第三話 薬草師の仕事
「ん? 朝か...」
俺は目が覚め時計を見ると八時を指していた、そうえば昨日は素材を見に行けなかったから、今日こそは行かないとな。
俺はそう思いながら、顔を洗いに行った。
すると、ドアの向こうからエレアの声が聞こえた。
「シン、朝食の時間だよ、起きてる?」
「ああっ、起きてるよ、直ぐに行く」
俺はそう返事をして、顔を洗い終えた。
「おはよう、エレア」
俺はドアを開けてエレアにあいさつした。
「おはよう、シン、朝食の準備ができてるから食べに来てね」」
エレアは、笑顔でそういい、別の所へ向かった。
そろそろ朝食でも食べに行くかな。
俺は、ドアに鍵を閉めてレストランに向かった。
「はぁー、やっぱ食後はコーヒーだな」
俺は、朝食を食べ終え食後のコーヒーを楽しみながら午後の予定を考えていた。
すると別のテーブル席に座っている客からあることを聞いた。
内容は、この国の薬屋の回復薬が品切れになっていて、回復薬の買い取り額が普通なら一本銀貨三枚なのが、今は銀貨九枚に値上がりしているようだ。
これは稼げるチャンスだと思い、俺はコ-ヒーを飲み干して、自分の部屋に向かった。
「取りあえずは、これでいいかな?」
リュックを背負い、俺は宿を出ようとしたときエレアに弁当のサンドイッチを渡された。
その時も、エレアの顔がほんの少し赤くなっていた気がする。
ついでに、ランク四の薬草師のいる店の場所を聞き出して俺は、エレアに見送られながら宿を後にした。
「えらい賑わっているなー」
市場を見ながらそう言っていると奥に小さい薬屋を見つけた。
「あれか、ランク四の薬草師さんがいるといいな」
そう思いながら俺は、薬屋のドアを開け中に入った。
「おや、お客さんかい? 悪いが今は回復薬は品切れじゃ」
七十代でローブを着た爺さんが、俺にそういってきた。
「いえ、そうではなくて、ここにランク四の薬草師がいると聞いたのですが?」
「ああっそれなら、わしの事じゃよ」
爺さんは、白く長い顎の髭を撫でながらそう答えた。
「今って回復薬の買い取りしてますか?」
「もちろんじゃ、なんせこのレイズニア国の兵士がこの前、東のナテールの兵士と模擬戦をしてそっちの方に使うと言われて、うちの回復薬も全部買っていかれたわい」
爺さんは笑いながらそう答えた、ということはあの噂は本当だったようだ。
俺は試しに回復薬を爺さんに買い取ってもらえるか聞いてみた。
「爺さん、この回復薬を買い取ってもらいたいんだけど」
「なに、それは本当か?」
爺さんは俺の回復薬を見はしたがすぐに、こう答えた。
「おいおい、確かに買い取りはするがランク一の回復薬は、買い取っても銅貨五枚じゃぞ、ランク三なら一本で銀貨九枚じゃけど」
俺は、それを聞いて唖然とした。
ランク三の回復薬だけが、一本で銀貨九枚の買い取りだったのか。
だが俺は与えられた知識の中にランク三の回復薬の作り方は、知っていたので材料さえ買えば用意できる。
ランク三の薬は、粉薬三つに蒸留水を使えばできるようだ、一応普通の水でも作れるようだが、それだと効果は、少し落ちるらしい。
爺さんに後でまた来ると伝え、取りあえず店を後にした。
俺は、市場で乾燥したヒリン草を探していると雑貨屋でそれを見つけ、その値段を見て俺は驚いた。
「十二本で銅貨二枚!?」
つい俺は口に出してしまい、辺りの人から何だというような目線を浴びた。
いや、確かにあまり使われないとはいえ、一応生でも使えるのにこの値段って......
