これって、サービス付き高齢者向け。
私も今年で65歳。だからどうしたまだまだ働ける、と自分では思っている。でももうお年寄りの仲間入りか。
微妙な年頃なんだよ。------そんなある日の事。
ちょっと立派なドアだな、まぁいっか・・・。
小洒落た店内を想像しながら私はゆっくりと扉を開けた。
”いらっしゃいませぇい!”
そこには外観からではまるで想像もつかない世界があった。
こ、ここは・・・・・。
ーーー2030年、世の中は団塊の世代で溢れかえっている。老人施設も溢れている。海外からの介護労働者も多い。だが介護職員が全く足りてない。介護業界も、生き残りを掛けた企業が様々なサービスをもって差別化を図っていた。ーーー
ドアを開けると、短めのパンチパーマの頭ににねじり鉢巻きをした漁師風の男が私を迎えてくれた。
白地の鯉口シャツの胸元はVの字に大きく開いていた。濃い胸毛の中からは金色のネックレスが覗いていた。
”いらっしゃいませぃ!”
と店の奥からも威勢の良い声が飛んできた。
”まずは何にいたしやしょう!”
私の目の前にいるねじり鉢巻きの男がそう言った。
えーっ・・・と、もじもじしている私にその男は更にたたみかけてきた。
”何にいたしやしょう。・・・≪しょう≫ですか、それとも・・・。”
私は男の気概に押し倒されそうになりながらも、伝えることはしっかり伝えるのだ!と、自分を鼓舞した。
「しょう、で、お願いします。」
すると男はそれまでの訝しい表情から、
”はいゃ、しょう!入りもぁす!”
の言葉と共に、間違いなく明るい表情に変化した。その変化がちょっとだけ怖かった。
”あいよ!ありがとうございま~す!ありがとうございもぁ~す”と、その男の声は店内にいる他の男どもに共鳴した。
奥から一人の男が近づいて来た。
”失礼いたしやす”と、ペコッと頭を下げた。胸元のネックレスが振れたのが見えた。
すると男は頭を下げた勢いのままおもむろに”それ”を取り出した。
えっ!?・・・・・・・ウソだろ・・・。
あまりの事に声も出なかった。手際が良いのだ。正に職人技。だが、驚いている暇などどこにもなかった。いよいよ次は自分の番なのだ。
”失礼いたしやす”
男は相変わらず手際が良い。私が済ませた瞬間にはすでに男の手がにあった。
ごっついその手にとても似つかわしくないしなやか、かつ、繊細でスピーディーな動きは間違いなくひよこ鑑定士。更には、寿司職人を彷彿とさせる重量に合わせた適度な握り。そしてまるで残量を掌握しきってているかの様な的確な飛ばし。青春の光り輝く汗を思わせる様な弾き飛ばされた黄金色のしぶきは、全てが完璧にその白い枠内に収まり私の出番は終わった。
店から立ち去ろうとする私に、容赦のない
”ありがとうございましとぁ!”が飛び交う。
とんでもない、ありがとうを言うのはオイラの方さ・・・。
そう呟きながらお店を後にした。
それにしても最高だった。最高のサービスだった。次回は是非とも、
”大”
をしたいものだ。
ありがとう、また来るよ、
”サービス付き高齢者向けおトイレ”さん。
終わり