01
日が昇り少しばかり眩しい世界。
鳥たちは鳴き、小動物が足元を駆け巡る。
そんな何てことないいつも通りの日。
だけど、どうやら、俺は殺されたようです。
足元には切断された腕が置かれ、血の湖が出来上がっている。
腕の先の指先が軽く痙攣していた。
もう片方の腕が軽く悲鳴を上げ、もう一本が地に落ちる。
ふと遠くを見るとそこには俺の主だった杖の勇者様が酷く狼狽していた。
そして、すぐ前には斧の勇者が血で汚れた馬鹿でかい斧を肩に担いで笑っている。
心はまだあるが、もう死ぬのは確定している。
『ったく、雑魚の血が付いてしまったじゃねえかっ! くっくっ、ははっはっあああは!』
『斧の勇者っ! わ、わたしは絶対に許さないっ! あんたを殺してわたしも死ぬっ!』
遠くから杖の勇者様が震えながら言う。
どうにも、俺は彼女に嫌われていると思ったがそうではなかったみたいだ。
今から一年前程、俺は杖の勇者の付き人となり、今日。
斧の勇者に殺された。
だけど、意外と仲が良かったのかもしれない。
「……っ」
声も出ない。
せめて、彼女だけでも逃がさなければいけないのに。
『くくっ、最弱の勇者が俺を殺す? 馬鹿な妄想も大概にしとけっ!』
『わたしも勇者っ、負けないっ!』
二人がにらみ合う。
斧の勇者がじりじりと、踏み出し。
杖の勇者様が、魔石が組み込まれた杖で詠唱する。
ぶつかり合う、二つの波動。
そして、斧の勇者の一撃が、杖の勇者に迫る。
辛うじてよける彼女に襲い掛かる斧の勇者。
そして、斧が少女の後頭部へと向かい。
そこで、俺の意志は途絶えた。
☆~☆~☆~
体が酷くだるく、記憶が混濁している。
視界は真っ暗で何も見えない。
それに、何も感じない、何も動かない。
これが死後の世界なのかもしれない。
斧の勇者に殺されて、杖の勇者も殺される寸前で息絶えたんだったかな。
【迷宮管理権限】
ふと、脳裏にそんな文字がよぎった。と言うよりも、通り過ぎていった。
【起動】
起動?
それはなんだ?
【迷宮の構築を開始】
迷宮?
確か、一回だけ杖の勇者と行ったことがあったような。
獣が住む、宝庫だったかな。
【構築完了】
【迷宮の管理権限が主に譲渡されます】
【迷宮管理権限・再起動】
立て続けに流れていく。
迷宮の管理権限って、確か迷宮の主に与えられた、鍵みたいなものだったな。
と、いうことは、俺は迷宮の主になったのか?
それに、譲渡って。
まさか、獣に転生とか?
【完了】
【迷宮管理権限】
【主の構築開始】
【……を、糧に……します】
最後の方はぼやけて聞こえ。
俺の意志はまたもや途絶えたのだった。
☆~☆~☆~
辺りに白い光が満ちていく。
そして、目の前には大量の岩が散らばっていた。
「これは、なんだ」
と、思った通りの声が聞こえる。
だが、機械質で、どこか人間離れしている。
「俺は、なんだ?」
と、やはり、俺が出した声のようだ。
足元を見ても、大量の岩が積み重なっている。
だが、その一部が真っ赤に汚れている。
まるで、血のような……
『くそっ! なんで、こんなとこにゴーレムがっ!』
後ろから声が聞こえる。
どこか聞いたことがある声だ。
『わたしを守ったの……?』
と、こちらはよく知る声。
だが、姿は見えない。
それにしても、なんだか、背中?がとてもチクチクする。
「やめろ、斧の勇者」
と、言いつつ、背後を振り向く。
すると、そこには斧の勇者が岩に向かって何度も振り落としていた。
そして、岩に隠れる様に、杖の勇者が地に座り。
こちらを見ている。
『ば、化け物っ! なんで、壊れねえんだよっ!』
『あ、ありがとう?』
と、二人がそれぞれ言う。
それにしても、まさかとは思うが。
どうやら、俺はゴーレムになってしまったようです。
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