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迷宮の危機 01

 

 斧の勇者に殺され一週間が過ぎようとしていた。

 あの日に比べ迷宮は大きくなり、大部屋が5つとなり、それらに通じる通路も10を越え少しずつだが迷宮らしくなってきた。

 そして部下たちも初期に比べて筋力を増し、性能も上がっていた。

 そのモノ達の前には一体の巨体。

 体を硬い装甲が覆い、手先には鋭いカギ爪、口元は赤く汚れ。

 それは真正面へと敵意を向けていた。



『……始めるとするか』

「「「……」」」



 と、重々しい雰囲気を背に。

 とある迷宮にゴーレムとゴブリン、スライムが集まっていた。

 それらの中には少しばかり緊張と期待が混ざり合い。

 先を見据えている。

 それに対し、俺は声を張り上げる。


『行け――開戦だ‼』



 その日、最弱の迷区の主は最強の迷区の主へと戦いを挑んだのであった。




 ◆◆…………◆…………◆◆




 話は遡り数日前。

 迷宮内を岩のゴーレムが歩いていた。

 岩足が辺りの地面に触れる度凄まじい地響きが迷宮を覆い尽くし、岩足が削れて丸みを帯びていく。

 だが、ゴーレムは迷宮の奥深くまで向かうとその場の岩椅子へと腰を掛け。


『ふむ、よくやった』


 と、重い口から放たれた一言で場はひと時静まり、歓声へと変わる。

 ゴブリンの手には岩のグラス、スライムの真下にはお盆が置かれ、どちらにも液体が注がれていた。

 色は薄く透き通り、飲む者の姿を映す。


『カンパイ!!』

「「カンパイ」」


 と、俺のコールに続く部下たち。

 そして各自の飲みかたで液体―ただの水―を飲みこんだ。

 そして、俺は代わりに岩を口に入れボリボリと噛みしめ。

 俺に期待してやまない視線を見つつも今は己の欲望に忠実に従い。


『ご苦労であった。次の方針は後日話すこととして、今は存分に休め』


 と、部下たちに乱暴に語り掛け、俺の意識は揺らぎ薄れて眠気が脳裏に広がっていく。

 人工知能によるとゴーレムの睡眠とはいえ、中身は元人間のためか何も変わらないらしい。

 眼を閉じ、意識を飛ばす。ただそれだけだ。


 ゆえに、俺は眼を閉じゆっくりと気を落としていく。

 思えば、ゴーレムへと転生してから初めての睡眠だ。流石に未完成の迷宮でオチオチ寝ていられるほどのメンタルは無い。むしろ、いつ侵入者が来るかわからなくて怯えていた。

 だが、ようやく小さいながらも迷宮は完成し、入り口から奥深く最後の部屋までかなり遠くすることができた。

 そのためか、安息できそうだ。


『…………』


 その日、俺は久々の眠りについた。





◆―――――――――



 薄暗い部屋の中で一人の少女は泣いていた。

 手元には白い杖と一枚の紙。


「ううぅ……どうして、どうしてわたしが!!」


 手足をバタつかせ、辺りを叩く、叩く、より強く怒りに任せて叩きつくす。

 が、非力な少女の力では床やテーブルや椅子に何一つ傷が付くことも無く余計に彼女をイラつかせていく。


「――どうして、わたしはえらばれたの……! どうして!」


 目は赤く腫れ、頬を涙が流れていく。

 次第に手足に鋭い痛みが押し寄せ、何かをする力さえなくなっていく。


「どうしてなの……」


 諦め声で少女は誰にも聞こえない程に小さく呟いた。

 その日。少女は選ばれたのだった。

 国からの強制的な招待状。

 杖の勇者の役割を。


◆……


 それからは王国の宮殿の中で育てられた。

 何一つ不自由ない暮らしと引き換えに両親は去り、友達も消失した。

 残ったのは忌々しい杖が一つののみ。


「わたしは……どうして……えらばれ――」

「杖の勇者様、およびです」


 と、入り口を開け、銀の甲冑に包まれた男が入ってくる。

 男の名はたしかバルルリだったはず、と少女は思いだす。


「わかり……ました」


 もはや言葉を選ぶことなど無理なことを少女は知っていた。

 そのため、おとなしく男の後ろへと着いていく。

 ――王城最上階、王の間へと。


 部屋の中は広々とし、客用のソファが2つずつ向かい合うように置かれ、それらに挟まれるように透明なテーブルがある。

 そして、それらの奥にはさらに高級そうな椅子と机があり、そこに若い男が座っていた。

 彼の眼は優しく見えるも隣に立つ鎧男とは異なる存在感を放っていた。


「やあ、よく来てくれた。生活はどうかな? 何か困ったことはないかな?」


 と、訪ねられ少女は少し怒りを浮かべるも、すぐに無理やり笑顔を整える。

 そして、教えられたとおりに服の裾をつまみ優雅にお辞儀をし、「何もありません」と答えた。


 それを見て、少し気まずそうな表情を浮かべるも瞬く間にいつも通りとなる。

 そして、今度は隣に立つ男へと視線を向ける。

 それに対して男は膝を折り、深々と礼をする。


「バルルリ君、君からは何かあるかね?」

「いえ、アンリ様は物覚えも早く、予想以上です。この分ですと、歴代を越えていくかと」

「ふむそうかい。まあ、あまり厳しくはしないでくれよ」

「はっ! 承知いたしました、我が王よ」


 と受け答える鎧男の隣で少女はただ一人。

 ――泣いていた。



◆―――――――――



 何かの夢を見ていた。

 少女は嘆き、苦しんでいた。

 これは誰だろうか?


 そして場面が移り変わり。

 少女は少年と喋っている。

 先ほどまでとは異なり幼さは消え、長髪が風に靡いていた。

 そんな少女に少年は何かを喋っている。

 それに嬉しそうに相槌を打ち笑う少女。

 これは誰だろうか。


 これは……



「……ァマ」


 遠い世界から声が聞こえる。

 何かを呼ぶ声だ。


「…ジサマ」


「アルジサマ!」


 そこで俺の眼は覚めた。

 目の前には部下であるゴブリンキングが立ち、俺へと話しかけていた。

 様子を見るに少し焦っているようだ。


『どうかしたか……?』


 眠気で反覚醒状態の脳を働かせて少しずつ覚醒させていく。

 それに対して、ゴブリンキングは


「タスケヲ、クダサイ! アルジサマ! アレカラ!」


 と、叫ぶ部下の姿がそこにあり。

 指し示す方をみると、そこには赤い一体の竜がいたのだった。


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