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三十路炎帝が始める第二の人生  作者: 空島 あき
プロローグ ~旅立ちに至る経緯~
1/12

第一話

初めて書いた小説になります。

少しでも楽しんでもらえれば嬉しいです。

 木々が生い茂る森の中を、一人の男が歩いていた。

 燃えるような赤い髪と瞳の男だ。歳は二十代前半くらいだろうか。端正な顔には満足げな笑みを浮かべ、狩りの成果であろう、大きな雄鹿を担いでいる。

「久々の鹿の肉だ、アリスのヤツが喜びそうだな」

 太陽のように輝く笑顔を浮かべる娘の顔を思い浮かべ、男は満足げに呟くと、家に向かう足を少し速める。

「ん……? あれは……」

 家に帰るその道中、目に留まったのは、この辺りでは珍しい山菜だった。

 あまり肉が好きではないもう一人の娘は、この山菜の揚げ物に目が無いのだ。普段あまり表情を変えない娘だが、この山菜を食すときと新しい本を持ち帰ったときには、瞳に満足げな光が宿るのを男は知っていた。

 これは良い土産できたと、山菜を摘もうと腰を屈めたその時――


 ――ドォォ……ン


 離れた場所で重低音が響き、地面がわずかに揺れる。

 男は体を一瞬硬直させ、鋭い視線を走らせると――馴染みのある魔力を二つ感じ取り、肩を落としてため息をつく。

「はぁ…………またか」

 原因に心当たりがあるのだろう。男は山菜を素早く摘み腰のポーチへ入れると、ゆっくりと立ち上がり音の発生源へと歩き出していった。






「こんのーー!!」

 裂帛の掛け声と共に、輝くような金髪の少女が大きく振りかぶった拳を振りぬく。その先にいたのは、夜を凝縮したような黒い髪の少女だ。

「……甘い」

 黒髪の少女は言葉と共に右手を突き出し、その手の先から黒い障壁を作り出す。

 金髪の少女の拳はにぶい音とともに障壁と衝突するが、障壁はびくともしなかった。さらには障壁の表面より槍の穂先を連想させる鋭利な刃が無数に飛び出して襲ってくる。

 思わず後ろに飛び距離をとった金髪の少女は、ビシッ、と指をさし、黒髪の少女へ抗議する。

「エイリス、ずるい! 魔術を使うのは反則でしょ!?」

「……凶暴な獣を躾けるのに魔術は必須。仕方ない」

 エイリスと呼ばれた黒髪の少女は、ふぅ、とあきれるように首を振る。

 その態度に怒りを覚えたのか、金髪の少女――アリスは、顔を真っ赤にして怒鳴った。

「だれが獣よ!? お姉ちゃんに向かって何てこと言うのよ!」

 どうやらこの二人は姉妹のようだ。雰囲気こそまるで違うが、確かに、その顔立ちは驚くほど似通っている。

 アリスは腰を落とし構えをとると、怒りの篭った目で妹を見据える。

「先に魔術を使ったのはそっちだからね、覚悟しなさい!」

 アリスが体内に渦巻く魔力を拳に集中させると、拳に極光の輝きが宿る。ふっ、と小さく息を吐くと同時に、足元が爆発する勢いで踏み込んだ。

 一瞬で互いの距離を潰したアリスは、その勢いを拳に乗せ、目の前に迫った黒い障壁に叩き付けた。

 先ほどと同じように拳と障壁がぶつかり合い――そして、今回はアリスに軍配が上がる。障壁が砕け散り、アリスとエイリスを隔てるものが無くなる。

 アリスは守るものが無くなった妹へ、とどめの一撃を放つべく再度拳を振り上げる。

「もらったぁ!」

「だから、甘い」

 会心の笑みを浮かべるアリスに、エイリスは不敵な笑みで答えた。

 いつの間にか、エイリスの後ろには新たな存在が出現していたのだ。それは、人の姿を模した、ニメートル以上の背丈がある闇色の巨人だった。エイリスの魔術によって召還された巨人は、大きく肥大化した腕を振るい、アリスの極光の拳に対抗する。

 アリスと巨人の拳が激突した瞬間――拳同士の衝突とは思えないほどの大きな音と衝撃が発生した。

 その衝撃で二人は吹き飛ばされるが、アリスはくるりと空中で一回転すると音も無く着地し、エイリスは巨人に抱えられながらゆっくりと地面に降り立つ。

「やるわね」

「……アリスこそ」

 二人は好戦的な笑みを向け合うと、さらに多くの魔力を練り上げていく。

 アリスの極光の輝きは全身に広がっていき、さらには背中には一対の光の翼が浮かぶ。まるで教会の聖典に描かれている『天使』を思わせる姿は、神々しささえ感じさせた。

 対するエイリスの巨人は、その巨体をさらに肥大化させていき――三メートルにまで達したところで形状が変化していく。腕は四本に増え、それぞれに黒い大剣を持つ異形の姿となった。

 まるで、御伽噺で語られる『天使』と『悪魔』の戦いのような、そんな光景。

 二人の魔力が極限まで高まり、放たれようとした瞬間――


「――やめんか」


 声と同時に拳が降ってきて、アリスは頭に走った衝撃にその場に蹲った。纏っていた極光の輝きも霧散していく。

「いったーーい!? なにするのよ、おじさん!」

 抗議の声と共に見上げると、いつの間にかそこに一人の男が立っていた。

 燃えるような赤い髪と瞳を持つ男だ。歳は二十代前半に見えるが、疲れたような表情と雰囲気のせいで今はもう少し老けて見える。

 おじさんと呼ばれた男――アディルは、ため息と共にアリスを見下ろす。

「なにするの、はこっちの台詞だ。なんだ、この有様は? 庭にでかい穴まであけて……」

 そちらに視線を向けると、アリスとエイリスが召還した巨人が打ち合った結果として、すり鉢状の穴が見えた。この穴を埋める労力を考えると、頭が痛くなってくる。

 その穴を迂回するようにして、エイリスがゆっくりと二人の方へと歩いてきた。アディルが来た時点で魔術は解除しており、闇色の巨人の姿はない。

「……ふふふ、いい気味。やはり、獣の躾はムチが一番効果的」

 小さく笑いながら近づいてきたエイリスへ、アディルは無言で同じように拳骨をくらわした。

 鈍い音をひびかせアリスと同じように蹲ったエイリスが、涙目で恨めしそうに見上げてくる。

「……アディルおじさん、説明を要求します」

「喧嘩両成敗だ」

 ぴしゃりと言い放ち、アディルはあきれた表情で少女たちを見下ろした。

「……で? 今回はなにが原因で喧嘩したんだ?」

「この根暗妹が悪い!!」

「……この獣が原因です」


 お互いを指差し同時に主張する少女たち。この娘たちを引き取って十年――何度と無く繰り返されたこの光景に、アディルはもう一度、深いため息をもらした。


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