ぷろろーぐは地獄の始まりで
「ほんぎゃああ!」
視界が白くなって落ちついたと思えば、木でできた天井が見えた。赤子のぐずった鳴き声が聞こえて、五月蝿い。
喉がからからに乾いて、ひどく空腹である。
俺は耳を塞ごうと手を動かすが、上手い具合に動かない。寝返りさえ打てないのだ。どうなってる?金縛りというやつか?
そうこうする内にダークグレイの髪、翡翠の瞳の美女が現れ、俺を抱き上げた。あら?抱き上げられただと!?
そんな馬鹿なことがあるだろうか、いや、ない。待て待て待て、はっはっはー。これは何かの冗談だ。そうに違いない。
そもそも、俺から見た彼女は大きい。いや、俺が縮んだのか。そんなはずは…。すーはー、すーはー、ビークール。落ち着こうぜ、俺。昨日までのことを思い出すんだ。うん、無理だ。思い出せん。
今、気づいたけど、目の前の女性はぎゃーじんさんか!
え?てことはここは日本じゃないの?俺、拐われたわけ!?
あ、違うわ。思い出したわ。俺は死んだんだった。死んだはずの俺が何で、息をしているんだろう。死んだのは錯覚だったのだろうか?でも、さっきまで自分の葬式に参加して、遺産を巡って骨肉の争いを繰り広げる遺族達の後ろでハッスルしていたから死んだのは間違いないんだよな。
生きてたら、ちゃぶ台返してたろうし、頭の血管が確実に切れてたわ。そもそも、俺を殺した犯人はいけしゃあしゃあと、三文芝居をしながら嘘泣きしてるしね。警察には自然死と判断されたから、証拠となる俺の遺体が焼却されれば証拠隠滅完了してしまう完全犯罪である。ダイイングメッセージを残す暇はなかった。
祟り殺してやろうと思っていたのに、残念だ。残念と言えば、結局遺産争いの結末を見届けることができなかったんだった。あいつらの生涯に不幸あらんことを全力でお祈りします。
頭からバキュームで引っ張られるような感覚に襲われて、気づいたら、この状態だったのである。
目の前に乳房が近づいてきて、俺は漸く、五月蝿く泣きわめく赤子の正体が自分だと気づいた。何てこった。俺は自分の鳴き声に悪態をついていたのか。
どうも俺は記憶を持ったまま、所謂、小説なんかで流行りの転生をしてしまったらしい。
正直、流行の波になんて乗りたくなかった。だって、世の中知らなかった方が幸せなことが多いんだもの。記憶を消し忘れるなんて、雑にも程があるだろう。殺されるような悪い奴にも人権があるんだぜい?神様とやら。
身体は正直なもので、んぐんぐ、母乳を飲み干す内に今度は睡魔に襲われて、俺は深い眠りについていた。