命名
「ヴェネチア…パリ…ロンドン…東京…違うな…。ビクティニアス…アイラセフィラ………アデリナ…んん?違うか…。」
その日は朝から夕暮れまで1人でぶつぶつとマサルの街の名前を考える為に1日中同じ様な考えをループさせていた。
「そもそもどうやって街に名前って付けるんだ?」
最初こそ地球上の都市やゲームや漫画の中の街の名前を引っ張ってきて適当に名付けようかと思ったが、思っている以上にこの街に愛着を持っている事に気付きオリジナルで名前を考えようと至った所までは良かったのだが普通の人は街に名前を付けたりはしないのである。
自分たちに子供が産まれてきた時にさえ、普通は様々な本などをみて既存の名前を参考にしたり、意味を持たせる為に字を調べたりするのである。
それなのに異世界の異なる言語で異なる文化の街に、スキルで言語翻訳されている人が名前を付けるのである…簡単に決まる訳もなかった。
「にいちゃん…大丈夫か?」
考えに行き詰まり、何の理由もなく木の枝から蝙蝠の様にぶら下がっていると後ろからジータに声をかけられた。
「何か初めて会った時にも同じ様な事言われたよな…。」
「あぁ!にいちゃんが外の岩のところで寝てた時か!」
「何か遠い昔の様に感じるな…。」
「そう?何かにいちゃんに会ってからは、あっという間に感じるよ。」
そういえば子供時の1年とか2年って長かったなぁ〜と思い出して妙なところで年齢を感じてしまうマサル。
「あの時の集落が見違えたな…。」
素組みした木と草と動物の皮で出来ていた集落だったのが、今や石と煉瓦造りの街へと変貌を遂げたのだ。これにはマサルも我ながら頑張ったと思っている。
「にいちゃんって神様のお使いなんだろ?長たちが言ってた。」
「はっ?お使い?………あぁ、御使いな…。」
「違うの?」
「ん〜………やる事は同じかな?まぁ、御使いとかじゃないけどな。」
「みつかい?じゃないの?」
「そうだな…俺は神様のお友達だ。うん、本人たちもそう言ってたしな。」
「友達なの!?凄ぇ!!」
「す…凄ぇのか?」
過去最大級の尊敬の眼差しに怯むマサル。いつもは背伸びして大人であろうとするジータの子供らしい姿が凄く可愛い。
「また機会があればジータやメイも会える時があるかもね。」
「っ!本当に!?」
「あぁ、機会があればね。」
「お母さんも一緒?」
「あぁ、そうだな…。ん?」
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【新着のメッセージがあります。】
美味しい蟹料理の夕食で考えて良いわよ。〜ビクティニアス
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「どんだけ蟹好きなんだよ…。」
「………にいちゃん?」
「いや、何でもないよ。本当にビクティニアスは…んん?ビクティニアスに…アイラセフィラ………っ!これだ!」
急に頭の中にこれだという音が響いた…。
「どうしたの!?」
「街の名前を思い付いたんだよ。聞いてくれるか?」
「えっ?この街の名前?」
「そうだ、この街の名前だ。今日からこの街の名前は………。」
「…………名前は?」
じっくりと溜めてからの………。
「ヴィンターリア!この街の名前はヴィンターリアだ!」
「びん?たーりあ?……言いにくいよぅ。」
「すぐ慣れるさ!」
「本当?」
「あぁ、本当さ!」
この後、始終ニヤニヤしたマサルとジータによって夕食の時に街の名前が皆に発表されるのだが、一瞬微妙な顔をされて苦笑しながら受け入れられるのは仕方ないだろう。何せ決めた本人が何故この名前に決めたのかわからないのだから…。