落ごとに一棟が割り当てられる。
勿論、規格化して建築する為のコストや手間を可能な限り小さくした建物なのだが、他所から来た人達には未知の建築方式で石材やタイル、煉瓦をふんだんに使用したこの家に感嘆の溜め息を漏らすしかなかった。
中でもトイレは誰もが息をのんだ…なにせ文化的には中世にも発達していないこの世界で広めの個室で見た目は完全に近代の洋式トイレなのだから。
レバーを引くと貯水タンクから水が流れる所まで再現してあるが、その地下はスライムが「ご飯♪ご飯♪」と待っているというのは余談だろう。
「荷物を置き終わり一息つけた様なので街中をご案内致します。」
と現れたのはザーグ。当然、王配だとか何だとかと余計な事は言わない。
「とは言ってもお城も何もまだ御座いませんが…現在この街で1番大きな建物はあちらの白い建物で神殿です。ご用のある場合はどなたか街の者へ声をかけて下さい、管理する者へと入る許可をとって下さいます。街の者は全員が胸にこの様なバッジを付けておりますので目印にして声をおかけ下さい。」
識別用のバッジは急遽、使用用途の少ない青銅でマサルが適当にト音記号を模して作った物だ。簡単に模倣が出来ず、しかしマサルが見たら一目で分かるから意外に便利なのだ。文字同様、この手の記号は簡単そうで簡単に書けないのである。ト音記号である事に何も意味はない。
「尚、子供たちは前夜祭まで午前中は神殿にて簡単な数字のお勉強が受けられます。今回は体験してみるのを目的としていますので是非いらして下さいませ。あ、オヤツも出ますよ?」
オヤツという単語に目を輝かせる子供たち。
「後、この街の子供たちが工夫と発想を競うボートレースが前夜祭に行われます。子供たちはあちらでこの街の子供たちが、本番間近なのでテストをしているので見てみると良いと思われますよ?」
子供たちは大人の了解を得ると走ってそこへ向かう。きっと夢中になるだろう。
「では、子供たちは子供たちに任せるとして皆様には夕飯等の説明をさせて頂きます。この街では牧場がありまして、現在風切りウズラと角ウサギは過剰なくらいに飼育されています。なので、そちらに関しましては皆様が滞在中に狩り等をしなくても召し上がる事が可能です。
祭の後に税金のお話や交易についての会議がありますが、食事はこの街では全員で分かち合うという事になっておりますので、無償で好きなだけ食べる事が出来ます。常識的な範囲でですけどね。」
普段、命懸けで狩りをしないと食べられない肉をここでは安全に無償で食べられるという言葉に驚く一行。要は国も集落もどうやって安全に暮らすか、またどうやって民に食べさせるかという問題が1番重要なのである。
「因みに、ネタバレなんですけど…暫く女王は税金は考えていませんとの事なので心配はなさらないで下さい。」
その言葉に更に驚く一行…国なのに税金を取らないでどうやって成り立たせるつもりなのか意味不明なのである。もう、何もかもが謎過ぎて誰1人質問が出てこないのも仕方ないのだ。
「我々はどこか違う不思議なところへ迷いこんだのではないか…。」
そんな1人の護衛役の戦士の言葉に皆は心から頷いていた。
因みにスライムさんは喋りませんよ(笑)
間違っても「ボク悪いスライムじゃ…」なんて言いませんからね。
ご指摘により一部修正しました2018.02.14