「なにを驚いているんだい? 乾燥しているヒリン草なんてこれくらいが相場だよ」
俺はとりあえず、銅貨四枚で乾燥したヒリン草を二十四本仕入れた。
後は蒸留水だけど、どうしよう。
草は簡単に、しかも大量に手に入ったが蒸留水は売ってなかった。
とりあえず俺はしかたないと思い、近くの公園でサンドイッチを食べることにした。
「わあ、すごいなこれ」
なんと昼食で渡されたサンドイッチを食べようとした時、雀が鳥が集まってきた。
一匹二匹なら、まだよかったのだがどう見ても目の前には十匹近くの雀がチュンチュンと鳴いている。
俺にはその鳴き声が、飯よこせ飯よこせと聞こえてきた。
さすがに、うるさかったので俺は、直ぐに食べ終えてその場を立ち去り、宿に戻った。
「あっ、シン、お帰りなさい」
「ああ、ただいまってそうじゃなかった、蒸留水が湧き出る道具ってあるかな?」
俺は、無いとはわかっていてもダメ元聞いてみた。
「蒸留水が湧き出る道具? その類なら魔道具専門店に行けばあるかもしれないわ」
えー、何それ、魔道具ってスゲーな。
まだあるとわかったわけではないが、俺は魔道具の便利さに驚いた。
魔道具屋の場所をエレアから聞いて、俺は宿を後にした。
「あれ、ここだよな?」
俺は魔道具屋のドアを開けて入ると、いろんな道具が飾ってあったがそこに店員はいなかった。
しかし、そう考えているうちに後ろから声が聞こえた。
「お客さん、何か用ですか?」
「うわぁ!?」
俺は声に反応して驚いた。
「何を驚いているんだい?」
目の前には茶色の髪をした見た感じ十二歳位のボーイッシュな女の子がいた。
「いやぁごめんごめん、ただ新しく作った姿を消せる、隠し身の布の実験をしてたんだ」
「すごいな!? 姿を消せるのか」
俺は目の前の魔道具に見とれていた。
たが、直ぐに俺は我に帰り要件を彼に伝えた。
「え~と、蒸留水が涌き出る道具ってあるかな?」
「蒸留水? ちょっとまってて」
そういい、彼女は棚からアルミ缶位の大きさの筒を取り出した。
「蒸留水が涌き出る筒ならあるよ、値段は金貨一枚と、銀貨五枚だよ」
「え!?」
どうしよう、銀貨なら九枚持っているが金貨は持ってないぞ、これではランク三の回復薬が作れない。
そう思っていると、彼女から意外な事を言われた。
「別にあげてもいいよ」
「え? ホントにいいの?」
「うん、でも条件はあるよ」
「その条件とは?」
そう言うと彼女のどこか緩い感じの表情が、真剣な表情に一変した。
「実はこの筒を使ってあるものを作って欲しいんだ」
「その作ってほしい物とは?」
「蒸留水と解毒薬三つで作れる、ランク三の解毒薬を五個作ってほしいんだ。」
成る程、確かにそれなりの条件だな。
ランク三の薬は飲み薬タイプで、ランク三の薬を作るのに蒸留水と粉薬を三つ使うのだ。
ランク三解毒薬も、一つ辺り銀貨三枚で取引されるのだ。
それが五個ならちょうど金貨一枚と銀貨五枚分だ。
「それで、結局どうする?」
「もちろん、喜んで受けさせて貰うよ、何時までに作ればいい?」
そう聞くと、彼女の表情はまた緩くなり、納期を答えた。
「三日後によろしく頼みます。」
俺はその依頼を受けるのと引き換えに、蒸留水の涌き筒を手に入れた。
俺は道具屋に行き、乾燥したクドミ草を銅貨四枚で二十四本仕入れて、宿に戻った。
「あっ、シンどうしたの? そんなに多くの解毒草を持って」
「実は道具と引き換えにランク三解毒薬を五個作ってくれと言われてね、薬はどこで作ればいいかな?」
「それなら、地下室があるのでそこを使えばいいと思います」
「ホントに使ってもいいのか?」
そう聞くと彼女は、微笑みながら頷いた。
「シンなら使ってもいいよ、それとそこにあるコルク瓶は好きなだけ使っていいよ、元々捨てるみたいだしとにかくお父さんには伝えとくから心配しないでいいよ」
俺はエレアの好意に甘え、地下室を使う事にした。
「さてと、では作りますか」
俺は、ランク三解毒薬と回復薬を二時間で作り終えた。
何故なら正直な話、乾燥させるのに時間をかなり使うが道具屋で乾燥した素材を買うと、かなり早く作れるのだ。
俺は、作った解毒薬と回復薬をコルク瓶に丁寧に詰めた。
そうえば今何時だ?
俺はエントランスに向かって古時計を見たら、ちょうど夕食の時間だった。
俺は、直ぐにレストランに向かった。
「おおっ、今日も美味しそう」
テーブルにあったのは、ハーブのサラダにコーンスープ、そしてメインディッシュのローストチキン。
どうやらサラダとスープは、エレアが作ってくれたようだ。
俺は、味わいながら夕食を食べ終え、直ぐに風呂に入ってベッドにダイブした。
少なくともこの異世界に来て、今日初めて薬草師の仕事をした気がする。
そんな事を思いながら、俺は明日に備え体を休めた。
どうも、黒密Ξです。
次回から、少しづつ戦闘を入れようか考えています。
まだまだ初心者ですが、よろしくお願いします。